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藤堂は、藤井渚を完全に打ちのめしたことに満足し、ホテルに戻った。伊織は、藤堂の腕の中で、彼の愛情の暴力に屈服していたが、心の一部では、藤井の勇敢な姿が焼き付いていた。その夜、藤堂は伊織を強く抱きしめ、二度と裏切らせないよう、徹底的に「わからせる」愛を与え続けた。伊織は、疲弊しながらも、この支配的な温もりが、今の自分の居場所だと受け入れるしかなかった。
翌日の昼過ぎ。二人がホテルのスイートルームで朝食を終えた頃、藤堂のスマートフォンが鳴り響いた。着信は学校の担任教師からだった。藤堂は不審に思いながらも電話に出たが、数分後、その顔はみるみるうちに青ざめていった。
「なん、だと……? それは、一体どこから…」
藤堂は電話を終えると、すぐに自分のSNSアカウントを開いた。そこには、数時間前から藤堂に関する尋常ではない数の投稿が溢れていた。
「蓮、どうしたの?」伊織が心配そうに尋ねた。
藤堂は、伊織の問いに答える余裕もなく、震える手でスマホを操作した。学校の非公式掲示板、そして藤堂を崇拝するファンコミュニティ全体が、たった一つの投稿で大炎上していたのだ。
その投稿とは、**「藤堂蓮の真実の愛」**と題されたもので、匿名でアップロードされていた。
そこには、いくつかの決定的な証拠が添付されていた。
藤堂が伊織の家に忍び込むために使っていた合鍵の写真(裏には伊織のイニシャルが彫られていた)。
藤堂が藤井を追い詰めた際に使った脅迫めいた言葉の音声データ(藤井に降参を迫る際の音声)。
藤堂が伊織に女装を強要した際の、準備段階のテキストメッセージのスクリーンショット。
全てが、藤堂が伊織に対して行ってきた異常なまでの独占と支配を証明するものだった。投稿には、「人気者の裏の顔は、ストーカーと支配欲に満ちた暴君だ」と断定的に書かれていた。
藤堂の社会的イメージは、一瞬で崩壊した。
「嘘だ……。なんで、こんなものが……」
藤堂は、スマホを握りしめたまま、その場で立ち尽くした。誰が、いつ、どこで証拠を掴んだのか。藤堂の脳裏に、あの涙ながらに降参したはずの、藤井渚の顔が浮かんだ。
その時、藤堂のスマホに、非通知の着信があった。藤堂は、それが誰なのか悟り、震える手で電話に出た。
「……転校生か」
受話器の向こうから聞こえてきたのは、以前のような震えのない、静かで、冷たい藤井の声だった。
『フフッ……どう? 君の支配は、今、どれだけの価値がある?』
「貴様……! 卑怯な真似を!」
藤堂が怒鳴ると、藤井は静かに言葉を返した。
『卑怯? 私の人生を、君の独占欲で破壊した君に言われたくはないね。私は、ただ、君の支配の構造を、世間にわかりやすく教えてあげただけだ』
「伊織は、俺の元に戻ったんだ! お前の復讐は、何も意味がない!」
『そうかな? 確かに、伊織くんの体は君の隣に戻った。でもね、藤堂くん。伊織くんの心は、二度と君の支配下には戻らないよ』
藤井の声には、静かな確信が満ちていた。
『私は、君に自由を教えた。そして、君は私に恐怖を教えた。伊織くんは、もう、君の愛が支配でしかないと知っている。彼は、君の愛の鎖に繋がれたまま、私との思い出と自由への憧れを抱き続けるだろう』
藤井は、最後に、藤堂の最も恐れる一言を放った。
『私が君の秘密を暴露した今、君は伊織くんを物理的に監禁するか、社会的地位の崩壊を選ぶか、二択を迫られる。……これが、私の復讐だ。私は君に、永遠の不安と社会的死という罰を与えた』
「待て! 転校生! どこにいる! 殺してやる!」
藤堂は叫んだが、藤井は静かに電話を切った。
スマホを床に叩きつけ、藤堂は激しい怒りと絶望に苛まれた。彼の築き上げてきた全てが、一人の少女の復讐によって、一瞬で瓦解したのだ。
伊織は、静かに藤堂の様子を見ていた。藤井渚は、物理的な力ではなく、藤堂の社会的地位と、伊織の心という、藤堂の最も大切なものを利用して、復讐を完遂したのだった。伊織の心は、藤堂への依存と、藤井への感謝と、そして解放されたことへの安堵で満たされていた。