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夏のある日─
僕はとあるところに向かっていた。
「僕達の秘密基地」
僕は佐々木 蒼。
次の誕生日で18歳を迎える
月ノ夜学園祭の高校2年生だ。
そんなある日突然、
僕達のクラスに転校生がやってきた。
廊下の方から聴こえるしなやかな足音。
先生が勢いよく挨拶を
しながら教室に入ってきた。
「おはよー!今日は昨日言って
いた転校生を紹介するぞー!!」
教室に緊張と期待を混じえた空気が漂う。
「入ってきてくれ」
教室の扉を静かに開け、1人の転校生が
空気を遮りながら教卓の前へ歩いている。
「初めまして。早瀬 桃です。
転校してきたばかりで分からないことも
沢山ありますが、よろしくお願いします。」
丁寧な言葉で挨拶をし、空いていた
後ろ側の席に歩いて行った。
どこかで見覚えのある顔つきのような
気がしたが、僕はそんな事は忘れ
1時間目の準備に取り掛かった。
昼休み。
僕が1番好きな時間。
お昼はいつも購買部でパンを買う。
甘いものは脳の疲れを取ってくれると
昨日、テレビで見た。
少し悩みながら、僕は
いつも買っているサンドイッチの隣にある
メロンパンを手に取った。
お気に入りの場所、屋上へ。
ゆっくりと扉を開けるとなんと
そこにはなんと先客が居たらしい。
よく見たら今日転校してきた早瀬さんだ。
早瀬さんは僕を見て少し戸惑っていた。
どうしたのだろう。
「お前、蒼か…!?」
何故僕の名前を知っているのだろう。
僕も驚いていると、早瀬さんが口を開いた。
「俺だよ、桃。覚えてない?」
桃…桃くん?
そういえば小学生の頃、
桃っていう子とよく遊んでいたような…?
でも、中学に上がる直前で
彼の親が転勤することになって
そのまま会えて居なかった。
「もしかして桃くん?」
人違いたったら申し訳ない。
「ようやく思い出したか?」
でも僕には少し疑問がある。
「でも名前”早瀬”だったっけ?」
苗字が違う。
触れていいことだったか、
勇気を出して聞いてみた。
「あぁ、前の父親と母さんが離婚して
母さんの方の苗字になったんだ。」
何があったのか。
触れてもいいことだったのか。
「なんかごめん」
「全然、気になるよな」
彼はそう言ってまた、
持参してきた弁当を食べ始めた。
「なぁ、蒼。」
彼は持参してきた弁当を食べ終わり、まだ
パンを食べている途中の僕に話しかけてきた。
「なに?」
「俺達の”秘密基地”…覚えてる?」
僕達の”秘密基地”_
まだ小学生3年生の頃、
よく僕と桃くんで外に遊びに行っていた。
森の目の前にある小さな公園で
いつも2人で砂のお城を作ったり、
逆上がりの練習をしたりして遊んでいた。
その日、僕達は森の探検に行った。
そこで見つけた小さな小屋。
少し不気味な雰囲気だが、
お互いに意地を張り合い、入ってみることに。
「意外と綺麗だね」
森にある小屋っていったら、
もっと汚くて虫とかがうじゃうじゃいると
思っていたが予想は外れた。
僕達は度々そこに来ては、
お小遣いを貯めて買った漫画や
お菓子などを持ってきて遊んでいた。
ちゃんと掃除したからね?(笑)
「まだ残ってると思うよ」
昔の記憶を掘り返しながら答えた。
「久々に行ってみない?」
今日は部活も委員会もたまたま休み
だから行くことにした。
放課後。
遠くから手を振る無邪気な彼の姿が見える。
「蒼ー!」
変わってないところも沢山あった。
昔のような無邪気な笑顔。
それと僕との身長差。
これはもうどうしようもないのかも…(笑)
「おまたせ、ごめんね。
今日日直だったのすっかり忘れてた。」
先生め、委員会の資料やら学校で配布する
手紙のコピーをとれやらパシリやがって。
どこか少し記憶があやふやな所もありながら
“秘密基地”に着いた。
「だいぶボロくなったな」
お化け屋敷のような雰囲気と
コケだらけな緑の壁は、まさに
「今からお化けが出ますよ」と
言っているようなものだ。
「あれから5年くらい経ってるからね、」
「なんか懐かしいなぁ…」
思い出に寄り添いながらドアを開ける。
「あ、これ…」
桃くんが転校する前最後に来た時、
僕に手紙と花束をくれたんだよね。
どっちかというと僕があげる方じゃないかな。
その花束は家に持って帰らず、
“この場所”に花瓶を置いて飾っていた。
「ずっと飾ってたんだ。」
「うん」
僕の髪の色の花をプレゼントしてくれた
あの頃の君と今の君は変わっていない。
なんでかって?
僕の目の前の彼は今僕に
花束を渡しているから。
花束に似合わない雰囲気を
遮るように彼は言った。
「蒼のことずっと好きだったんだッ…‼︎
俺と、付き合ってくださいッ…‼︎」
少しの沈黙を経て僕は応えた。
「はい…‼︎」
僕はその時、何粒の涙を流したのか。
本当は嫌だった。
桃くんが転校すること、
もう会えなくなること、
“ここ”に来れなくなること。
全部嫌だった。
でも、また会えた。
神様はいるのかいないのか、
信じるのは人それぞれ。
「よろしくお願いします…ッ‼︎」
お互いに涙を堪えながら抱き合った。