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九恩が檻口により異能を掛けられ静止した後、二宮の火炎を警戒してか、昴は鋼鉄を浮かばせて宙に浮かんだ。
この中で宙に浮けるのはただ一人、三嶋だった。
慎太郎は、風の波動による跳躍は出来るが、浮いていられる力を使うには余力が少なすぎた。
直ちに追いかける三嶋。
「こいつの異能『鋼鉄』はお前には効かない。空の上では五分と言ったところか……」
初めて、六現は昴を介して声を発した。
「それはどうかな……! 俺はいくらだってお前をぶん殴ることが出来るぜ! 空の上じゃ自由だからな!」
しかし、三嶋の頬には汗が滲む。
夕陽はもう、沈みかけていたからだ。
三嶋は、光がない限り浮遊する程の力は出せない。
「ふふ……ハッタリだよね……。私は、貴方が光がなければ光化できないことを知っている……。もう太陽は沈みかけてる……貴方はもう飛べない……。そうなれば上空から一網打尽にできる。九恩もいるしね」
余裕に構える昴。
真面目な顔付きで、三嶋は光化を解き、身体を露わにした。
「あら? 落ちちゃうけどいいの?」
「さあな、昴本人なら俺の技、知ってるぜ」
三嶋は身体を露わにしても、微弱に発光させ、空の上に居座っていた。
「なんだ、光でなくても飛べるんだ。でも、それだけだよね……。それじゃ、勝てない……」
「そいつはどうかな」
そして、三嶋は再び昴に突撃する。
「何度やっても無駄! 死角はないの!」
「昴……力、借りるぜ」
すると、三嶋は昴に攻撃するでもなく、四方に張られた鋼鉄を飛び回った。
「何……!? 目で追えない……!?」
六現の目からは、早すぎる三嶋が何十人にも見えていた。
「元々は俺たちの連携技なんだ。光ってのは鏡の反射で屈折する。鋼鉄を四方に設置したのが仇になったな!」
「なら……こんなの解けばいいだけ……!」
しかし、
「四波流……」
慎太郎は、昴の真下で刀を構えていた。
「いつの間に真下へ!? でも、下からの攻撃なんか簡単に防げるんだから!!」
六現は四方の鋼鉄、更に真下にも増やした。
「連携技って言っただろ!! やれ! 慎太郎!!」
「一ノ型 昇龍」
慎太郎が地面に刀を刺すと、無数の斬撃は上空へと舞い上がる。
ヒュオッ!!
慎太郎から放たれた上空への斬撃は、瞬く間に昴の四方を守る鋼鉄の盾を粉々に破壊して行く。
周りには刃が飛び交い、昴本人は逃げることが出来ず、その竜巻の中に捕えられてしまう。
「コイツ……! わざとこの身体には当たらないように調節までしてる……! そこまでの剣技が……!」
「ハッ! No.4『風刃一閃』、うちの生徒会長の実力をナメんな……!」
そして、光化している三嶋には斬撃は当たらない。
「これで、王手だ……!」
「ふん! 周りが斬撃の嵐でも、アンタの攻撃は目で見れるから交わせるのよ!!」
しかし、三嶋はニヤリと笑みを浮かべ上体を反らす。
「なら……見えねぇ攻撃はどうだ……!」
三嶋がくるりと宙を返った瞬間、
「グハッ……!!」
透明な打撃が昴の腹部を直撃した。
「なんで……九恩が……!」
昴を攻撃したのは、檻口の異能に掛かったはずの九恩櫛の異能力でのエネルギーパンチだった。
九恩の異能力には更に別の能力も備わっている。
「まずい……!!」
それは、憑依者、もしくは憑依している悪霊などのエネルギー体を、拳で強引に引っ剥がすこと。
引っ剥がした瞬間、三嶋は思い切り昴を叩き落とす。
慎太郎は力尽くでそれをキャッチ。
「志帆ー!!」
「分かってますわ、お兄様!! 四波流 八ノ型 風乱絶!!」
志帆の手から昴に向けて波動が解き放たれ、檻口による異能も解除された。
「あとはてめぇだけだ!!」
昴の中から飛び出したのは、生徒会室に集められた時よりも更に小さな面影の少女だった。
