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◆◆◆◆◆


「んで?」


紫雨は目の前の老婆を見ながら椅子に膝を立てた。


「この婆さん、どこのどなた?」


老婆を自分の席に座らせ、その前にしゃがんで話を聞いた林が振り返る。


「どうやら、インターチェンジで車が故障し、困っているところを篠崎マネージャーが連れてきたらしいです」


「はぁ?なんだよ、あの人、余裕だな」


「駅まで送ってもらう約束だったらしいんですが、こちらに連れてこられて困っていると」


「前言撤回。余裕ゼロだな、あの人」


紫雨は笑いながら足を下ろした。


「林、送ってやれよ。駅まででも家まででも」


「あ、はい」


林が立ち上がったところで、展示場の方から物凄い足音が聞こえてきた。



「やば……」


紫雨が慌てて立ち上がる。


「婆さん!俺が送ってってやるよ、おいで!」


老婆の手を取ると、紫雨は一目散に事務所を駆け抜け、ドアから飛び出していった。



バンッ。



事務所に飛び込んできた篠崎は、炎を吐き散らす勢いで周りを見回すと、


「紫雨は!」と叫んだ。


「あ、えっと、お婆さんを送りに行きましたけど……」


林が身体を硬直させながら答える。


篠崎は紫雨の席に目を落とした。


「あの野郎……次会ったら殺す……!」


「え、それは困ります」


思わず林が言うと、篠崎の視線だけが林に戻る。


「林、お前は知ってたのか?」


「え、何をですか?」


新谷は開発部に異動するのではなく、現場アドバイザーとして、太陽光発電の開発に関わるだけだったってことをだよ…!」



睨まれた林は直立不動で答えた。


「しししししし知ってました…!」


「お前もグルか、この野郎…!」


篠崎が林に飛び掛かろうとしたとき、展示場のドアが開いた。


「まあまあ、誤解も解けたようだし、いーんじゃないの?」


秋山と柴田と由樹が、事務所に入ってきた。



「先ほどは大変、失礼いたしました」


篠崎が頭を下げると、柴田は笑った。


「いえいえ、マネージャーである篠崎さんにあらかじめ話を通さなかったのは、私たちのミスですので」


ぺこぺこと頭を下げあう2人を見ながら、由樹が秋山の耳に口を寄せた。


「やっぱり篠崎さんに言った方がよかったですね」


秋山は小さな目を見開くと、由樹を覗き込んだ。


「本当に、そうかな?」


「………………」


「僕は、これでよかったと思うけどね?」


「………え、支部長、もしかして全部知っていて………?」


今度は由樹が大きな目をさらに見開くと、秋山は笑った。


「何のことぉ?僕はわからないなあ?」


と笑った。



由樹も微笑みながら、いつまでも頭を下げあっている篠崎と柴田を見つめた。



◇◇◇◇◇


「あーあ、スーツ、濡れたな……」


事務所から出ると、篠崎がくしゃみをした。


「コートはどうしたんですか?」


由樹も後に続きながら、雪でびしょびしょに濡れ、まだら模様がついている篠崎のスーツを見上げた。


「展示場に忘れてきた」


「マジですか?風邪ひいちゃいますよ」


言いながら足が長く歩くのが早い篠崎に小走りで追いつく。


「車の暖房ガンガンかけていけば、八尾首に行く頃には乾くだろ…」


言いながら篠崎がアウディのドアを開ける。


「そうですか?ならいいですけど」


由樹もコンパクトカーに手を伸ばす。


その手を篠崎が掴んだ。


「………篠崎さん?」


「どこかで乾かしてから帰るか」


「……え?」


篠崎は由樹をグイと引っ張ると、自分のアウディの後部座席に押し込んだ。


「ちょ……篠崎さん!?」


篠崎は運転席に座ると、携帯電話を取り出した。


「あ、ナベ?俺」


『お疲れ様です』


Bluetoothにつなぎ、カーナビのスピーカーで会話しながら、篠崎がギアをドライブに入れる。


『無事、天賀谷に着きましたか?』


渡辺の声がアウディの高音質のスピーカーを通じて、やけにいい声に聞こえる。


「ああ。ついたけど、俺も新谷も雪で濡れたから」


『ええ』


「このまま―――」


『休むとか言いませんよね?』


バックミラーに映った篠崎の目が細くなる。


『ダメですよ。あなたたちは2人揃って休むと、別れようとするんで』


「……………」


由樹は目を丸くした。


「そんなんじゃねぇよ、今回は」


篠崎がため息交じりに言う。


『二人仲良くイチャコラするって言うなら、許可します!』


渡辺の後ろから金子の笑い声が聞こえてくる。


「お前ら……」


『どうなんですぅ?』


渡辺が笑う。


「うっせえな!イチャコラすんだよ!文句あるか馬鹿野郎!」


篠崎はマイクに向かって叫ぶと、通話を切った。


「…………」


由樹はバックミラーに映る、再び恋人になってくれた男を見つめた。


篠崎も視線を感じたのかミラーを睨む。


「異論は認めないぞ」


由樹は笑った。


「………ありません!!」



2人を乗せたアウディは天賀谷のシティホテルに向かって走り出した。



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