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【青桃】オメガバース

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【青桃】オメガバース

1 - オメガバース 青桃

♥

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2024年10月31日

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⚠︎注意


・iris 青桃 BL


・オメガバース


・青赤、水桃要素含みます










────────────────









🤪side




俺はいふ。どこにでもいる、ただの一般人男性だ。


……この世に存在する、第二性のことを除いては。






🍣「まろ〜、ごめん!今日も行ってきていい…?」


🤪「あ〜…。」



申し訳なさそうに聞いてくる彼の名はないこ。俺の彼女だ。


突然だが、ないこに直接聞いたわけではないけれど、ないこはΩだと思う。


どうやらないこは自分がΩである事を隠しているらしい。

定期的に友人の家に行くもんだから大体察しはついているのだが。



🤪「まぁええけどさ…」


🤪「…その、“りうら”って子はほんまに大丈夫なヤツなんか?」


🍣「大丈夫だって!友達だよ、変なことしないってば。」


🤪「そうは言うても……。」


🍣「…ね、まろ。」


🍣「……ダメ?」


🤪「ッッ………ええよ。好きに行ってこい。」


🍣「ありがとう、まろ!愛してる!」




🤪「……へ、今なんて…」



そう聞く間も無く、玄関からドアの閉まった音がした。


ないこは相当急いでいるらしい。



🤪(ヒート近いんかなぁ…)



一人のαとして、Ω、ましてや恋人のΩに頼って欲しいと思うのは至極当然のことだ。


……正直、欲求不満だというのもある。


だから、今回こそは帰ってきた時に問い詰めてやるつもりだ。









────────────────








ピコン




🤪「ん?」



🤪「……誰や、これ。」



LINEの通知が来たかと思えば、知らないアカウントからだった。

アイコンにも名前にも一切の心当たりがない。詐欺か?


とりあえずトーク画面を開いてみると、衝撃的なことが書かれていた。




🐤『どうも。ないくんの友人のりうらです。』


🐤『突然だけど、ないくんのバース性について気になるよね?』


🐤『都合が合う日に会ってくれたら知ってること話すよ。』



🤪(…こいつがりうらか。)


🤪( 『ないくん』呼びはちょっと…いただけないな。)



しかし近々ないことその話をしようと思っていたところだったので、都合の良いこの話を断る理由もなかった。



🤪『メッセージありがとうございます。是非お話し合いさせて頂きたいです。』


🤪『明日の午後2時はいかがでしょうか?』



送信するとすぐに既読がついた。



🐤『返事ありがと〜。その時間でオッケー。』


🐤『そっちに行きたいから、住所教えてくれる?』



🤪(距離の詰め方エグいな。ほんまにないこは大丈夫なんやろか…。)



少し心配になってきたが、まあ明日会った時にヤバそうだったらしばいておこう。










────────────────






翌日






ピンポーン



🤪「…来たか。」



そそくさと玄関へ向かい、覗き穴から外を確認する。


穴から見えたのは、赤髪のポンパが特徴的な男の子だった。



🤪(うわ〜〜〜チャラそ!!いかにもイキリ大学生って感じやん……。)



昨日の3倍くらいの不安を抱えながら扉を開いた。




🐤「あ〜、あなたがいふさん?こんにちは〜。」


🤪「ど、どうも…。」


🐤「こんなところで長話も何だしさ、中入っていい?」



🤪(いやそれこっちが言うセリフやろ。)



🤪「あぁ、そうですね。どうぞ中へ。」


🐤「お邪魔しま〜す!」



チャラそうではあるが話が通じないということはなさそうで一安心だ。


ただ、少し気になることがあるとすれば。



🤪(なんか、甘い匂いがする…?)









