赤side
目が覚めるとカーテンの隙間から日が差して朝だと感じる。
あぁ、今日も朝が来てしまった。
複雑な家庭環境で育った俺は大学に行かせて貰えなく、とりあえずで始めたコンビニバイトも飲食店のバイトも俺には合わなかったのかミスが目立ち自ら辞めてしまった。
赤『…これからどうしよう』
収入がないから1人で住めるわけもなく今でも実家からは出れていない。
鬱状態のお母さんの面倒を見る度、お兄ちゃんのダルけた姿を見る度、なんとも言えない気持ちになって苦しくなる。
これは2人への怒りなのか、だとしたら働かずここに居る俺も同じようなものじゃないか。
そんなことを考えながら部屋に籠りパソコンと見つめ合う。
仕事を探して今すぐこの家から逃げたい。
けれど、頑張ろうとするとどうしようもなく心が息苦しくなって何も出来ないままだ。
求人サイトを眺めているとすっかり開かなくなったスマホから1ヶ月ぶりに通知が来た。
桃〈久しぶり、元気?〉
宛名は親友の桃くんからだった。
数年前にネットで出会ってから仲良くなり、家もそれなりに近かったため今ではリア友となった。
俺が19歳に対し桃くんは25歳で、大きな病院の精神科医として働いている。
桃くんが忙しくなり会うことはすっかり無くなったが、俺の家庭の事情や抱えてる病を知ってるため数ヶ月に一度連絡をくれる。
俺は幼少期に適応障害と診断された。
当時は病室にお母さんが居て何に苦しんでいるのか何に悩んでいるのか詳しく伝えれなかったため原因をはっきりとは伝えてくれなかった。
桃くんが言うには家庭環境が原因だろうとのこと。
数年前に本当にダメそうだったら俺の家へ来いと言われたけれど、当時は未成年だったため桃くんの為にも頼らなかったが今は19歳。
頼りに行ってもいいのだろうか。
桃くんだってきっと忙しい。
だが俺はこのままだと何も出来ず死んでいくだろう。
桃〈赤?〉
赤〈久しぶりに会いたい〉
桃くんならどうにかしてくれるかもしれないと淡い期待を抱きながら桃くんに返事をすると会ってくれることになった。
久しぶりに外へでるなと思い鏡を見ると自分の痩せこけた体や疲れきった表情が気持ち悪くて吐き気がした。
節約のために美容院へ行けてないため伸びた襟足を結ぶ。
体型が目立たないようにぶかっとしたパーカーとズボンを履いて家を出た。
・
久しぶりに出た外の世界はなんだか俺には眩しくて不意にも泣きそうになる。
こんな無価値そのものの俺が生きていていいのだろうか。
電車に乗ると丁度仕事の終わった人や学校終わりに遊んでたであろう人が沢山居てより苦しくなる。
本来なら俺も働いた後に乗る電車。
乗車してから数分、ここに居ることが耐えられなくなり降りる予定だった駅の2つ前で降りてしまった。
赤『はっ、はぁっ、』
胸がざわざわして動悸が酷い。
ベンチを見つけ落ち着こうと深呼吸をするが中々胸のざわめきが治らず焦りもひどくなってくる。
苦しさに心の中で足掻いているとスマホが鳴った。
名前を見ると桃くんからで用も分からず一目散出てしまった。
桃『赤?大丈夫そう?』
赤『…はぁっ、ふっ、』
桃『赤ー?今どこにいる?』
赤『わかっ…ない、ッ』
桃『そっか、電車乗った?』
赤『はっ、はっ、』
苦しい。
桃『あー、いいや、とりあえず深呼吸しよ』
桃『聞こえてる?』
赤『ぅ…はぁっ、っ』
桃『ゆっくり吸って、』
赤『はっ、…すぅっ、』
桃『吐いてー?』
赤『はぁっ、けほっ、』
桃『そう、上手』
桃『もう一度やってみて』
桃くんの指示に従って深呼吸をしていると段々胸のざわざわも息苦しさも薄れて、桃くんの声がハッキリと脳に届いた。
桃『落ち着いた?』
赤『…うん』
桃『良かった、今どこ?』
赤『代々木、』
桃『俺迎えいくから改札口で待ってて』
そう伝えられ返事をする間もなく電話を切られてしまった。
落ち着くためにもイヤホンで音楽を聴きながら改札口を目指した。
・
桃side
久しぶりにLINEを送ると会いたいと返ってきた。
何となく遊びたくなったのだろうか、はたまた追い詰められた状況なのか。