「ふふっ……」
小さく笑うと、六現はその場から消えた。
「なんだ!?」
そして、倉庫は大きな音を立てて爆破する。
中からは、生徒会室に来た少女が立っていた。
「あれは……二体目のドール!? クソッ……慎太郎! 行けるか!?」
「ダメだ……一ノ型はまだ不完全で大量のエネルギーを要する……もう立っているのもやっとだ……。でも、行方先生の話では、異能祓魔院が相手しているはず……」
しかし、六現は笑みを浮かべながら近付く。
「ふふ……やはり天に愛されてるのは私たち異能教徒……もう一体の方がタイミング良く破壊されたみたい……」
「異能祓魔院が勝ったってことか……!? でも……このタイミングでは……」
そう、異能祓魔院が勝利を収めたこと自体は朗報ではあるが、このタイミングがいけなかった。
もう一体のドールが倒されたと言うことは、このドールは異能が使えると言うことになる。
そして、その能力は未知。
「さあ、私たちの勝ちよ……!!」
そう言いながら、六現は辺りを爆破させて歩く。
「なんだ!? 爆破の異能力か!?」
「クソッ……ここまで来て……!! こんな事態まで想定していられれば……行方先生なら……出来ていたかも知れないのに……!!」
そんな項垂れる慎太郎の横を、一人の影が過ぎる。
ザッ!!
身体から鋼鉄を無数に出し、昴は一瞬の間に六現を捕らえていた。
「なんで……アンタが……! 檻口の異能から解放されたら暫くは意識を失ってるはず……!」
「俺の異能が『鋼鉄を出すだけ』だと思っていたなら誤算だったな。俺の『鋼鉄』の異能の真髄は、自らの心にも鋼鉄を巡らせておける」
「は!? 檻口の異能に掛かってたでしょ!? この時の為に防御を張ってたってこと!?」
「まさか檻口先生の異能があのような条件とは見誤っていたがな……。怪しいと感じ、接触を図っていた頃には既に心を鋼鉄で固めていた。だから解放された瞬間から、俺はこうして動ける……!」
「で……でも……私のこの異能は『爆破』ではなく、貴方たちには見えない悪霊を出現させる異能!! 貴方の鋼鉄じゃ防げない……!!」
ボォン!!
瞬時に昴目掛けて爆破させる六現。
「なんで……?」
しかし、昴が負傷することはなかった。
「八百万家もナメられたものだ……。俺の師匠が誰だか分からないのか……?」
昴の身体には、見えない程に薄らと鋼鉄が張られていた。
「お前……神子さんの技、習得してたのか!?」
三嶋は地上に降りると、その姿に声を上げる。
「これは姉さん……異能警察長官の編み出した技だ。鋼鉄を全身に巡らせ、如何なる攻撃からも身を守る。当然、エネルギー体である霊魂もだ」
「そんな力……学生のくせに……!!」
「慎太郎!!」
「おうよ!!」
慎太郎は最後の力を振り絞り、行方から託されていた異能封印の札を貼り付けた。
すると、ドールは消滅し、再び中から小さな少女が半泣きで現れた。
「俺たちの勝ちだ……!」
その隙に、九恩はニタニタと檻口を拘束した。
「どうして……異能に掛かっていないんだ……」
「ハハッ、お前らクズの考えることなんざ容易に想像できるんだよ!! 私もクズだったからね!! ま、最初に閃いたのは、行方先生だったけど……」
六現拘束後、三人はヨロヨロと集まった。
「それにしても、お前、檻口と協力関係にあるのかと思ってたぜ……」
「ふん、俺は最初から怪しいと睨んで彼と同行していたのだ。まあ、利用されてしまった訳だが……」
「でも、お前なりにこの学校を守ろうとしてくれた。流石は生徒会副会長様だな」
「やめろよ、慎太郎……。俺は……お前たちに……」
その時、十二の高笑いが聞こえ、全員が振り向く。
しかし、そこには指を差し地に伏した行方がいた。
「行方先生……! やられてるじゃないか……!」
しかし、その直後、十二は姿を消した。