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冴side
朝。
「……あれ?」
冴は教室に入るなり、奏斗の席を見た。
誰もいない。
いつもなら、
「おはよー!」
と、朝から元気な声が聞こえるのに。
今日は静かだった。
「神崎、まだ来てない?」
近くにいた颯太に聞く。
「ん? ああ。」
颯太がスマホを見る。
「今日休み。」
「……休み?」
「昨日の体育祭で頑張りすぎたんじゃね?」
「……。」
冴はもう一度、空っぽの席を見る。
なんとなく。
教室がいつもより広く感じた。
-–
一時間目。
先生が黒板に問題を書く。
冴はノートを取る。
けれど。
「……。」
いつもなら隣から、
「石川、ここ分かる?」
とか、
「この問題難しくない?」
とか聞こえてくる。
今日は何もない。
静かすぎる。
(……。)
ペンが止まった。
「石川?」
先生に呼ばれて、冴は顔を上げる。
「はい。」
「大丈夫か?」
「……大丈夫です。」
答えながら。
昨日、奏斗が言っていた言葉を思い出した。
『石川がバトン渡してくれたの、嬉しかった。』
「……。」
胸の奥が、少しだけ苦しくなる。
-–
昼休み。
冴はスマホを取り出した。
メッセージ画面。
奏斗の名前。
しばらく見つめる。
(……。)
何て送ればいいんだろう。
『大丈夫?』
それだけでいい。
でも。
送信ボタンを押す直前で、指が止まる。
(迷惑じゃないかな。)
(寝てるかもしれない。)
(……。)
それでも。
「……。」
送った。
『大丈夫?』
既読はつかない。
冴はスマホを伏せた。
-–
数分後。
ブブッ。
「……!」
すぐにスマホを取る。
『大丈夫!』
その下に続けて、
『心配してくれた?』
「……。」
冴は固まった。
「……。」
返信する。
『少し。』
送信。
数秒後。
『そっか。ありがとう』
そのメッセージを見て。
冴は小さく笑った。
-–
放課後。
帰りの会が終わる。
「じゃあなー!」
みんなが帰っていく。
冴は鞄を持つ。
すると、颯太が声をかけた。
「石川。」
「ん?」
「今日、ずっと神崎のこと気にしてた?」
「……。」
「分かりやすい。」
「……そんなに?」
「うん。」
冴は少し考える。
「……いないと。」
「?」
「変な感じがする。」
「……。」
颯太は一瞬黙った。
そして。
「そっか。」
それ以上は何も言わなかった。
-–
その夜。
奏斗からメッセージが届いた。
『熱下がってきた!』
『明日は行けそう』
冴は画面を見つめる。
そして。
『よかった。』
送信。
少し考えて。
もう一通。
『明日、待ってる。』
送ったあと。
「……。」
冴は自分で驚いた。
(……待ってる。)
そんな言葉を、自分から送った。
するとすぐに返信が来た。
『絶対行く!』
冴はスマホを胸元に置く。
「……ふふ。」
明日。
また、いつもの席に奏斗が座る。
そう思うだけで。
少しだけ嬉しかった。
-–
翌朝。
教室。
「おはよー!」
「……!」
聞き慣れた声。
冴が振り返る。
奏斗が立っていた。
「おはよう。」
「……おはよう。」
「昨日、心配してくれた?」
「……少し。」
「そっか。」
奏斗は笑った。
「嬉しい。」
「……。」
冴も少しだけ笑う。
「もう大丈夫?」
「うん。」
「ならよかった。」
二人はいつもの席に座る。
昨日まで当たり前だった景色。
でも。
今日は少しだけ違って見えた。
「いないと、寂しい。」
その気持ちを。
冴はまだ、恋とは呼ばなかった。
ただ。
「……神崎。」
「ん?」
「今日、一緒に帰ろ。」
「もちろん!」
その返事が、嬉しかった。
-–
奏斗side
朝。
目が覚めた瞬間、頭が重かった。
「……最悪。」
昨日の体育祭で張り切りすぎた。
スマホを見る。
時刻は七時過ぎ。
「学校……。」
行きたい。
でも、体が言うことを聞かない。
諦めて、先生に連絡する。
そしてベッドに戻った。
-–
しばらくして。
スマホが鳴る。
友達からのメッセージ。
でも、なぜか一番気になる名前がない。
「……石川。」
昨日まで普通に隣にいたのに。
今日は学校にいる。
俺はいない。
そう思うと、妙に寂しかった。
「……変なの。」
友達なんだから。
一日会わないくらい、普通だろ。
そう思って目を閉じる。
-–
昼過ぎ。
スマホが震えた。
画面を見る。
石川
「……!」
一気に目が覚める。
『大丈夫?』
たった四文字。
なのに。
「……。」
嬉しい。
すごく。
「心配してくれたんだ。」
返信する。
『大丈夫!』
そして、ちょっとだけ意地悪してみる。
『心配してくれた?』
送信。
既読。
数秒後。
『少し。』
「……。」
思わず笑ってしまった。
「少しかぁ。」
でも。
嬉しい。
-–
夕方。
熱が少し下がってきた。
スマホを見る。
まだ石川とのトーク画面を開いたまま。
「……明日、行けるかな。」
会いたい。
その言葉が頭に浮かんだ。
「……。」
自分で驚く。
会いたい?
誰に?
……石川に。
「……。」
なんでだろ。
前なら、こんなこと考えなかった。
友達と会えないから寂しい。
それだけのはずなのに。
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翌朝。
なんとか学校へ行く。
教室のドアを開ける。
「おはよー!」
「……!」
冴が振り返った。
「おはよう。」
その顔を見た瞬間。
「あ。」
昨日まであっただるさが、一気に軽くなった気がした。
「昨日、心配してくれた?」
「……少し。」
「そっか。」
嬉しくて、笑う。
「嬉しい。」
冴が少し照れたように目をそらす。
「……。」
その姿を見て。
また思った。
(やっぱり。)
(会えてよかった。)
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放課後。
「今日、一緒に帰ろ。」
冴が言う。
「もちろん!」
即答だった。
帰り道。
いつものように隣を歩く。
昨日、一人だった道。
今日は全然違う。
「……石川。」
「ん?」
「俺さ。」
「?」
「昨日。」
「学校休んで、ちょっと思った。」
「何を?」
奏斗は少し迷ってから笑った。
「……明日、早く学校行きたいなって。」
冴が目を丸くする。
「珍しい。」
「だろ?」
「なんで?」
「……。」
奏斗は前を見る。
「秘密。」
本当は。
冴に会いたかったから。
でも。
まだ、その言葉を口にする勇気はなかった。
だから今は。
隣を歩いているだけでいい。
そう思った。
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奏斗side おわり
次回・第29話「放課後の約束」
奏斗が元気になったお祝いに、二人で寄り道することに。
ところが帰り道、突然雨が降ってきて――。
「……手、つないだほうがいい?」
そんな一言から、二人が今までより少しだけ意識してしまう回へ。
コメント
1件
おお、これはいいお話でしたね…!奏斗が風邪で休んだ日、冴の周りが「静かすぎる」と感じる描写がすごく印象的でした。あの「いないと変な感じ」って、気づかないうちに日常が特別になっている証拠ですよね。短いメッセージのやりとりでお互いが顔を綻ばせる様子が、二人とも自覚し始めた恋心の予感でじんわりしました。明日の「待ってる」から始まる朝の再会シーン、とても温かかったです。
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