赤の性格も心境も家庭環境が原因ですっかり複雑になってしまったため忙しい合間をとって俺は定期的に赤へ連絡を取るようにしていた。
集合時間になっても赤が来ないため通話をかけると荒い息が聞こえてきた。
会いたいと言った理由は後者だったっぽい。
通話越しで落ち着かせてから迎えに行こうと駅へ走る。
・
電車に乗り赤のいる駅へ付き改札口へ向かうと端っこで俯く赤が居た。
イヤホンをして気付いてない赤の肩を優しく叩くとびくっと大きく震え潤う瞳をまん丸くして俺を見る。
つーっと赤の頬に涙が伝った。
桃『赤、』
赤『ぁ、えっと、そのッ』
見ないうちにこんなに痩せたのか。
首筋や手に浮き出る骨、そして厚く塗られた目元のコンシーラーから不健康さを感じる。
桃『久しぶり』
赤『ぅ、ん、久しぶり』
桃『色々聞きたいことあるから俺の家こん?』
桃『カフェでもいいけど疲れてるだろ』
家にくると言った赤を連れタクシーを捕まえた。
数十分車に揺られ俺の家から1番近いコンビニへ着き金を払い家へ向かおうとすると赤が立ち止まりまた泣きそうな表情を見せてきた。
桃『どうした?』
赤『お金、払えない…』
桃『いいよ笑、今日は奢り』
赤『ごめん、ほんとごめん…』
桃『大丈夫大丈夫、なんかあったんだろ?』
桃『家で話聞くからあと少し頑張って』
そう伝えると涙を堪えて俺に近ずいてきたから少し足を遅めて家へ向かう。
・
鍵をあけて赤を招き入れる。
桃『もう19だよな?』
赤『うん、』
桃『良かった〜俺捕まらない〜』
桃『適当に座って』
桃『コーラでいい?』
赤『大丈夫、』
多分遠慮の方の大丈夫だったがコーラを渡すと飲んでくれた。
桃『まだ飯食ってないの?』
赤『食べてないけどお腹空いてないから大丈夫』
桃『食欲無い感じ?』
赤『まあ、ちょっとね』
桃『俺最近自炊ハマってるから玉ねぎスープ作ってあげるー』
赤『え、でも…』
桃『残して大丈夫。俺食うし』
そう言い残しキッチンへ立つとポツンとソファーに座りぼーっとしてる赤が見えたため、前に良く2人で見た投稿者の動画を流しといた。
・
桃『できた』
テーブルにスープを置くとてくてくとソファーから椅子に来てくれた。
赤『ぃ、いただきます、』
桃『召し上がれ』
スプーンを持ってゆっくり一口飲むと動きが止まったがすぐにさっきよりスピードよく食べてくれたためきっと美味しくできたのだろう。
赤『…ぐすっ、』
急に泣き出す赤。
桃『どした?』
赤『誰も、居ない…』
赤『お母さんも…お兄ちゃんも…』
桃『それは安心するってこと?』
こくっと頷きぼろぼろと涙を流す赤を見て赤の病状の悪化を感じた。
これ以上こいつをあの家に居させるのは危険だと心から思う。
頼れない性格な赤が会いたいと伝えた、その一言が赤にとってのSOSだったのかもしれない。
桃『赤はどうして今日会いたかったん?』
赤『…』
桃『俺はどんな言葉も受け入れる』
桃『赤の本当の気持ち教えて?』
赤『俺、おかしいの…』
働こうとすると体調が悪くなること。
対して傷付いていないのに涙がでること。
家からでたいが働けないため一人暮らしができないこと。
自分には価値がないと思っていること。
きっと赤は働けていない自分を受け入れてあげれていないのだろう、周りと比べてより首を絞めている。
桃『そっか、話してくれてありがとう』
赤『…どうしよう、桃くんだって頑張ってるのに』
桃『赤は今、家の事や周りとの差や色んなことに頭を使っているせいで赤が一番頑張りたいことに集中出来なくなってるんだと思う。』
桃『一度全てを考えずに休めば赤が悩んでいる症状も軽くなる』
赤『ほんと、?』
桃『とにかくストレスの原因となる実家から離れることだな。』
赤『…むりだよ』
桃『入院させたいけどもう青丸じゃないしなぁ』
赤『青丸…?』
桃『無料じゃないってこと』
赤『…あぁ、』
桃『俺の家泊まる?』
赤『ぇ、?』
桃『俺はほぼ家に居ないようなもんだし赤がここで暮らせるならここに居ていいよってこと』
赤『でも、悪いよ、家賃とか払えないし』
桃『まあ、いつか働けるようになったらでいいよ』
