一通り話を聞き終わると、夏目はニタニタとソファに腰を掛けた。
「ふむふむ、そう言う作戦だったわけか。相手の知らない能力で一点集中攻撃、それに、相手の罠を逆に利用する作戦。素晴らしいね!」
夏目は拍手をしながら学生たちを称賛した。
「いえ……実際ギリギリでした……。最後、昴がいなければ僕たちは六現に負けてましたし……」
「うーん、多分君たちは勝っていたよ。その昴くんの異能力も計算の内……だったはずだ」
「え……?」
「行秋くんだよ。昴くんは起き上がり戦う。そこまで計算に入れられる根拠……見つけられるかな……?」
暫くして、昴はハッとする。
「異能力申請書……!」
「大正解……」
夏目はニコッと笑う。
「そうか……行方先生は、生徒全員の名前や異能まで全てを暗記している。昴の異能力申請書を読んで、こうなる事態まで想定して僕に作戦指揮を任せた……と言うことですか……!?」
「まあ、もし万が一にも作戦が失敗しても、君たちが敗けることはなかったんだけどね」
そして、再び夏目はニコッと笑い、指を立てた。
「さーあ、登場してもらおーう!」
すると、ガタン……と、生徒会室の扉が開けられる。
「貴方は……清水先生!?」
「彼は異能教学園二年生化学教諭……というのは表の顔。本当はね……」
「異能警察 “潜入捜査官” 清水源治だ」
「異能警察の潜入捜査官!?」
全員は驚愕に声を上げる。
「清水先生のイメージって……生徒に干渉がなくて、授業を淡々とこなして、外に出たと思えば池の水に手を突っ込んで掃除してる印象しかないんですけど……」
「ははは、彼らしいね。実際、仕事は面倒臭がる人なことに変わりはないからね。でも、実力は確かだ。でなければ潜入捜査官は務まらないからね」
「ですが……清水先生の異能力って、恐らくですけど水の異能力……多分、洗浄とか……ですよね……? どうも、強いとは思えないんですが……」
「ハハっ、昴くん、君のお姉さん。異能警察長官、八百万神子を教育したのは、彼、清水さんだよ」
「!?」
昴は声にもならない驚愕の顔を示す。
「俺の異能は水の異能ではない。潜入捜査が仕事だし、今ここでバラす気はないが、いずれ分かるだろう」
「いずれ分かる……? でも、今回、異能教徒を捕獲した訳ですし、この学園から離れるんですよね……?」
その質問に代わって答えたのは夏目だった。
「違うよ。今回のこの事件の担当は行方くん。清水さんはもっと未来を見越した任務を言い渡されている」
「未来を見越した任務……?」
「そう。異能教徒と戦える器の学生を見つけ、それら逸材を育てることが、彼の本当の任務だ。そして、それに選ばれたのが、君たちの世代と言うわけだ」
「僕たちが……異能教徒と戦う……!?」
「ああ、これは数年前から国家と俺たち探偵局、異能警察により決められていたことだ。当然、長官である神子さんもこのことは知っている。異能教徒が現在行っているのは若い子供たちを洗脳し、異能が一番強い十代の内に戦闘部隊に育て上げること。十二さんがそうだったようにね。既に暗殺部隊として育てられていた施設も潰したが、それでも洗脳と言うものは恐ろしい。それに対抗できるのは、同じ力、年代の君たちってわけだ」
全員が唖然として動けないで夏目を見遣っていた。
「今回、行方くんが実習生として派遣されたのは、君たちの器量を図る為でもある。そして、これらのことは全て、学園長も知っている」
「だから、今回の件はここまでの大事なのに、生徒たちだけで行っていた……と言うことですね……」
汗を滲ませながら、慎太郎は顔を曇らせていた。
曇らせる理由は、今回の戦いで既に全員が満身創痍だったことにある。
これからの戦いを見越し、勝てないと判断していたからだった。
それを察した清水は、慎太郎の頭を掴む。
「だから、この俺がいるんだ。お前らを、一から鍛え直す為にな」