────────────────









テーブルの上にカップを二つ並べて、二人の男は向き合って座る。


牽制が必要そうな雰囲気を感じたので、敬語は外すことにした。




🤪「……で。ないこのバース性について、お前は何を知ってるん?」


🐤「お前って……りうらだよ。それと、あれは何?」


🤪「あれって?」



りうらが指し示した先には、最近溜めていた洗濯物が積み上げられていた。



🐤「ちょっと匂うんですけど。」


🤪「しゃーないやん。置いとけば巣作りしてくれるかもって期待したんに、結局りうらの家に行ったんやから。」


🐤「ふーん。ないくんがΩってことは知ってるんだ。」


🤪「流石にわかるやろ。定期的に友人の家に行くとかモロすぎ。」


🐤「それでこんなアピールまでされて、ないくん鈍感すぎ。」


🤪「やろ!?俺はいつでも準備できてるのに!!」



同情してくれた気がしたのが嬉しくて、酒を煽るようにカップを仰いだ。


本当のお酒ではないのに、飲んだ瞬間頭がふわふわしていくようだった。




🐤「…ないくんはね、いふさんの思ってる通り、ヒートの時にりうらん家来てるの。」


🤪「なんでお前なん?」


🐤「さぁね。強いて言うならりうらもΩだからかな?」


🤪「…は?」


🐤「りうらとないくんは大学時代からのΩ仲間なの。」


🤪「ちょっと待て。…これって浮気って訴えられる?」


🐤「なわけないでしょ。バカ言わないで。」


🤪「えぇ…ひど。」


🐤「それで、ないくんが〜〜」




なんだかさっきから、体がふわふわしている。



🤪「なんてぇ…?」


🐤「……いふさん。」


🤪「なにぃ…。」



🐤「……っ!!」




突然、大きな音を立ててりうらが膝から崩れ落ちた。


りうらが息苦しそうにしているのが伺える。



🤪「どした、りうら、だいじょう…」




ドクン




🤪「っ!?」



🤪(なんだ、これ…?体が急に熱くなって…。)



🐤「いふさ…、助けて…っ!」



バランスを崩して床に倒れたが、りうらの苦しそうな声に顔を上げる。


りうらを見れば、顔を赤くして息を荒げ、今にも泣き出しそうになっていた。



🤪(これってもしかして………ヒート?)



そんなわけない。だって俺は、サブドロップ耐性が異常に強い。

医者にも、「運命に出会うくらいでないとラットにならないだろう」と言われていた。


だけど、実際になっている。初めての感覚だが、これは間違いなくラット状態だ。


しかし、もしそうならこのりうらってやつが……




🐤「ねぇ、いふさん…」



🐤「おねがい。」








────────────────









それは自分史上最悪の目覚めだったと思う。


隣を見れば裸で眠る赤髪頭。当然のように自分も裸。


間違いなく事後。



あんなにないこで想像していたシチュエーションは、突然現れた赤髪によって全くの別物として実現してしまった。



🤪(……っせや、項は…!!)



りうらの首を失礼して、項に跡がないかを確認する。



🤪(良かった…噛んでない。)



そこには綺麗な白い肌があるのみだった。良かった、と心の底から思った。


俺はないこを愛してる。こんなやつに、俺の人生を取られちゃ堪らない。



…もしこいつが俺の運命だったとしたら?



そんなの関係ない、と俺は簡単に突き放すことができる。


しかしΩはそうはいかない。


運命のαに捨てられたΩは、生きることができない。死ぬ道を選んでしまう。

捨てなかったとしても、会う頻度が低ければ体調は非常に不安定になる。


その責任を取れるかと言われれば、俺の答えはノーだ。

流石に自分の都合で世界に一人しかいない運命を不幸にすることはできない。



🤪「こんなん両立できへんやん…。」









────────────────










結局、ないこが帰ってきたのはその一週間後だった。




🍣「いや〜、迷惑かけてごめんね?またしばらくは一緒にいられるから!」


🤪「…せやな。」



正直、俺はすっかり憔悴していた。


ないこのいない間に別の男とセックスしてました、なんて死んでも言えない。



🍣「元気ないね?……ぎゅー、しよっか?」


🤪「…ん。ぎゅー…」



ないこはとても温かくて、久し振りのその温もりに泣いてしまいそうだった。


疲れてるのを見かねてハグしてくれる彼女とか、可愛すぎる。尊い。


ないこの気遣いに応えるように、徐にないこの頭を撫でた。



しかし、それはないこを汚しているような感じがしてすぐに手を引っ込めた。


ないこは心底不思議そうな顔をしていた。









────────────────








あれから何となく心配で、りうらと何度か連絡を取った。


調べたところ、運命と出会ったΩは相手のαと長い間離れていると体調不良を引き起こすらしい。



🐤『心配ありがとー。でも、今は大丈夫。』



りうらからは決まってこんな返事が返ってきて、体調が悪いという話は出なかった。


もしかしたら、体質の問題もあるかもしれない。個人差があるのだろう。




しばらく経って、また、ないこがりうらの家へ行きたいと言い出した。


そういえばないこが帰ってきてからバース性についての話をするのを忘れていたな、と思ったが、最近はりうらのことで疲れていた。


何より、バース性というものに関してやましい事情を抱えてしまっているから、何となく話し難かった。



🍣「ごめん、またりうらん家行ってもいい?」


🤪「ええよ。気ぃ付けてな。」


🍣「…ありがと。」



ないこはスーツケース並の大きさの荷物を持って出て行った。もうあまり隠さなくてもいいと油断しているのだろうか。



🤪(今度こそ、ないこに話をしなきゃ。)