桃『あ、でも焦んなよ?いつかで良いんだから』
赤『…分かった、ありがとう』
桃『もう10時かぁ、どうする?一旦帰る?』
赤『俺、上手く言えないかも…』
桃『じゃあ明日一緒に行く?』
赤『うん、』
赤『ほんとに泊まっていいの、?』
桃『いいよ、あ、でも一応連絡しといて』
桃『今晩泊まるって』
赤『分かった、』
・
赤side
家族LINEに泊まることを伝えソファーで一息つく。
本当に良かったのだろうか。
気を使わせてしまったのかな。
でも桃くんからの提案だったから大丈夫なのかな。
桃『あか!』
赤『ぇっ、な、なに?』
桃『何度も呼んだんだけど、』
赤『ごめん、』
桃『何考えてたん?』
赤『んー、なんでもない』
桃『そっか、ゲームでもする?』
赤『桃くん強いじゃん、、』
桃『大丈夫大丈夫、勝たせてあげまちゅからね〜』
赤『…絶対勝つから』
・
桃『そろそろ寝るか』
集中してゲームをしていて気付けば日付が変わっていた。
桃『俺ソファーでいいよ』
赤『いや、だめ』
赤『俺罪悪感で死にそうだからソファーで寝させて』
桃『…分かった笑』
桃『じゃあおやすみ』
赤『おやすみ、』
・
2ヶ月後
遠くの方で鳴るアラーム音で目が覚める。
この音は桃くん用だが音に敏感な俺は簡単に起きてしまうのだ。
桃『おはよ』
赤『おはよー、』
桃『今日は夜勤だから12時頃までここに居るから』
赤『そっか、俺が朝ごはん作るね』
桃『お願いしまーす』
桃くんの家にきて早2ヶ月、初めは何も出来なかったが今は家賃の代わりに家事を任させてもらっている。
目玉焼きとトーストを焼き牛乳を注いで2人向き合って椅子に座った。
桃『いただきまーす』
赤『召し上がれ』
・
ごはんを食べ終わりソファーに座り各自好きなことをしているといじってるスマホに通知がきた。
高校卒業時から動いてないインスタからのDM通知で、開くと高校時代なんとなく仲の良かった友達からだった。
友〈元気?〉
久しぶりに声をかけられた嬉しさから少し空元気に返事を打つ。
赤〈元気だよ〉
友〈そっか!良かった〉
友〈そういえば俺、大学でやってる劇の主演取れたんだよ!〉
そうだ、こいつと演劇を一緒にしてたんだ。
赤〈良かったねー!〉
友〈赤は今なにやってんの?〉
いま何やっているのか。
ニートやってるなんて言えない。
てか俺はいつまで桃くんに甘えているんだ。
周りはみんな前を向いているのに。
なんで俺は、、
桃『ストップ、』
赤『っ、』
桃『とりま爪噛むの辞めな』
桃『どうしたの?』
赤『なんでもない、』
桃『なんでもなくないでしょ』
赤『もう、やだ』
桃『なにがやだ?』
赤『みんな頑張ってる、俺も頑張りたいのにダラダラしてばっか』
桃『いま心を休ませてるんだからいいんだよ』
赤『でも、だめなの、』
ほら、泣いてばっか。
どう頑張っても涙が止まらない。
桃『会う予定のない友達に正直にならなくてもいい。嘘ついたっていいんだぞ』
桃『ごめん、画面見えちゃった』
赤『ッうそ…?』
桃『俺も医大行ってたのにラーメン屋で働いてるって嘘ついたことある』
赤『…え、?笑』
桃『だから赤も嘘ついちゃいな、笑』
桃くんに言われた通り、嘘をついた。
罪悪感も少しあったけど、確かにもう会わないような相手だし大丈夫だろう。
桃『よくできました、』
細くてごつごつした綺麗な手で俺の頭を撫でてくれた。
・
桃『赤、病院行かない?』
赤『やだ』
俺が桃くんの誘いに断るのはこれで20回目だ。
診察代も薬代もどのくらいかはわからないけどお金がかかってしまう。
桃くんにこれ以上負担をかけてしまう事がすごく嫌だった。
そして、俺が病気なんだってこれ以上改めて知りたくなかった。
桃『…薬も頼らないでよくここまで回復したよ。それは認める。』
桃『でもこれから赤が新たな職場で頑張るうえで薬はお守りになると思う。』
桃『たまにすごく気分が落ちる時あるだろ?それも軽くなるから。』
赤『でも、だめだよ、』
桃『お金のことなら気にしなくていいって』
