テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
2件

さかなさま…完結してから感想を…と思っていたのですが、好み過ぎて面白過ぎて待てませんでした 本当に、こんなどストライクなお話が拝読できるなんて感謝しかありません 色々な事が紗幕の向こうにある感じでワクワクしております 過去の事や、💛さんの会社での今後とか、🩷さんはどうなってしまうのか…楽しみです そして、🩷さんの翼の描写が好きです 手も大きい方だから、なんとなく翼もそんなイメージで想像してます
ジリジリと夕陽が海に散らばっていた。
潮風は夕陽の暑さでダメージを受けた肌を優しく、しかし強く緩和してくれる。
その風の音と波のさざめき、うみねこの鳴く声のみが聴覚を支配していた。
前を歩く彼の背中と自分の間に、超えられない壁を感じていた。
横断歩道に差し掛かったその時、前を歩いていた彼がくるりと振り返った。
誰?
そう思っているのに、ここにある『自分』は昔から知っていたかのように、受け止めていた。
だから…自分は彼よりもいち早く、迫る影に気づいていた。
凶器と化した唸り声を上げる牽引トラックに。
自慢の声量で叫んだこの声も 暴力的なその音にかき消された。
………◼️◼️◼️◼️!!!
その瞬間、伸ばしかけた手に、あまりにも生ぬるい液体の衝撃を感じた。
「ワーーーーーーーーーーーッッッッッッッ!!!!!!』
叫び声を上げたのは自分だった。
飛び起きて、収まらない呼吸。
体が少しピリピリする。
なんなら寒気もする。
身を震わせているうちに、夢とは違う朝の光が手元を照らしていたことに気づく。
確かに今の家にあるブランケット。
辺りを見回せばいつも通りの景色。
に、天使の心配そうな顔。
…相変わらず白飛びしそうな白学ランと視界を覆い尽くすでっけえ翼。
「大丈夫そ?すごい魘されてたけど」
天使、もとい勇斗はソファの座席から自分の腹のところに腕を乗せて問いかけた。
「あ、大丈夫大丈夫、、、」
とはいえまだ心臓がバクバクしている。
心臓が痛い。
頭も金槌で叩かれている気分だ。
不思議そうな顔をした天使は突然こちらの額に手を伸ばした。
「冷たっ、何してん。やめろお前」
「熱出てたから」
「は?」
しれっといった一言に舌を巻いた。
言われてみれば起きて数分経った今もちょっと身体から熱さを感じる。
「本当は昨日から出てたけど。だいぶ汗かいたからもう下がるんじゃない」
「あ、そう…」
「ベッドでちゃんと寝た方がいいよ」
「うん…そう…か」
そこまでいって、突如大声を上げた。
「うるさっ。何お前」
「仕事!!!連絡してない!!!!」
「俺がした」
「あ、うん・・・ん?」
聞き間違いかと思い再度きく。
「この松尾部長、ってとこにかけたよ」
…直属の上長に連絡は社会人の基本だろうが!!!!!!!!!
「それ上司じゃねえよ!!!!!」
「お前の上司なんか知らねえよ」
苦笑しながらそんなことを言った。
…まあそうか。
「…えっ?じゃあ俺会社行かなくていいんじゃね?」
この世の幸福をかき集めたような朗報を感じたのも束の間、バイブ音に飛び上がった。
画面を見れば、やはり直属の上司だった。
…一気に気分は重くなった。
「こいつ?あーさっきからかかってきたような…」
勇斗がそういった直後…突然スマホを掴み取った。
そして……容赦なく赤ボタンを押し、電源を切り、ソファーにぶん投げた。
思わず唖然と見送るこちらを他所に、勇斗は伸びをした。
「…さ、仁人はベット入ってな。まだ体調悪いっしょ」
「いや待って待って待って待って待って待ってちょっと待って」
慌てて勇斗の肩を掴んだ。
「追いついてない、何?え、今ナチュラルに電話消したよね??」
「ストレスの根源は離すこと、メンタルヘルスの基本じゃん」
「話し方とかなんかあるじゃん、お前の頭羽毛で詰まってんのか」
「とにかく」
勇斗が強引に遮って肩に置いた手を下ろした。
「お前はちゃんと休んでいい理由がある。今は休まないと。これは神様の思し召しだよ。俺がいってんだから間違いない。知らんけど」
「発言にもっと一貫性を持てよ。…わかった」
けど、割と体は元気だ。
ちょっと熱っぽいけど、むしろ寝たから身体が楽になり、ちょっとぐらい動いても良いと教えてくれているようにも感じた。
「…あ、そうだ」
勇斗が声を急に上げた。
「仁人の寝室にこれ見つけたんだけど」
そういってなかなか質量のあるものを「よいしょ」とやや変わったものを取り出した。
「うわ!!懐かしい!!」
思わず声を上げて駆け寄ると勇斗は「うるさっ」と顔を顰めた。
ゴト、とハードケースの中で揺らいだものはいとも容易く中身はイメージできた。
嬉々としてテーブルの上に横たわらせると、宝箱を開ける時のような高揚感を持って金具に指をかけた。
その宝箱からは艶のある木製のアコースティックギターが現れる。
勇斗も覗き込んで感嘆の声を上げる。
「やば!これお前の?」
「そう!昔仲良かった2人組にいろいろ教えてもらってさあ…あれからずっと閉まってたけどまだ使えそうだなこれ」
思わず熱が籠る声に勇斗はフッと笑って翼を軽くゆらめかせた。
「…聞かしてくんないの?」
「は?」
「いや、なんか弾いてよ。例えば…この前机の上に置いてあった曲とか」
そういって窓の方を指差す。
…窓?
