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やることなすこと全てが上手くいかない。自分が納得しないまま演技を終え笑顔を振りまく様は動物園のチンパンジーのようで滑稽に感じる。


今日もフリーライブを終え、おかめは思いふけっていた。なぜ最近のパフォーマンスは納得がいかないのかと。

ダンスの練習やストレッチ、家に帰ってもその思いはずっと心に根を張っていた。

好きなゲームやお酒も楽しめなくなるほど脳裏に浮かんでくるのである。もはやこの考えのせいでノイローゼにでもなりそうな勢いだった。

気分転換にエゴサでもしよう。共犯者の声を聞けば気持ちが軽くなるかもしれない。

しかし、


『今日おかめさん不調だったのかな?』


『おかめさん最近お疲れ気味なのかな、あまり目を引かれなくなった』


などというコメントがあった。

もちろんいいコメントも沢山あったのだが、どうしてもこれらのコメントが頭の中を支配する。


「はぁ」


知らないうちにため息が出ていたみたいだ。

思考が小さく纏まってしまっている。何をしても今はダメみたいだと痛感した。


いっその事オーメンズ自体辞めてしまえばいいのでは


こんな考えが頭をよぎった。正直逃げてしまいたい、期待されるのが怖い、裏切ってしまうと考えると余計恐ろしかった。心做しか指先が震えてるように感じた。本当は震えていなかったかもしれないが、そう感じるほどおかめの心を蝕んでいた。

こんな悩みなんてあまりしたことがなかった。


「何年人間やってきてんだよ」

と思わず愚痴る。


参る時は参るんだと切り替えるよう意識したものの月日が経っても一向に回復の兆候は見られない。

本格的に脱退を考えようとしていたその時だった。スマホに通知が来たのだ。だるくて今は軽く無視を決め込もうと思ったが、考えとは裏腹に身体はスマホのロックを解いていた。


『急で申し訳ない。おかめ兄さん、明日予定がなかったらスタジオに来れる?みんなも来るんだが』


般若からのメールだった。

強制じゃないからいかないでおこうかなとも思ったが、辞めるとみんなでダンスすることもないため、思い出作りにはちょうどいい


『了解、 明日楽しみにしてるよ』


そう軽く返事をした。



スタジオに向かう途中隈取とばったり会ったため、一緒に行くことにした。


無言、とても気まずい。普段なら沈黙も落ち着く相手だが、どうしても落ち着かなかった。お得意のマシンガントークを繰り広げてしまおうかと思った矢先隈取が口を開いた


『おかめのやりたいようにやれ。ダンスは衝動だ、深く考えるのも時には大切かもしれないが、根本を忘れるなよ』


突然の事でマイクラの村人みたいな声しかあげられなかった気がする。

根本って?と聞く前にスタジオについてしまった。しょうがないとごちる。


「おはようございます」


スタジオに入ると狐がストレッチしながら挨拶してきた。

それに対して軽く返事をし、適当にストレッチをするとおかめは練習に取り掛かった。さすがに遅れをとる訳にはいかなかったからだ。

2〜3曲終わったあとスポドリを2本持った狐が寄ってきた。はいと1本をおかめに渡しながら呟かれた。


「おかめさん、ダンスは感情ですよ。理屈なんてほっぽり出してしまいましょう。」


正直は?と言いたかったが、すんでのところで留めた。唐突に何言い出すんだこいつは。しかし、当の狐はおかめの心情などつゆ知らずそのままスポドリを流し込んで練習を再開してしまった。さすが宇宙組の片割れ、何考えてるか分からない。


その後練習に夢中になっていたが、やはりどうしてもパフォーマンスが前より良くないと感じてしまう。悶々としながらまた練習に取り組もうと立ち上がろうとしたその時背中に強い衝撃を受けた。

目を白黒させてるとハハハと楽しそうな笑い声が降ってきた。


「阿形どうしたの」


「別にー?構って欲しかっただけ!」


この末っ子はどこまでもお子ちゃまのようだ。少し微笑んでいると


「あ、ようやく笑った!」


と言われた。

心配かけてしまったのだろうか、不甲斐ない

と思っていると


「そんな深く考えなくていいんだよ。みんなの理想なんか壊せばいいんだよ!マスコットキャラクターじゃあるまいし!」


そうニコニコしながら話終えると、隈取に呼ばれたようで慌てて退散していった。

やっぱり宇宙組は不思議だということをいやでも再認識してしまった。


もうスタジオの借りている時間が迫ってきた。名残惜しいが帰り支度をしていると


「おかめ、ちょっといいか?」


と般若に呼び出されてしまった。


「おかめパフォーマンスが落ちてるな。」


そう告げられたが、その言葉はおかめをどん底に突き落とすには十分すぎた。


「……ごめん」


「謝って欲しいんじゃないんだ。えぇと…」


般若が言い淀んでる。これは確実にトバされる。視界が滲んできた。だけどキッと地面を睨んで堪えようとした瞬間。肩を捕まれ反射的に般若と目が合った。

そこには冷酷な眼差しではなく、慈愛と少し困ったような眼差しだった。


「俺の話の切り出し方が悪かった。おかめに謝らせるつもりなんてなかったんだ。よく聞いて欲しい。

パフォーマンスはいつか衰えてしまうものだ、だけどおかめは違う。違うところで踏みとどまってしまっただけだ。」


「なら!何が原因なんだよ!俺の事をわかったような口聞くなよ!」


柄にもなく怒鳴ってしまったと、サーっと血の気が引いた。もうおしまいだ。


「おかめだけじゃない、俺もみんなも誰しもが経験することだ。みんなの言葉を思い出して活力にして欲しい。」


みんなが言った言葉…


「あ」


なんだ、簡単じゃないか

それまで根を張っていたのがあまりにもくだらなく思えて来て笑いが込み上げてきた。


いつの間にか般若は出口に向かっていた。


「俺からもひとつ、最近色んなものに縛られすぎてないか?ルールに則るのもいいが、せっかくの羽がもがれてしまうぞ、飛べおかめ!」


涙が出ないように必死だった、だけどもう俺は前の俺じゃない。気づいたんだ、気付かされた大切なことに。楽しむということを。


ファンはどうすれば喜ぶかな?などと自分をどんどん封印していってしまった。その結果がどんどん自分の首を閉めていたことに気づけないなんて。


だけどそのどん底からみんなが救い出してくれた。彼らが居なかったらやめていた。そんな未来があったかもしれない。


おかめは強く目を擦ると大股で般若を抜かしながら


「応」


とだけ応えた。


もう前のおかめとは違う。好き勝手暴れてやろうじゃないか。


次のライブはこの曲から踊ろう。そう提案したい。



新人類を。

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