桃『赤が働けるようになるまでの生活費は俺が奢る、でも赤が罪悪感を感じてしまうのなら出世払いでいい』
桃『俺は早く赤の心を治したいだけなんだ、』
これで首を縦に振れば俺は楽になるのだろう。
今までの人生で我儘や欲望を表に出したことがあまりないがゆえに桃くんを逆に困らせてしまっていたのだろうか。
また頭がぐちゃぐちゃになる。
桃『色々伝えすぎたな、ごめん』
赤『…ぐすっ、』
赤『びょ、いん…いきたいッ、』
桃『…!』
桃『行こう、俺が見てあげるから』
なんでこの我儘に桃くんは嬉しそうなの。
お金だってかかるのに。
桃『ありがとう、言ってくれて』
赤『ごめん…迷惑かけてばっか』
桃『大丈夫だから申し訳なく思うな』
頭を撫でられてまた涙がとまらない。
・
2ヶ月後
通院するようになり薬を手に入れ最近は割かし安定した暮らしを送れている気がする。
桃『全然俺が居ない時ゲームとかしていいからな』
赤『うん!ありがとう』
そんな、桃くんが頑張ってる中俺は家でゲームしてますなんて申し訳なくてできないよ、、。
赤『あ、あのさ』
桃『どした?』
赤『俺、仕事したい、ッ』
桃『うーん、確かに前より安定してるけどなぁ』
桃『週1から2までならいいよ』
赤『そんな条件で雇ってくれるとこなんてないでしょ、』
桃『赤は働けたらなんでもする?』
赤『変な事じゃなければ、』
桃『ナースエイドって知ってる?』
赤『んーん、わからない』
桃『簡単に言うと入院してる患者さんのシーツ交換とか食事の介助とか、医療行為以外のことをする仕事』
赤『へー、』
桃『俺の病院で一人募集してたから赤どうかなって、』
赤『俺に出来るかな…』
桃『まあ、考えてみて?』
赤『分かった、』
・
〈別日〉
どうしよう、俺働けるかな。
辞めた方がいい?
でも、働いてみたい。
今日もそんな気持ちを脳内で会話させ朝食を作る。
桃『おはよー』
赤『おはよ』
桃『悩んでんの?』
赤『ぅ、うん、』
赤『不安でさ、また上手く働けなければ迷惑がかかるでしょ』
桃『そっか、でも何事も始めたてはみんな迷惑をかけるもんじゃない?』
たしかに、そうだ。
桃『赤がもし仕事に慣れてるとして、新人の人がミスをした時にちゃんとしろって怒りを覚える?』
赤『いや、教えたくなる、』
桃『そうだよな、ほとんどの人がそんな気持ちだと思うよ。』
赤『ミスしても怒鳴られないかな、』
桃『そんな所滅多にない、もしそうだったら俺に言って?』
赤『分かった、』
赤『俺、働いてみる』
桃『分かった、面接の相談してみるな』
そっか、面接…
まだ日にちも決まってないのに緊張で喉がきゅっと締まる
でも頑張るって決めたから乗り越えないと。
前を向かないと。
・
〈1ヶ月後〉
俺は面接を乗り越え無事採用を貰った。
桃くんが職場の人に軽く病状のことを話したらしく理解のある人だったと昨日言われた。
ついに明日は出勤日だ。
この家に来た頃に買ってもらった簡易ベッドで今日も寝ようと目を瞑るけど中々寝付けず焦りが湧く。
赤『はぁっ、はっ、ふっ、、』
このままじゃまずいと薬を飲むために立ち上がると立ちくらみが酷くてベッドへ倒れてしまった。
赤『んっ、はぁっ、』
桃『大丈夫か、』
しまった、桃くんを起こしてしまった。
明日朝早いって言ってたのに。
赤『ごめっ、はっ、』
桃『深呼吸して、大丈夫だから』
赤『はぁっ、すっ、はっ、』
桃『ほら、俺に合わせて』
桃くんと深呼吸を繰り返すと呼吸がだんだん落ち着いてきた。
桃『大丈夫?』
赤『ッごめん、大丈夫』
桃『何があったの』
赤『立ちくらみが酷かっただけ、』
桃『この発作は?』
赤『薬飲もうとしたのッ』
桃『そっか、』
桃くんに注いでもらった水で頓服の薬を飲むとだんだん眠気が襲ってきてものの数分で眠りについた。
・
目が覚めるともう既に桃くんは起きていて朝ごはんもテーブルに置いてあった。
赤『ぉ、おはよ』
桃『おはよ』
桃『今日は行けそう?』
赤『うん、行く』
初出勤を欠席なんて出来るわけないんだと自分に言い聞かせて正気を保つ。
緊張して今にも泣きそうだが。
・
支度をし終わり桃くんと一緒に玄関を出る。