窓でひらひらと揺れる布切れを見て、少し考えて…みるみる顔が熱くなっていく。
「なんで知ってんの?!???!!」
「天使だから」
「黙れお前!!!!いつまでもそれが免罪符になると思うなよ!!!!!」
思わず声を荒らげてもこの意地悪い天使はニヤニヤするばかり。
「いいから。なんか弾いてって。あ、もちろん弾き語りだから」
「注文多…」
まあ、いいけどさと言うと勇斗はパチパチと拍手をして俺の座っているソファーの目の前に体育座りした。
…狂った調弦を直すにも一苦労。
なのに、この手間がとても心地よく感じる。
そして全ての準備を終えて指にピックを持つと、爽やかで翳りのあるコードをかき鳴らした。
「仁人歌うまいね」
勇斗の第一声はそれだった。
「そりゃあ…好きだからね」
「曲、やっぱ自作なんだね」
ギターを片手にポツポツと話した。
「…ずっと前に俺の曲好きって言ってくれた人がいるんだけどさ、そいつが初めて聞いてくれた曲なんだよね。それからも定期的に聞いてくれてたなあ…律儀に…」
「…その人のこと、今も好き?」
明らかに勢いを無くした勇斗からの質問に思わず顔を上げた。
見定めるような顔でじっと目を見つめる勇斗に首を傾げて答えた。
「いやーそれがねえ思い出せないんだよ。俺も誰のこと話してんのかわかんないくらい。でもすげえ嬉しかったから覚えてる」
そして話してて、あることに気がついた。
「…もしかしたら…うーん、でも女の子じゃなかったしなあ…好き、に近い感情はあったかも。種類は別として」
「ふーん」
勇斗は立ち上がって、「元気出たから洗濯干してくるわ」と言った。
その後に言った言葉を聞き逃さなかった。
…やっぱ、好きだな。
「あのー、勇斗さ…ずっと気になっていたんだけど」
そう、ずっと疑問に思っていたこと。
「…どこかで……」
その時、脳の奥からズキ、とひび割れたような痛みに皺を寄せた。
「大丈夫?寝てな?」
勇斗はそれだけ言うと、背中側からブランケットを掛け直した。
その後ろ姿を見送りながら、ふと違和感を覚えた。
…あいつ、昨日より透けてないか?
気持ちの良い青空から、今日は素晴らしい洗濯日和であることは確かだった。
洗濯をバサ、と膝で叩こうとしてそれはすり抜けてしまった。
あるはずの膝を透過するように虚しく靡いた服を見つめる。
…いや、まだ大丈夫。
そう言い聞かせて腕を伸ばし、洗濯鋏に挟む。
青空にたなびいたそれを見つめて窓を閉めようと窓の取っ手に手をかけるも、それもまたすり抜けた。
「…」
むしゃくしゃした気持ちを発散するように何回か掴もうと腕を振るも、虚しく透過していく。
仕方なく目を閉じて指に全ての神経を集中させ、それはやっと冷たい感覚を掴んだ。
…本当の終わりが近づいているせいなのか。
家の奥から微かに聞こえる優しい歌とギターのサウンドに耳を傾けた。
「……早いって…」
漏らしたその言葉は少し悔みを孕んでいた。
今朝、柔太朗と潤を送り出してから届いた、とある社員のメールに送られてきたデータ。
それをUSBに移し替える。
バナーが100%になったことを確認して抜き取り、書類を片手にデスクから立ち上がった。
「ちょっと出てくるなー、もしなんかあったらいつでも電話して」
人事部のメンツにいつも通り柔らかい声でかけると、足早に廊下を歩く。
「タカシ〜お疲れ」
「あれあれあれ芭蕉ですやん」
「お疲れ様です!」
同僚や部下に口々に挨拶をされ、「お疲れ〜」とにこやかに返した。
…ほんまにええ子達ばっかりやわ。
朗らかな気持ちでいた その視線は、ある部屋に辿り着くと鋭く光った。
2回、ノックをして返事が返ってくる。
「失礼致します」
そう声をかけていつものように笑みを浮かべた。
「お忙しい中申し訳ございません。一刻も早く対応したいことがございまして…、……。」
正式なフォーマットに書かれた被害の報告書。
不眠、自殺念慮、胃痛、などの心身に及んだ健康被害。
つい最近のものと思われる、主に精神的なハラスメントの動画。
無視、怒声、無理な残業の要求。
そして風紀を大きく乱す証拠写真と横領の記録。
…これだけ重大なアクシデントの証拠がある以上、もう看過できない。
そしてその晩、突然の人事異動に吉田家からは2つの奇声が上がった。