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体育教師,内田雄馬 × 数学教師,松岡禎丞
放課後の廊下。
窓の外はオレンジ色に染まり、部活動の掛け声がグラウンドから響いていた。
体育館から汗をぬぐいながら戻ってきた内田雄馬は、職員室の前で足を止める。
中では、松岡禎丞がパソコン画面を覗き込み、隣には理科教師の佐藤が笑顔で話しかけていた。
(⋯⋯またあの人と?)
胸の奥が小さくざわつく。
昨日も放課後、二人で教材を作っていたと聞いた。
普段なら「仕事だし」と笑い飛ばせるのに、今日は妙に心が波立つ。
「お疲れさまです、松岡先生。」
背後から声をかけると、禎丞は顔を上げて柔らかく微笑んだ。
「おう、お疲れ。⋯どうした?顔、怖いぞ。」
「別に。ただ⋯仲良いんだなって、佐藤先生と。」
「は?何言ってんだ。仕事の話だよ。」
軽く流された言葉に、雄馬の胸の奥がチクリと痛む。
本当はそんなこと、分かっている。
ただ、どうしようもなく独占欲が膨らんでしまうのだ。
それから数日、二人の会話は減った。
すれ違いのまま迎えた金曜の夜、職員室を出た禎丞の肩を、体育館裏で雄馬が強く掴む。
「⋯いい加減、俺を無視すんのやめてくれません?」
「無視なんかしてねぇよ。お前が勝手に___」
「勝手じゃない!」
抑えていた声が、つい大きくなる。
「俺、禎丞さんが誰と話してても平気だと思ってた。でも⋯やっぱダメだ。あの人と笑ってるの見ると、苦しい。」
禎丞は驚いたように目を瞬かせ、ふっと笑った。
「⋯お前、本当に子供みたいだな。」
「笑い事じゃないです。」
「分かってるよ。⋯悪かった。ちゃんと話すべきだったな。」
静かな夜風が二人の間を通り抜ける。
雄馬が一歩近づき、低く囁いた。
「もう、あんな顔見せないでください。俺だけに⋯笑っててください。」
そう言って、強く引き寄せ、唇を重ねる。
長く、深く____
まるで今までのすれ違いをすべて埋めるように。
息を離した時、禎丞の頬は赤く染まっていた。
「⋯こんなとこで、馬鹿。」
「馬鹿でいいです。俺、禎丞さんが好きだから。」
その夜、二人は久しぶりに同じ帰り道を歩き。
そして禎丞の部屋で、互いの温もりを確かめるように甘く過ごした。
禎丞の部屋に入ると、靴を脱ぎ捨てた雄馬がそのままリビングのソファへ座り込む。
「⋯お前、部屋入ってすぐ座るなって、いつも言ってるだろ。」
「早く禎丞さんを抱きしめたくて。」
「……ほんっと、口が減らねぇな。」
そう言いつつも、禎丞はソファに腰を下ろす。その瞬間、雄馬が後ろから抱きついた。
背中に当たる温かい胸板と、首筋にかかる熱い吐息。禎丞は一瞬だけ抵抗を考えたが、諦めて身体を預ける。
「⋯俺、嫉妬で拗ねてたんですけど。分かってます?」
「分かってる。お前があそこまで感情出すの、珍しいからな。」
「だからもう、俺のことだけ見ててください。⋯仕事の時以外は。」
「⋯⋯分かったよ。」
そのあと二人は、簡単に夕食を作った。
キッチンで肩を並べる時間は、何より心が落ち着く。
禎丞がネギを刻んでいると、ふいに包丁を持つ手が止まった。
「⋯なぁ、雄馬。」
「ん?」
「こうやって同じ部屋で飯作って、くだらない話して⋯これからも、ずっとこうでいいんだよな?」
雄馬は微笑み、禎丞の背後に回る。
「もちろん。俺、禎丞さんを絶対離さないです。」
その言葉に、禎丞の胸が温かく満たされる。
食後、二人はテレビもつけず、ソファで寄り添った。
雄馬は禎丞の髪を指先で梳きながら、何度も額にキスを落とす。
「⋯お前、やたら甘いな。さっきまで嫉妬で拗ねてたくせに。」
「拗ねてた分、取り返してるんです。」
「ふ⋯馬鹿。」
夜が更ける頃、ベッドに並んで横になると、雄馬が腕の中に禎丞を閉じ込める。
「おやすみなさい、禎丞さん。⋯夢の中でも、俺の隣にいてくださいね。」
「はいはい⋯おやすみ。」
禎丞は静かに瞼を閉じた。
その夜、二人の間にはもうすれ違いはなかった。ただ、温かな息遣いと、変わらぬ想いだけがあった。
月曜の朝。
体育館で朝練の指導を終えた雄馬は、汗を拭きながら職員室に戻った。
禎丞の席を見ると、まだ来ていない。
(⋯寝坊かな?珍しい)
と思いつつ椅子に座ろうとした時、
廊下の方から「松岡先生!」という声と、慌てた足音が聞こえてきた。
振り向くと、ジャケットの前を閉めもせず、小走りで入ってくる禎丞の姿。
首元には昨夜の名残が、わずかに赤く残っている。
雄馬の背筋が一瞬で凍る。
(⋯それ、見えたらだめなやつじゃ⋯!)
職員室内にはすでに何人もの教師がいた。
「おはようございます〜」と明るく声を掛けた禎丞の方へ、同僚が目を向ける。
一人の若い国語教師が眉をひそめた。
「あれ⋯松岡先生、その首⋯」
(や、やばい!)