ところが、その日の夜突然りうらから連絡が入った。



🐤『体の調子が良くない。』


🐤『でも、ないくんが家に来ちゃってるんだよね…』


🤪『大丈夫か?』



なんでよりによってこんなタイミングで。ないこと周期が被ってしまっているのか…?


とにかく状況が最悪だ。ないこにバレずにりうらと会う必要がある。



🐤『あんまり大丈夫じゃない…。』


🐤『あのさ、さっきないくん寝たから、今からまろん家行ってもいい?』



僅かな希望が見えた。夜の間に全て終わらせれば、ないこにはバレないだろう。



🤪『分かった。ないこ起こさんように気を付けてな。』




その日の夜は、またりうらと性行為をして過ごした。


りうらは前のように甘い香りをほのかに漂わせてやって来た。

体調が悪いと言っていたが、症状の重さと香りの強さにはあまり相関関係がないらしい。


前とは違って意識のある状態での行為だったため、行為中は自分がしていることの虚しさとないこへの申し訳なさでぐちゃぐちゃしていた。


項は絶対に噛まないようにずっと注意していた。


あまりに香りが甘くて、どういうわけかないこを彷彿とさせるもんだから、何度も噛みそうになった。



問題は次の日だった。







────────────────









朝、身に覚えのある倦怠感と共に目が覚めた。


隣を見れば、また同じようにりうらがいた。本当に何から何まで前と一緒。


朝目覚めたら隣に運命のΩが裸でいるって、客観的に見たら興奮しそうなものだが、エロいとかそういう感情は驚くほどに湧いてこなかった。


むしろ、何でこんな奴に昨日興奮したんだろうかと思えるほどに、きっぱり何も感じなくなっていた。



…それはもう、運命とは到底思えないくらいに。


しかし、今回はそれではいけないということに遅れて気が付いた。




🤪(やばい、りうらが家におらんかったらないこに怪しまれる!!)



🤪「おいりうら、起きろ!」


🐤「んん〜、なに…。」


🤪「なに、やないって!ないこに怪しまれる!」


🐤「…やっば」




意識がはっきりしたのか、りうらは慌てて飛び起きて周りに散らばった洋服を集めて着始める。


ちょうど良く、りうらのスマホに着信が来た。


りうらはスマホの画面を一瞥してからこちらに見せた。

『ないくん』と表示された画面。一気に体が強張るのを感じる。




🍣『…もしもし?』


🐤「もしもし、ないくんごめんね?」


🍣『朝起きたらどこにもいないからびっくりした。どこいるの?』


🐤「あー、ちょっと小腹空いちゃって。コンビニ行ってた。」


🍣『昨日ヨーグルトとか買って来たのに〜。』


🐤「そうだったっけ、ごめんごめん。」


🍣『まあそれは別にいいけど。いつ帰ってくる?』


🐤「あと15分くらいかな。」


🍣『おっけー。そしたら、俺がご飯作っとこうか?』


🐤「いいの?じゃあお言葉に甘えて!」


🍣『分かった、作って待ってる。』


🍣『…今日はね、相談したいことがあるんだ。』


🐤「おけ、それは着いたらゆっくり聞くよ。」


🍣『うん、待ってる。』


🐤「じゃあねー。」



ピッ




🤪「…ないこ、元気そうで良かった。」


🐤「ま、ヒートつったって強い薬は飲んでるしね。日常生活に支障がないようには気遣ってるよ。」


🤪「そっか。」


🤪「…じゃあまた、辛くなったら連絡してな。」


🐤「うん。昨日はありがとー。」




りうらは荷物を素早く纏めて出て行った。


残されたのは朝の静寂と、どうしようもなくグロくて気持ち悪い自分だけだった。



🤪(ちょっと…ないこにりうらとのことは言われへんかもなぁ…。)



