会計事務所での酷い様子が垂れ流しされ、幹雄は顔面蒼白だった。もはや立っているのも苦しい。部下に押さえつけられていなければ、膝から崩れ落ちているところだ。
「続いて私からも、こずえさんにプレゼントがあります!」
志摩がさっと手を挙げると、別の映像が流れた。すでにこずえの近くには、彼女に酷い目に遭わされた女性たちが取り囲んでいた。
『あんたが彼に相手されると思う?』
『捨てられたのがわからないなんて、可哀想なひと~♡』
『選ばれたのはこ・の・わ・た・し!』
『ご愁傷様』
ダイジェストにまとめられているが、こずえが婚約者やサレカノたちに暴言を吐いている様子や浮気の映像が流れていった。
止めて止めて、とこずえが声にならない声を上げるが、彼女に恨みを持つ複数の女性たちの手でかき消された。
「ご清聴ありがとうございました。では、最後に私からお話があります」
ついに登場したのが、美晴だ。
「幹雄さん、この度はご婚約おめでとうございます。私からもプレゼントがあるのですよ」
口をふさがれた状態の幹雄の前に記入済の離婚届を持ち、見せびらかした。
幹雄は状況をまったく読み込めなかった。
「妻帯者がある身で私の親友と婚約発表をするなんて、すばらしいお考えですね」
美晴の声に会場はどよめき、一斉にフラッシュがたかれた。
いったいなぜだ。すぐに離婚すると言ったからその用紙に記入して渡したのに。
幹雄はあるひとつの恐ろしい仮説に辿り着いた。
もしや離婚届は、提出されていないのか――?
「みなさま、もう少しだけお付き合いください」
どよめく会場を静止させ、美晴が力強く訴えた。
「私は松本幹雄に浮気され、ひどいモラハラと暴力を受けた挙句、さらに子供まで殺されました。それなのに私が浮気したなどと吹聴され、完全なる名誉棄損です! 不貞を働き、わが子を見殺しにしたのがこの男だという証拠をお聞きください――!!」
亜澄がスイッチを押すと、音声が流れた。あの日、流産をしてしまった時の電話の音声で、美晴の勤務先であるホワイトシェルの留守番電話から回収した貴重な音声だ。
そこに、幹雄がおしゃぶりを咥え、スタイを身に着けている映像が差し込まれていた。さらにこずえが介抱している様子までもが映っている。美晴への暴言シーンは職場の留守番電話に残された音声のみだったため、気持ち悪い画像を選んで貼り付けた。幹雄の秘密を暴露するために。
衝撃の映像だった。
――無能のくせに怠慢かぁ。とんだクズ嫁もらっちゃったなぁ。最・悪
――連絡しようと思ったのですが、動くと痛くて…
――言い訳はいいよ
――ご、ごめんなさい…でも、すごくお腹が痛くてっ……び、病院へ、連れて行ってくださいっ……お願い…します
――は? 僕が今から? 美晴を? 病院まで??
幹雄は渾身の力を振り絞り、長田を振り切った。
「やめろっ、違うから! 違うから止めてくれえええええ!!」
スライドショーの前に飛び出るが、それでも気持ち悪い映像は垂れ流され、音声は続く。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!