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「……確か、クレハたちの考えはこうだったよね。ニコラ・イーストンがグレッグへ依頼をしたとする……でも、彼女だけでグレッグの元へ辿りつけたとは到底思えない。ニコラ・イーストンの感情に付け入り手引きをした者がいるのではないか。そして、状況的にその者はリアン大聖堂に関わりの深い人間の中にいる。そうだよね?」
「はい」
レオンの方もついさっきまで、グレッグが滞在していた酒場の亭主を取調べしていたのだ。そちらで得た情報も加えて、事件を一から整理してみることになった。
「まずは……島にサークスを送り込んだのは『グレッグ』というニュアージュの魔法使い。こいつは金銭を受け取ることで殺人や暴行の代行をしていた犯罪者だ。島を襲撃したのは、依頼をされたからに過ぎません」
これは同じニュアージュ出身である『ノア』と『カレン』からの情報。彼らはルーイ様との取引に応じ、グレッグの正体を明らかにしてくれたのだった。取引時のルーイ様が怖かったと後にレオンが語っていた。アルバビリスを着たルーイ様はカッコよかったけど、威圧感も凄かったもんな。
「業腹極まりないが、グレッグがターゲットに定めていたのはクレハ。そして、それを依頼したのは公爵家の侍女である『ニコラ・イーストン』だ」
「そこもう断定しちゃうのね……酒場の亭主からなんか決定的な発言が出ちゃったのかな?」
「ええ。亭主にニコラ・イーストンの似顔絵を見せたところ、依頼人で間違いないそうです。若い女性であったこと……そして、依頼された内容の恐ろしさから亭主も印象に残っていたと……」
「はぁ……そっかぁ。いざ確定となるとキツいね。クレハ大丈夫か?」
「……はい。覚悟はしていましたから。レオン、話を続けて下さい」
心臓がバクバクと早鐘を打っている。心構えはしていたつもりだったけど、動揺を隠すことで精一杯だ。でも、逃げてはダメだ。辛くても私はこの話を最後まで聞かなくてはならない。
「グレッグ本人は、ニコラ・イーストンの依頼についてはこのように語っていたらしい。珍しい石が手に入った。少しキツいけどやれないことはないと……自分の力にかなりの自信を持っていたようですね。怖気づいていた亭主とは対照的です」
王族が住む島に襲撃をかけることを『やれないことはない』なんて……今まで魔法の力を使ってどれだけの悪事を働いていたのだろうか。きっと表沙汰になっていない事件もたくさんあるはずだ。あの時、私の側にクラヴェル兄弟がいなかったらと考えると背筋が震える。
「珍しい石ってニコラさんのバングルに付いてた奴かね。グレッグは宝石類にも目がないってノア君が言ってたもんね」
「はい。後にシエルレクト神の腹の中から発見されたバングルですが、ニコラ・イーストンのものであると確認が取れました。我々の予想通り、彼女は母親の形見と引き換えに依頼を行なっていたということになります」
「そしてその後、慌ててリアン大聖堂の出店で似たデザインのバングルを購入した。形見のバングルが無くなっているのを周囲から隠すために……」
大切な形見を犠牲にしてまで成し遂げたかったのか。やはり動機はフィオナ姉様絡みだろうか。
「グレッグがあの酒場を拠点に活動していた期間はふた月ほど……ニコラ・イーストンは2人目の客だったそうです。亭主が彼女をよく覚えていたのはそれも理由です。ニコラ・イーストンは相当早い段階でグレッグについての正確な情報を得ていたのですね」
やはりルーイ様が言うように、グレッグという殺し屋の存在を意図的にニコラさんに教えた人間がいたのだろう。怪しいのは、彼女が失踪する直前に同僚に語っていたという『会いたい人』だ。ニコラさんの行動範囲的にその人物はリアン大聖堂の中にいる可能性が高い。
「ニコラ・イーストンにグレッグの情報を与え、彼女が犯罪に手を染める後押しをした者がいると仮定しよう。クレハたちが此度の調査で明らかにしてくれた事実により、候補となる者はかなり絞れたのではないかな」
「はい。聖堂内でニコラさんを目撃した者は大勢いますが、彼女は常にひとりだったと聞いています。体調が悪そうだったという事を除いて、特に怪しい行動は見受けられなかったと……」
「でもね……リアン大聖堂には一箇所だけ、誰にも不審に思われずに彼女と一対一で会話が出来た場所が存在しているんだよ」
「懺悔室ですね」
「そう。ニコラさんが聖堂に通っていたのは懺悔室を利用するためだ。残念ながらそこでどんなやり取りがされていたのかを神官経由で知る事はできない。でも、この懺悔室でニコラさんと会話をした人物の中に、俺たちが一連の騒動の黒幕であると想定している者がいる」
「該当するのは、聴罪を担当していたバルカム司祭……そして、彼が自分の代理として仕事をさせていた子供たちですね」
「その司祭がめちゃくちゃ怪しいじゃないですか!? クレハ様たちが訪れたタイミングで不在とか……きっと、ニコラさんと一緒に逃げたんですよ!!」
今まで静かに私たちの会話を聞いていたミシェルさんが思わずといった風に声を上げた。彼女が指摘するように、タイミングが良過ぎるとは思う。でも、バルカム司祭がいないのは所用であるとマードック司教様は断言していた。あくまで偶然なのだと――――
「バルカム司祭はレンツェに行っていて、戻るのは3日後らしいが、そんなの待っていられないな。そのまま帰ってこない可能性すらある。すぐに兵を送り身柄を拘束すべきだろう」
「レオン様。ニコラ・イーストンに犯罪を促した者がいるというのは、現時点で我々の憶測に過ぎません。司祭が留守なのは予定されていた仕事だと聞きました。兵を動かすのはどうか慎重に……」
「セドリック……そうは言うが、後手に回り逃げられましたではすまされないんだ。もし違っていたら『ごめんなさい』って謝ればいいんだよ。余計なことは考えなくていい。責任を取るのも俺の仕事だ」
「そんな……レオン様。焦るのは分かりますが、一旦冷静になりましょう」
「確かに、セディの言い分はごもっともだ。司祭をしょっぴくとなると教会側と揉めることになるからね。やるなら確実な証拠がいる」
ルーイ様の視線が私へ向いた。物言いたげな目だ。私には彼が言いたいことがなんとなく分かった気がした。
「レオン。それでは先に、子供たちの方から調べてみませんか? 子供たちは司祭から仕事を任されていただけで神官ではありません。テレンスの時のように上手くやれば、懺悔室の中で何が起きたのか……明らかにすることができるかもしれません」
「クレハは今回の調査で司祭に協力していた子供たちを特定している。とりあえず司祭の方は行動を監視するに留め、子供の方からあたってみようじゃないか」
ルーイ様が私の提案を後押ししてくれている。良かった……間違っていなかった。
バルカム司祭も重要だが、私とルーイ様は彼よりもむしろ……子供の方が気になっていたのだ。