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「ぴあーにゃ!」
「な、なかなかかわいいじゃないか、アリエッタ……」
通じもしないのに引きつった笑顔で、まるで父親の様な褒め方をするピアーニャ。その恰好は、なんとアリエッタの魔法少女の様な服の色違い。朝の早くから大人達に体を洗われ、髪をツーサイドアップにセットされ、服を無理矢理着せられ、憔悴しきった状態でアリエッタを待っていたのだ。既に精神的な意味で瀕死である。
しかも今はホールにいる。シーカーの総長であるピアーニャを見たほとんどの人は、驚き、二度見し、必死に笑いをこらえている。
「うぐぐ……なんでわちが……」
改めて状況を把握し、羞恥に顔を染めて俯く。そんな様子を見たアリエッタはというと……
(ぴあーにゃが泣きそう! 沢山の大人に囲まれて緊張してるのか? ここは僕が慰めてあげねば!)
気合を入れて勘違いし駆け寄ると、小さな妹分を抱擁して優しく撫で始める。
その光景を見て、多数の人が噴き出した。
(よしよし、不安だったのかな~?)
「うぅ……」(なんでこうなる!? ってゆーか、わらったヤツら、あとでおぼえてろ!)
わなわなと肩を震わせるピアーニャ。それでアリエッタは泣いていると勘違いし、がんばって抱き上げてミューゼの下へと戻り、心配そうな顔で見上げる。
抱き上げた瞬間に、噛み殺しきれない笑いがホール中から小さく聞こえ、我慢できなくなった者は口を押えながら施設から全力で脱出していく。受付嬢などは逃げられず、涙目になりながら必死に堪えていた。
「あはは……みんな逃げていくのよ」
「総長の見た目をバカにすると、本当は怖いからね……新人とかそれでボッコボコにされるのが恒例だし」
もうすっかり慣れていたミューゼとパフィは、しみじみとその様子を眺めていた。
ちなみに2人が普段ピアーニャを揶揄っているのに物理的な反撃を食らわないのは、常にアリエッタが一緒にいるからである。ピアーニャの『子供にそんなところを見せるのは良くない』という人道的な考えと、『そんな事したらアリエッタに放してもらえなくなるかもしれない』という恐怖が、2人の身を守っていた。
「大丈夫よアリエッタ。ほらピアーニャちゃんを降ろそうね~」
「だいじょうぶ?」
一旦アリエッタを撫でてから、ピアーニャを受け取るミューゼ。すかさずパフィが語りかけ、アリエッタの注意をピアーニャから外す事に成功した。
そして「ピアーニャちゃん」の一言で、苦しそうに震えながら体をよじる人が続出する。
「総長無事ですか?」
「ぶじなもんか! はずかしすぎるわ!」
「それじゃみんなでお出かけしましょうか」
「きいておいてスルーすんなっ」
ピアーニャを加えた4人は、本部から出る。もちろんアリエッタとピアーニャは手を繋いでいる。
外で息を切らしていたシーカー達は、うっかりその光景を見てしまい、再び噴き出して半分ほど散り散りに逃げていく。残った者達はうずくまって震えていた。
ミューゼはアリエッタのもう片方の手を取り、先導するパフィについていく。
「それじゃ総長、さっそくお昼にするのよ。どっち行けばいいのよ?」
(お腹すいたな~。ぴあーにゃもお腹すいてるかな? 零さないように見ててあげないとな)
アリエッタにとっての恥ずかしくも楽しいひと時、そしてピアーニャにとっての屈辱の1日が始まったのだった。
「ふぅ~、美味しかったのよ」
「仕事のお金で食べる高級料理はたまんないねー♪」
「おまえら……」
「ん……けぷっ」(もうこれ以上むり~満足満足)
満足しきった顔の3人に対し、不満を露にするピアーニャ。その理由は……
「アリエッタったら、総長の事を甲斐甲斐しく世話するもんだから、すっごい生暖かい視線が集まっちゃったね」
「うぅ……なんにんか、わちをみてわらってたぞ……」
「2人とも可愛いから仕方ないのよ」
小さな女の子が頑張る姿は、清楚なレストランの空気を和やかに変えていた。たまに「がんばれっ」という声援が小さく聞こえた程である。
レストランを後にした4人は、そのままエインデルブルグを散歩することにした。
「さて、アリエッタが興味を持つ物でもあれば良いけど……」
「筆とかに食いつくのは間違いないと思うのよ」
目的はアリエッタの事を少しでも知る為だった。
歩きながら顔色と視線を注意深く観察し、まずは好みや興味から知り、あわよくば記憶に残っているモノでも見つかればと思っていた。しかし……
(うわ~あの球浮いてるけどなんだろう。あの人…人?真っ黒だ。アニメで観た犯人みたい。うわっ、建物が浮き上がった! 凄いなぁ……)
「……え~っと、全部に興味持ってるのよ?」
「う、うむ。みるものすべてが、めずらしいのか」
「総長の資金で王都ごと買っちゃう?」
『いやいや……』
興味の対象が全てともなると、何の参考にもならなかった。
「そりゃ魔法を知らないんだから、珍しくて当たり前なのよ。ミューゼの魔法にも敏感に反応してたのよ」
「そういえばそんな事もあったねー」
前世では魔法や異種族は空想でしかなかったアリエッタにとって、人も物も全てが興味の対象である。手を繋いでいなければ、いつ飛び出してもおかしくない。
「さくせんしっぱいだな……こんなカッコウまでしたのに」
羞恥から逃げる為に早く諦めたいピアーニャだったが、アリエッタの興味は増える一方である。
キョロキョロするアリエッタの手を引き、のんびりと歩を進めて行った。
「ん~……」
突然ピアーニャが周囲を気にし始め、小さく唸る。
「総長どうしたのよ?」
「トイレですか?」
「ちがうわっ。そうだな、アリエッタをあそこにつれていってやるか」
しばらく歩き、やってきたのは大きな施設。その上部からは、アリエッタが王都に来た時に遠目に見ていた光の帯が、空に向かって伸びている。
(なんだろう、ここに入るのか?)
