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「会場にお集りの皆様、ただいまより、松本幹雄と上原こずえの婚礼パーティーを開催いたします。どうぞ、おくつろぎいただきながらご観覧くださいませ」
爽やかな女性司会の声とともに、壇上に幹雄が現れた。大きな拍手に包まれながらの登場。そこが地獄へのステージだとも知らずに。
「皆様、本日はわたくしごとのためにお集り下さり、本当にありがとうございます。世間をお騒がせいたしました母の件、まずはこの場を借りて深くお詫び申し上げます」
彼が謝罪の言葉を口にし、頭を下げた。メディア関係者からのフラッシュが光る。暫く幹雄はその格好で停止していた。美晴はすぐ近くから幹雄を冷めた目で見つめていた。どうせ心にもない嘘の謝罪のくせに――
「母はこの家で蝶や花やと甘やかされて育ってまいりました。いきすぎた行為と判断がつかなかったせいで、お相手の方に大変不愉快な思いをさせてしまいました。本当に申し訳ございません。深く反省しております。松本家の代表として心よりお詫び申し上げます」
非を認めて謝罪するなど、ただのパフォーマンスだ。幹雄はそんなことを微塵も思っていない。お腹の子を殺してもなんとも思わないような人間だ。
「今まで松本家は地元のみなさまと共に歩んでまいりました。この反省を真摯に受け止め、わたくしが新しい家庭を持ち、さらなる発展をさせることでみなさまの暮らしを支え、貢献したいと考えております」
饒舌に語っていた時だった。
「いやあ、ご立派ですね!! 素晴らしい!!」
アズミが席を立って壇上でピンスポットを浴び、話している最中の幹雄に向かって拍手をした。リベンジプラン、開始の合図だ。
「本日は松本幹雄さん、こずえさんにひとことお祝いをしたいと申しているゲストがおります。ぜひお話をさせてください!」
「な、なにを……」
突然のことで幹雄が対応しきれなかった。そこを緩急つけずに亜澄は畳みかける。
「みなさま、盛大な拍手をお願いします」
パチパチ、と大きな拍手が会場を包んだ。幹雄は呆然とするしかできない。それより今、僕が喋っていたはずなのになぜ主役の座を奪われたのだ、と考えるのが関の山だった。
「まずは、松本会計士の職員の方からお話があります。どうぞ!」
スーツを着た男性がひとり立ち上がった。亜澄が話している隙に、残りのメンバーで他の席へ資料を配った。
「どうも本日はおめでとうございます! 僕たちからスライドショーのプレゼントがありますのでどうぞ!!」
さっと手を挙げると、すぐさまスライドショーが流れ出す。立ち尽くしている幹雄の身体に投影された映像の一部が当たる。
『お前、この資料今日までに作っておけよ。泉会長のやつだからちゃんとやっておかないと承知しないぞ!』
流れている映像は、松本会計士事務所内で幹雄が長田勇気に仕事を押し付ける様子だった。
例の一番顧客である『泉兼房』のものだ。
「なっ、なんだこれは!! ああああの、皆様、これはなにかの間違いです!! おいさっさと止めろ!」
「そんなことおっしゃらずに最後まで見てくださいよ!」
他にも職員に暴言を吐いたり、パワハラをするような様子が映っていた。それはとてもひどいものだ。暴れようとする幹雄は、長田によって押さえられた。手は拘束され、口も塞がれたので声も出せない。黙って成り行きを見守るしかできなくなってしまった。