「そう言うわけだよ。まあ、そんなところで、もう日も暮れてしまっている。学生諸君は帰りなさい。行秋くんと二乃ちゃんは、俺がワープで探偵局に送ろう」
そう言うと、夏目は早々に二人を連れてワープして行ってしまった。
学生たちも、指示に従い帰宅することとなった。
「やあ、目が覚めたかい?」
「夏目……さん……?」
「気分はどうかな……二乃ちゃん」
「頭が錯乱しているみたいで……記憶が……。そうだ……行方くん……行方くんは……!?」
「彼なら、起きて直ぐに書類と向き合ってる。まだ探偵局にいるよ。まったく、今日くらい休めばいいのにね」
二宮は、夏目の言葉を遮って事務所に駆けた。
「まったく……若いね」
バタン! と、大きな音で二宮は扉を開ける。
「行方くん!!」
「二宮、起きたか。元気そうだな。お前にも書いてもらうものがある。今日は休ませようと思ったが、それくらい元気なら大丈夫そうだな」
「それより……話したいことが……」
しかし、行方は書類を差し出した。
「これが全部片付いたらだ」
「行方くん……!」
「全部終わったら、話してやる。全てを……」
その言葉を受け、行方と二宮は書類を書き進めた。
書類を書き終わり、そのままいつもの様に行方のバイクへと二人で跨り、二人は終始無言で走り出す。
そして、自販機のある公園で行方はバイクを停めた。
行方はお茶を二本買うと、一本を二宮に差し出した。
「コーヒーじゃないんだ。行方くん、いつもコーヒー飲んでるのに」
「この時間にカフェインは身体に悪い。眠れなくもなるしな。だからお茶を買ったんだ」
二人はそのまま何気なく付近のベンチへ腰掛けた。
聞きたいことは山ほどあるのに、上手く言葉が出せない二宮。
二人の間には静寂が続いた。
「赤い鳥」
ポツンと行方は呟き、二宮は振り返る。
「十二の音波で、見たんだろ、赤い鳥を」
「うん……」
ふう……と、行方の口から白い息が漏れた。
「お前が見た赤い鳥の正体は、“起源の炎” “フェニックス” と呼ばれているものだ」
「起源の炎……フェニックス……」
「二宮、僕の目をよく見ろ」
二宮が目を凝らして行方の瞳を見ると、瞳の中には薄らと十字架の模様が見えた。
「コンタクト……?」
「違う。印だ」
「印……?」
「二宮、お前の異能は『火炎』じゃない」
二宮は、頭のどこかで既に分かっていた。
次に行方が言うことが。
「お前の本当の異能は、『フェニックス』だ」
「私の異能が……フェニックス……?」
「そうだ。そして、それを昔、封じたのが僕だ」
突然のことに思考回路が停止する二宮。
「だ、だって……私と行方くんが出会ったのは、あの強盗事件の時の……」
「確かに出会ったのはその時だ。しかし、僕はお前が小さな頃からずっと、お前を監視してきた」
空いた口は塞がることを知らず、ただ行方を眺める。
「異能の起源の一つ、フェニックスの監視、及び保護が、僕の本当の任務だ」
「やだ……やめてよ……」
二宮は動揺のあまり、震えながら立ち上がる。
「私を……フェニックスなんて呼ばないでよ……私は二乃……二宮二乃……フェニックスじゃない……」
混乱する二宮は、そのままお茶を零しながら走り出してしまった。
「やはり……こうなるか……。どうするんですか、夏目さん」
ベンチの背後から、夏目がそっと現れる。
「二乃ちゃんには印が付いてる。どこへ行ったって、すぐにワープで追い付けるよ」
「そう言う話じゃないですよ。まったく、分かってるくせにそう言うことを……」
「ハハ、ごめんごめん。でもね、乗り越えなきゃいけない問題だからね……二乃ちゃんには」
「そうですね」
そう言うと、行方も立ち上がり、後を追った。
「もちろん、君もだよ。行秋くん……」
一人でに呟き、夏目はどこかへワープした。
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