一週間後にないこが戻って来たらしっかり二人で話し合おう。


それで、良い方向に進みますように。りうらとのことがバレませんように。ちゃんと二人のことを両立できますように。


今までの生活が戻って来ますように。…矛盾してしまうけど。







────────────────









ガチャ




🤪「ないこ!おかえ…り……」


🍣「…ただいま。」




一週間後、帰ってきたないこの様子は以前とだいぶ変わっていた。


一目見ただけで、ダメなやつだと分かるくらいだった。

ないこの美しかった肌は血色を失っているし、髪の毛もケアがなってない。全然、ないこらしくない。


今度こそはないことバース性の話をしようと思っていたのに、こんな様子のないこを見せられてはそうもいかない。




🤪「ないこ、一先ずベッド行こか。休まんとあかんわ、それ。」


🍣「…ありがと」




ないこはやっと俺の顔を真っ直ぐに見る。


ないこの瞳孔はすうっと細まって、恋人ではない何者かを見ているようだった。


それはまるで、俺の脳を通して俺とりうらの関係を見ているような…


俺が唖然としている間に、ないこは自室へと向かって行った。



🤪(バレて…へんよな……?)



嫌な汗が垂れる。


ないこの瞳が瞼にこびりついて離れない。


疲れていて、虹彩の伸縮が異常を来しているだけかもしれない。

そう思っておかないと、今の俺はどうにかなってしまう。



🤪(大丈夫。ないこに尽くして過ごそう。)



それが本来の俺の姿だったはずだから。







────────────────








3日、4日もすればないこの体調は良くなった。

会社を休んでまで俺が付きっきりで看病した甲斐があったようだ。


一安心して、りうらに連絡を入れた。


もうないこに怪しまれることがないように、これからはうまくやっていこう、という旨のことを話し合った。



それから、ないこの周期に合わせてヒートが来るりうらの相手を月一でして、それ以外の日はいつも通りに過ごした。



しかし、だんだんそうも行かなくなった。


りうらが『休日に一緒に出かけたい』などと言い出したのだ。


ないこは俺とりうらが何度も会っていることを知らないため、そんなことを言ったら簡単に疑われるだろう。


だから、ないこが外での用事がある時を狙って、綿密なスケジュール管理の下りうらとショッピングモールへ赴いた。


いつもないこといる時は心のどこかで申し訳ないと思い続けていることもあってか、りうらとの時間は予想以上に楽しいものだった。


それから頻繁に会って色々なところへ出かけるようになり、気付けば最近は月四くらいでりうらと一緒にいる気がする。



あまりに自然に距離が縮まっていたが、流石にまずいと思うようになってきた。


これでは浮気をしているも同然だ。最初はヒートの相手だけだったはずなのに。


ないこが知ったら何て言うだろうか。



その時、俺は浮気ではないと胸を張って弁明できるか?