瞬間、雄馬は椅子を蹴るように立ち上がり、
「ちょっと!松岡先生!」
と大声を出して彼を廊下に引っ張り出す。
廊下の角まで来たところで、禎丞が不満げに言った。
「おい、何だよ急に。」
「何だよ。じゃないですよ!⋯ネクタイ、ちゃんと締めてください。あと、上着のボタンも。」
「は?⋯⋯あ。」
自分の首元を触った禎丞の表情が一瞬固まる。
昨夜、雄馬に夢中で抱きしめられ、つけられた痕が、まだくっきり残っていたのだ。
雄馬は顔を近づけ、声を潜めた。
「禎丞さん、あれは俺だけの証拠です。他の人に見せるもんじゃありません。」
その低い声に、禎丞の耳がじわりと赤く染まる。
「⋯⋯わ、分かったよ。気をつける。」
「次から気をつけるんじゃなくて、俺が気をつけさせます。」
そう言って、彼はネクタイをきゅっと締め、禎丞の胸元を整える。
距離が近すぎて、禎丞は息を飲むしかなかった。
職員室に戻ると、国語教師が不思議そうに首をかしげたが、
「松岡先生、さっき何か言いかけてませんでした?」
「いや、何でもない。」
そう言って、禎丞は雄馬と視線を合わせずに席についた。
だが、足元ではそっと雄馬の靴先が禎丞の足に触れていた。
(⋯逃がしませんから)という無言のメッセージを込めて。
秋の修学旅行。
行き先は京都、二泊三日。
教師たちは生徒の部屋割りのほか、自分たちの宿泊部屋もくじ引きで決められていた。
出発前日の職員会議。くじを引いた瞬間、雄馬と禎丞は同時に紙を見つめ、固まった。
__「同室」
「⋯⋯お、おい、マジかよ。」
「マジですね。」
互いに小声で呟きつつも、周囲に怪しまれないよう平然を装う二人。
修学旅行当日、夕食後の点呼と見回りを終え、ようやく教師たちの自由時間になった。
同室の部屋に入ると、和室の畳の香りと、ふかふかの布団が二組。
雄馬は荷物を置き、襟元を緩めながら笑った。
「いやー、今日は疲れましたね。⋯禎丞さん、肩揉んであげましょうか?」
「いや結構。生徒じゃないんだから。」
そう言いつつも、禎丞の声は少し緩んでいる。
雄馬は背後に回り、迷いなく肩を掴む。
「力入れますよー。」
「⋯お前、なんでこんな堂々と⋯」
「ここは俺たちの部屋ですから。」
指先に力を込め、ゆっくりと首筋まで揉み上げる。
そのたびに、禎丞の身体がわずかに震える。
「⋯⋯おい、あんまり首の方は⋯」
「昨日、痕消えましたよね?じゃあ大丈夫です。」
「お前な⋯⋯!」
ふと、廊下を生徒たちが走る足音が通り過ぎた。
禎丞は慌てて声を潜める。
「おい、ここ学校行事中だぞ。生徒に見られたら⋯」
「見られなきゃいいんです。」
そう言うなり、雄馬は禎丞の耳元に唇を寄せ、低く囁いた。
「禎丞さん、修学旅行って特別ですよね。だから、俺も特別に甘えていいですか?」
返事をする前に、柔らかい唇が重なる。
最初は軽く、だが徐々に深く___
布団の上に押し倒され、二人は息を乱しながらキスを重ねた。
「⋯⋯っ、馬鹿。ほんとにバレたらどうすんだ。」
「その時は、先生を責任取ってもらいます。」
「⋯逆だろ普通。」
笑い合いながら、布団に身を沈める。
外では夜の点呼が続いていたが、この部屋の中だけは、二人だけの甘い時間が流れていた。
二泊三日の修学旅行も、ついに最終日。
生徒たちはバスに乗り込み、あとは出発を待つだけ。
教師たちはそれぞれの担当バスに分かれて座席表を確認していた。
禎丞は自分の担当バスの最後尾で、生徒の忘れ物チェックをしていた。
その背後に、ひょいと顔を覗かせる影。
「先生。」
「⋯何だよ、雄馬。」
「ちょっと、バス降りてきてください。」
「は?出発前だぞ。」
「すぐ戻しますから。」
半ば強引に腕を引かれ、バスの横まで連れ出される。
まだ生徒たちはおしゃべりに夢中で、こちらには誰も注目していない。
だが禎丞は警戒した。
「おい、何するつもりだ。」
「最後ですから。」
「最後って⋯⋯んっ⋯?!」
言葉を遮るように、雄馬が唇を塞ぐ。
驚きで目を見開く禎丞だが、押し返そうとしても、その腕はびくともしない。
短く済ませると思っていたキスは、思いのほか長く、深かった。
ようやく唇が離れると、雄馬は真っ直ぐな目で言った。
「帰ったら、また会えますけど⋯修学旅行はこれで終わりですから。俺、この特別をちゃんと残したかったんです。」
「⋯お前なぁ。ほんと、そういうとこ⋯」
怒る気持ちも呆れる気持ちも、すべて溶けて、禎丞は小さくため息をつく。
「⋯⋯分かったよ。責任は取れよな。」
「もちろん。」
二人は何事もなかった顔でバスに戻った。
だが禎丞の耳は、到着までほんのり赤いままだった。
じっくりじっくり書いてたらもう1ヶ月くらい掛かってしまった
これからは、声優さんのBLも書いていこうかと
けど、松岡禎丞さん受け以外自分から見ようとは思わないので。
声優好きな人いればいいな⋯