冬の朝はすっごく寒くて凍えそうだ。
桃『寒いな』
赤『めっちゃ寒い』
病院に着き各自の行き先へ別れる。
桃『頑張れ』
赤『ありがとう、桃くんも頑張って』
・
朝8時から16時までの勤務が終わり院内の売店で一息つく。
ミスはあったけれどなんとかやりきれた。
あの時ああすればと後悔の波に呑まれそうになる間に帰ろうと立ち上がり家へ向かった。
・
家の鍵をあけソファーに座ると緊張が解けたのか涙が溢れた。
俺頑張れたんだ。
みんなみたいにずっと頑張れるかな。
そんなことを思いながら過ごしていると玄関が開き慌てて涙を拭き取る。
桃『ただいまー』
桃『どしたの〜赤』
赤『なんでもないッ、』
桃『何かあったの?大丈夫?』
赤『久しぶりに…頑張れたなってッ』
桃『そうだな、頑張ったな』
桃くんが買ってきてくれたケーキを一緒に食べてその日は眠りについた。
・
〈別日〉
初出勤から3週間が経とうとしてる。
週2で働かせてもらってるおかげで休息をちゃんと取れては居るが、その分仕事を覚えるスピードもゆっくりな訳で、ミスをしてしまった自分への許せない気持ちと周りへ迷惑をかけた罪悪感で毎晩息苦しくなってしまう。
明日が来なければって、何度も何度も思う。
だけど休んでしまえばまた前の生活に戻ってしまうんじゃないかってさらに不安に思ってしまい心が落ち着かない。
桃くんも俺の様子に気付いてる用で休もうと伝えてくれるがまだ一度も休んではいない。
眠りに着き目が覚めてしまえばまた仕事に行く時間だ。
・
桃side
桃『おはよ赤』
赤『…うん、』
仕事を初めた初日は良かったものの少し慣れてきた最近はどんどん気分が落ちて行き、まだ仕事を紹介するのは早かったかと自分の選択に後悔をしている。
桃『今日はどうする?』
赤『…いく』
桃『そっか、無理そうだったら早退しな?』
休職も時間の問題だろうかと思いながら赤を見守った。
・
赤side
ごはんを食べて、
歯を磨いて、
髪をセットして、
あれ、次は何をすればいいんだっけ。
いかなきゃいけないのに、
頭が上手く回らない。
どうしよう、どうしよう、。
赤『うぅ、はっ、はっ、』
桃『あか、落ち着いて』
赤『やっ、はッ、ひゅっ、』
桃『いつもみたいに深呼吸してみな』
赤『はっ、はぁっ、すっ、』
桃『俺の真似してみ』
・
赤『すぅっ、はぁ、けほっ、』
桃『そう、上手』
赤『いかなきゃ、遅刻しちゃう』
桃『赤、今日は休も?』
赤『大丈夫だよ、行けるからッ』
桃『いま赤泣いてるんだけど』
赤『えッ、?』
自分の頬を触れると確かに濡れていた。
桃『大丈夫だから、今日休んでもまた来週行けばいい。』
桃『しかも、赤が体調を崩して休むこともあるってちゃんと伝えてるから、』
桃『だから大丈夫。』
そう伝えながら桃くんは俺の事を優しく抱きしめてくれた。
赤『ぅ…ぐすっ、』
桃『今日は休も、頑張ったな』
ベッドに横にされお腹を優しく叩かれると眠気が襲ってきてすぐに眠りについた。
・
〈別日〉
今日は休んでから初めての出勤日。
どんな顔して行けばいいのか、ちゃんと仕事をできるか、不安でいっぱいだけどここで頑張らないとまたダメになってしまう気がする。
桃『赤おはよ』
赤『お、おはよ』
桃『気持ちはどんな感じ?』
赤『大丈夫、大丈夫だから…ッ』
桃『んー、顔色は割かし良いし大丈夫かな、』
桃『キツかったら早退して?』
赤『分かった、』
・
桃『行けそう?』
赤『うん、!』
桃『よし、』
支度をして桃くんと一緒に家を出る。
勇気を出して飛び出した世界は俺が思う以上に輝いていた。
𝑒𝑛𝑑
コメント
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サブ垢からごめんなさい🙏今、学校なんですよね((アハハ 投稿ありがとうございます😭過呼吸の表現や、ぱにっくになった時の表現が ほんとに、上手すぎるし。好きすぎるし。 ほんとにありがとうございます(´;ω;`) 今回の作品もとってもとっても最高でした😭 この作品も何回も見返しさせていただきます、‼