────────────────











🍣「ねぇ、まろ。俺たち別れよっか。」


🤪「…は?」



それはあまりにも突然に、俺の日常を壊した。




🍣「最近ちょっとさ…、あんまり、その……気持ちが釣り合ってない気がして。」


🤪「なんやねんその歯切れの悪さ。はっきり言ってくれへんと分からへんよ。」


🍣「…本当に、はっきり言っちゃっていいの?」


🤪「もちろん。そしたらちゃんと俺直すから。俺は別れたくない。」



急な別れ話で、ないこを引き止めるのに必死だった。


焦っている時の人間は正常な洞察力を失って、大抵失敗をしてしまう。




🍣「まろさ、浮気してるよね?」


🤪「へ…」




一瞬、頭が真っ白になった。


頭を鈍器で殴られたような衝撃が走った後は、ただ震えるだけだった。


これから始まる、恐怖の尋問を想像して。




🍣「りうらと、浮気してるでしょ。」


🤪「いや、浮気はしてない…。」


🍣「浮気“は”?じゃあ関わりは実際にあった、って解釈するけど。」


🤪「……浮気したって証拠は?どこにもあらへんやろ。」



我ながら苦しい言い分だと思う。


こんなセリフ、浮気を認めているようなものだ。

でも、浮気してますって言っても嘘になる。こうするしか道はない。



🍣「…素直に認めてくれないんだね。」



すると、ないこは部屋の棚の引き出しからいくつかの紙を取り出して来た。


ないこはそれらを選別するように丁寧に眺めて、3枚ほどの写真を机に広げた。



その写真には、街中で手を繋いで歩く俺とりうらの姿が写っていた。



🍣「これ、りうらとまろだね。これはどういうこと?」


🤪「…これ、は。りうらが服買いに行きたいって言うからしゃーなし…」


🍣「そっか。それを月に少なくとも3回、ね。」


🤪「っそう!この月はりうらが社会人として色々な行事に出なあかんかったから、身だしなみとかマナーとか含めてレクチャーしに行ってたんよ!」


🍣「…見事な饒舌っぷりだね。」




🍣「じゃあ、これはどう説明してくれるのかな?」



ないこがこちらへ見せてきたスマホの画面を覗き込む。


つい昨日も使った見慣れたトーク画面が写っている。



🍣「分かるよね、りうらとまろのチャットのスクショだよ。全部撮ってるから。」


🍣「ねぇ、何この文面?『明日暇ならここの遊園地行かへん?』って。笑えるね、俺のことは絶対に誘ってくれなかったのに。」


🤪「それは、ないこが大切だったから頻繁に外出させるのが心配で…」


🍣「でもりうらと行く理由にはならないよね。」


🤪「…っせやけど、恋愛感情は一切あらへん!!」





🍣「…ねえ、俺言ったよね。二人の会話、”全部“スクショしてあるって。」


🤪「だったらなん…」




あ、と気付いた時にはもう遅かった。



俺たちのトーク画面を見られたってことは。




🍣「俺結構頑張っちゃったから、ぜひ見てほしいな。」



ないこのスマホには明度の低い画面が映し出される。




🍣「じゃ、流すね。」





ピッ



🐤『あっ//、まろっ、まろ…っ!』


🤪『もうちょい声抑えろって…!』


🐤『ぅん、無理っ…//』





もうそこから先は見たくなかった。見る必要もない。


あからさまに耳を塞いで俯くと、ないこもこれ以上は必要ないと感じて動画を止めた。




🍣「…ね、そういうことだから。」




そういうこと。それって、どういうことか。


なぜ俺とないこはこんな話をしているのか。


なぜ俺はりうらとこんな関係になってしまったのか。




🍣「これでも、ダメなところは直すからって言える?」


🤪「…」


🍣「まろさ、昔言ってたよね。『りうらって奴は大丈夫なのか、ないこが襲われないか』って。」



🍣「そんなこと言っといてこれとか、バカみたい。」




ないこからこんなに冷たい「バカ」を聞かされるとは思っていなかった。


すっかり動く気を失くした俺を一瞥してないこは立ち上がり、側にあったリュックを背負いあげた。




🍣「俺とまろじゃ、価値観が違ったみたい。一緒にはいられないんだよ。」



そう言ってないこは玄関の方を向いた。


俺は焦りすぎて汗もかけなかった。


喉が渇いて、取り繕うための言い訳すらも口にできなくて、咄嗟に動いたのは腕だった。


玄関へ向かおうとするないこの腕を強く掴むと、ないこは驚いたようにこちらを振り返った。



🤪「あ…」



ないこは泣いていた。目も鼻も耳も真っ赤にして泣いていた。


ないこの顔には、「悔しい」って書いてあるみたいだった。


さっきまで俺は泣き出しそうだったのに、そんなものは全部引っ込んだ。

俺には泣く権利がないことを分からされてしまった。


「ごめんなさい」と発することさえも失礼なように思われた。




🍣「…さよならっ」



ないこは叫ぶようにそう吐き捨てて、ついに外へ出て行ってしまった。


後に残ったのは、洗濯せず放置していた衣服と新着メッセージを受け取った俺の携帯だった。







────────────────









🐤「…ないくんと別れたの!?」


🤪「そうやけど。……ほんま、笑えるよな。」


🐤「いやいや、それってりうらのせいだよね?」


🤪「……まぁ」



俺の言葉を聞くなりりうらは鈍い音を響かせて色白の額を床に擦り付けた。



🐤「ほんっとにごめん!!」


🤪「ええって、おでこ赤くなるで?」


🐤「りうらがあの時ヒートをちゃんと管理してなかったから…、その後も何回もまろにヒートの対処を強要しちゃったし、そもそも…」


🤪「あ”ーー、もうええから。今はりうら平気なん?」



そう問いながら、ないこにあんだけ泣かれて別れた後なのにまだこんなことを続けようとしている自分にもはや寒気がした。



🐤「…あんまり、大丈夫じゃない、かも」


🤪「そっか。………やる?」


🐤「えっ…」



真っ赤な瞳と目が合う。それが携えるのは間違いなく戸惑い。


そりゃそうだ、こんな奴狂ってるよ。そんなこと自分でも分かってる。


でも、ないこがいなくなってしまったらもう俺には運命しか残っていない。

残された時間を運命に捧げることでしか、俺に罪滅ぼしの道は残されていない。


きっとそれでもないこは許してくれないだろうけど。


りうらは俺の心情を何となく理解したのか、俺の方に距離を詰めてきた。



🤪(分かってる。俺がするべきことは…)