「ここはなんなのよ?」
「あ~パフィは初めてなのね。まぁアリエッタと一緒に楽しもうよ」
ミューゼとピアーニャの案内で中に入り、受付で手続きをする。その間、パフィがアリエッタを預かり、そのまま奥へと案内されていく。
たどり着いたのは小さなドーム状の部屋だった。
「で、何しに来たのよ?」
「すぐに分かるよ」
そう言った途端に床の一部が光り、その光が4人を乗せて浮き上がる。そして天井がフッと消えた。
「わ~!?」
「なになになんなのよ!?」
アリエッタとパフィが驚き、ニヤニヤしているミューゼとピアーニャ。
この施設は王都エインデルブルグの上空を行き交う光の帯の中を移動する駅のようなもので、他のリージョンからの来客の観光スポットにもなっている。
空中を移動しながら王都を上から眺めるアリエッタとパフィは、口を開けて目をキラキラさせている。初めてではないミューゼも、同じく感動していた。
「おー! うぉー!」(すごい! いい眺め! 変なモノがいっぱいある!)
「さすが王都は広いのよ~。アリエッタも嬉しそうなのよ」
目に見えて喜んでいる姿を見て、3人は微笑む。
見た目は光る床部分しか無いが、薄い光の幕が落下を防止している。そしてアリエッタにとってはその幕すらも珍しい。ピアーニャを巻き込んで騒ぐお陰で、ピアーニャも苦笑い。
しばらく空の旅を楽しみ、いくつかの空中施設を経由して、地上に戻っていった。
出発した施設とは違う場所に降りた一同。ピアーニャは辺りを注意深く見まわし、残りの3人はキョロキョロと辺りを見渡している。ピアーニャ以外は現在地が分かっていない。
「よし、このままモウヒツでもみにいくか」(これくらいはなれれば、だいじょうぶだろ)
「もうひつ?」
「なーんだ、お店の近くに来たのね。アリエッタ、行くよ」
楽しく?歩みを進める4人からだいぶ離れた屋根の上に、アリエッタとピアーニャを睨みつける1人の人物が、疲れ切ったまま身を潜めていた。
「ぜぇぜぇ……げほっ。くっそぉ……逃がすかぁ……」
その頃のリージョンシーカー本部。
「ああそうだ、逃げるヤツが続出したんだ」
「逃げられずに延々と苦しめられた者達もいた」
「息をする事すら出来なかったんだ」
「数人が縄のように体がねじれて死んでいたらしいぞ」
「あ、それ俺だわ」
荒れ果てたホールを掃除する受付嬢が数人と、まばらに残ったシーカー達。
ピアーニャ達が出て行ってから、しばらく全員がまともに動く事が出来なかったものの、ようやく落ち着きを取り戻していた。そして、疲れ切った顔で話している。
「しっかし、しばらく酒の肴には困らねぇな!」
「下手すると笑い死ぬけどな~」
「いやー可愛かったわ。あの『お姉ちゃん』の子なんか将来が楽しみだもの」
「総長がおそろいの子供服だぜ? ぐふふ…ははははは」
「あの子はグラウレスタで総長と一緒にいた子だろ? どんな関係かはわかんねーけど、とりあえずオレらにとって面白い事だけは判明したなっ」
そしてひとたび誰かが思い出し笑いをすると、連鎖的に笑いが広がっていく。受付嬢達も含め、当分の間、笑いの絶えない職場となるのだった。