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「……はぁ、……はぁ……」
平日の深夜、
秋も終わって寒さが増して冬が近づいている中、私は寒さに身体を震わせながらノースリーブのワンピースに薄いカーディガンを羽織り、素足にサンダルという今の季節には似つかわしく無い、明らかに訳ありな格好で夜道を歩いていた。
逃げなきゃ、とにかく、遠くへ……。
しかも、右頬は赤く腫れて髪も乱れ、身体の至るところに傷があり、正直歩くのも辛い中、私は足を止めることなくただひたすら歩きながら、ある人に見つからないよう身を隠せる場所を探していた。
とにかくひと目に付かないよう、大通りからは遠ざかり、住宅街を抜けて高架下へ差し掛かる道すがら、向かいから人が歩いて来るのが見えた。
ここへ来るまでも、何人かの人とはすれ違ってきたけど、私の格好からあまり関わり合いになリたくなかったのだろう。誰も声を掛けたりはしなかったし、皆足早に通り過ぎていた。
だから今も特に気にすることもなく前へと進んでいき、スマホに釘付けの男の人の横を通り過ぎようとした、その瞬間――
「おい」
「え……?」
「何してんだよ、女が一人、こんな時間にそんな格好で」
彼は通りすがりの私の腕を掴むと、声を掛けてきた。
「あの、……私……」
丁度街灯が照らされている場所で互いの顔がよく見える。
目の前に居る彼は、派手な柄のパーカーとダボッとしたパンツを合わせ、ツーブロックの金髪で左右の耳にピアスをいくつも付けていて、少し軽そうな印象。
年齢は恐らく私と同じで二十代前半くらい。
そんな彼は私の顔と格好を交互に見てくると自身が着ていたパーカーを脱いできて、
「これ羽織れ」
それを羽織るよう私に手渡してきた。
「いえ、そんなっ! 大丈夫です!」
「平気だったらそんなに身体、震えてねぇじゃん。鳥肌立ってるし。いいから羽織れって」
「……すみません、ありがとう、ございます」
このパーカーを脱いだことによって彼はTシャツ一枚という格好になってしまい、自分だって寒いだろうに。
そんな彼の厚意を無下にするのも申し訳ないのでお礼を言ってありがたく羽織らせて貰うと、
「つーか、何か訳ありだろ? ひとまず付いて来い」
訳ありだろうと推測した上で、自分に付いてくるよう言ってくる。
「え? あの、……」
「悪いようにはしない。俺は白鳥 航海。アンタは?」
「……並木……愛結」
「愛結、俺を信じて、付いて来い」
戸惑い気味の私を気遣ってか、きちんと名前を名乗ってくれた彼。
見ず知らずの人を信用するのは危険かもしれない。
普通なら、まずは警察に駆け込むべきだということは理解している。
でも、私にも事情がある。
だから、警察には頼れない。
とにかく今はこの場から離れたい、ある人物から逃げたい思いが勝った私は、
「――はい」
差し出された彼の手を取って、共に歩き出した。