“運命”を、一生大事にすること。









しかし、今日はいつもと違っていた。



🤪「……なんか、匂いいつもと違う?」


🐤「え?」



りうらはあからさまに動揺した。何か心当たりがあるらしい。



🐤「…最近シャンプーとかボディソープとか一気に変えたからかも。そういう生活の中の匂いって結構フェロモンに影響するらしいから。」


🤪「ふーん。」



俺は煮え切らない返事をした。


りうらがそれに不安そうな様子を見せたので、頬に一つキスを落として行為を再開した。



🤪(…なんていうか、そもそも人が違うってくらい匂いが違うんやけど。)



もしかしたらないこと別れたことが相当ショックで体に異常が起こっているのかもしれない。

それなら1ヶ月もすれば治るだろうか。


りうらが妙に饒舌だったことはあんまり気にしないことにした。






その予想に反して、この現象は一向に回復の兆しを見せなかった。


むしろこの傾向はどんどん強くなっていって、まるで最初誘惑された時とは似ても似つかないような匂いになってしまった。


困ったのは、前のように匂いだけでも興奮するほどの強いフェロモンを感じられず、行為が自分の中で面倒臭いものになりつつあるということだ。


自分がそうであっても、運命であるりうらのヒートは定期的に来るから対処しなくてはならない。


そんな風に考えてしまっている時点で、相手に対する真摯な態度が欠落している。








────────────────








転機が訪れたのは、ないこと別れてから半年ほど経った頃だった。


りうらが家に入り浸ることが多くなったためりうら用に部屋を設けようと考え、元々ないこが使っていた部屋を掃除することにした。


ある程度荷物はまとめて出ていったようだが、衣服類や造作もない小物などは残ったままになっているものがあった。


俺がないこの誕生日にあげたネックレスはそのまま残っていた。


そのネックレスには雫型のチャームが付いており、ふと思い出して目を凝らしてみると俺とないこの名前が彫刻されていた。


ないこはこれに気付いたのだろうか。もう知る由もない。


りうらが好きそうだから、一応取っておくことにした。



クローゼットを開けると、10着にも満たない程の服がハンガーに掛けられていた。


付き合っていた頃ないこが気に入ってよく着ていたものは持っていかれたようだ。

ちゃっかりしている。


俺は目に付いた1着を取った。


たしか、ないことの6回目のデートでないこが着ていた服だ。

同棲してからは部屋着として使っていることが多かった。


なんだか、自分がいかに未練たらたらなのかを感じてしまう。

もう、早く忘れ去ってしまわないと健康にも良くない気がする。



だから、最後に一回だけ、と手にしていたないこの服の匂いを思いっきり嗅いだ。


途端、不自然に血管が強く脈打った。



🤪(え、なにこれ、あの時と同じ…)



だんだん息が上がってきて、ここにはもういない彼を求めて下腹部に熱が集まるのを感じる。


俺は迷わず自分のモノに手を伸ばし、数回扱いただけであっけなく絶頂した。


自分でもほとんど何が起こったのか理解できなくて、はくはくと余韻に浸っていた。



少しすると意識が戻ってきて、冴え始めた思考はある一つの、最悪な真相の可能性を考え始めていた。








────────────────








そしてさらに一週間後。



ないこと二人で使っていた共用パソコンで調べ物をしていた時、ないこのアカウントに一件の新着メッセージが届いているのが目に入った。


まさか、メッセージアプリのログアウトを忘れているとは思っていなかった。


アプリを開けば、差出人は知らない名前だったが医師であるらしいことが分かった。


ないこが医師にかかっているなんて微塵も知らなかった。

もしかしたら長期的で治療困難な病気かもしれないと不安になりながらメッセージを開く。




『ないこ さんへ


先日頂いたないこさんの彼氏さんのバース性についての検査結果が出ましたことをご報告させていただきます。

ないこさんの推測の通り、彼氏さんは強位のα性でした。ですが、結果を見る限りΩのフェロモンに対する耐性は随分と高いようです。ないこさんの心配はやはり、それほど重大なことではないように思われます。

そろそろ、彼氏さんにないこさんのバース性について話をしてみてもいいかもしれません。期待させるようですが、検査の結果から考察するに、ないこさんと彼氏さんの相性はいいかもしれません。

ないこさんはバース性に関して二年ほど悩みを抱えていたそうですね。話をするかどうかはないこさん次第ですが、これからのお付き合いを考えると、一度じっくり話し合うのがいいかと思います。

本当に、長い間お疲れ様でした。また何か進捗、問題などありましたら当院まで足を運んでいただければいつでも対応致します。


それでは、失礼します。』




読みながら、着実に俺の予想が確かなものに変わっていった。



ないこと別れた頃から匂いが変わってしまったりうら。

ないこの服の匂いを嗅いだ時に感じたあの高揚。

俺とないこの相性がいい、という医師の発言。



ああ、俺は今までとんでもない勘違いをしていたようだ。



俺の“運命”だったのは…








────────────────







それは何気なく家の近くにあった大きな公園に散歩しに行った時のことだった。


ないこと別れてから一年経った頃。りうらとも半年ほど前に縁を切っていた。


最近は会社の飲み会に引っ張りだこにされていたため疲れてベンチに座って公園を眺めていたら、視界に見覚えのあるピンク頭が映った。


驚いて立ち上がり、その人物に近づいていく。


その人は間違いなく…




🤪「…ないこ」




ピンク髪の愛しいその人は、あまりにも美しく綺麗に、こちらを振り返った。



🍣「まろ?」




久しぶりにそう呼ばれて、身体中の全細胞が湧き立つのを感じた。


「話したいことがあるんだけど」、そう言おうと思った口は、ないこの後ろからひょこっと顔を覗かせた水色髪の男を見た衝撃で動かなかった。



💎「…?ないちゃん、この人だれ?」


🍣「ああ、元カレの…」


💎「あーーーー!!あの“いふ”くんね!」


🤪「え、何で知って…」


💎「この人、浮気してたんでしょ?いやー、ないちゃん相手にそれはないわー。」


🤪「っお前には関係な」


💎「てか、いかにも浮気とかしそうな顔してるよね。なんなら3人くらいいるんじゃない?」


🤪「は!?ないこ一筋だし!他の奴なんか見てなかったし!」


💎「何言ってんの?実際に浮気してたんだよね?虚言癖なの?それともバカ?」


🍣「ちょっと!いむ、もういいから…」


💎「……そうだね。嫌な気分にさせてごめん。ないちゃんがいるのに浮気したっていうのが許せなくて…。」



🍣「今はいむがいるからいいでしょ…//」


💎「っ!!」



ギュッ



💎「ないちゃん、だーーーいすき!!」


🍣「苦しいってw……俺も好きだよ。」


💎「…今のもう一回。録音する。」


🍣「えー、ダメ。毎秒頭に刻み込んで」


💎「ラジャ!僕、ないちゃんのかわいい言動覚え隊です!」


🍣「はは、なにそれ笑」



二人はまるで俺のことなんか見えてないみたいに行ってしまった。


俺は一体何を見せられていたのだろうか。


二人の背中を何も言えずに見送る。




🤪(………あ)




ないこの項には、昨日にでも付けたんじゃないかと思うほど赤い歯形が付いていた。



……もう、完全に俺以外のものになってしまったんだ。



気が抜けて、また先ほど座っていたベンチに腰を下ろした。

上を向いて我慢していたけど、とうとう堪えきれなくなって目から涙が溢れ出した。




今、あの時のないこの気持ちを真に分かった。


二年分の想いを容易く踏み躙られることがどれだけ辛いことなのか。


あの時の俺は、ないこのことを“ないこ”としてではなく、“Ωの恋人”として見ていたんだ。




ないこ、やっぱりお前は正しかったよ。ないこを大切にできなかった俺なんかないこには相応しくない。


もう、俺のことなんか眼中にないまま、どこかで最高に幸せになってくれ。




そう思いながら、ベンチに腰掛けたままに意識を散らしていく。


薄れていく光の中でゆっくりと、炎が弱まっていくのを感じた。










end

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