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「はふぅぅ~アック様、ごめんなさぁぁい!!」
「……今は仕方ない。おれにしっかり掴まってろよ?」
「はひい~」
スキュラの魔法効果は相当強力だったせいか、ルティはまともに立つことが出来ずおれにおんぶされている。麻痺が取れていないとあって口数も少ない。たださすがに麻痺耐性は無いみたいだ。
ルティを背負いつつスキュラの言葉通り宿屋の裏口から急ぐと、
「こっちだ! ついて来い!」
どうやら例の依頼騎士が外へ手引きをしてくれるらしい。おれとルティは騎士について行くも、スキュラたちとはぐれてしまう。しばらく騎士の後をついて走っていると抜け道のような場所に出る。
さすがに正面から出るわけには行かなかったみたいだ。
「アックさま! どうやらそちらもご無事のようですわね」
「イスティさま!! こっちだよ~」
はぐれたかに思えたスキュラとフィーサの姿がそこにあり、おれたちに手を振っている。
それにしてもアルビンという男。騎士のはずなのに騎士鎧を身に着けておらず、単なる通行人にしか見えない。こんな軽装で騎士と認めていいのか。
「む? 俺の格好が気になっているようだが、これはだな――」
「事情がありそうなので聞かないでおきますよ」
今はそれどころじゃない。
「助かる! ちなみにだが、弟のグルートを封じたのがお前だということはすでに聞いている。そのことは後でまた話そう。詳しいことはミルシェに聞くといい。俺は行くところがあるのでここで失礼する」
ミルシェ――スキュラのことか。随分と通じた関係になったようだが、忙しい男なのかどこかへ行ってしまった。
「行ってしまったけど、いいのか? スキュラ」
「……アックさまが思っているような関係ではございませんわ。それよりもここはまだ騎士国内。あたくしたちはここから先の山向こうにある町、ルタットに向かうことにいたしますわ。ドワーフ娘をこちらに!」
「ん、あ、あぁ」
おんぶしている間にルティは眠っていた。
「ふわあぁぁ……あれ~? アック様~?」
「ルティはスキュラと一緒に行動してくれ」
「よく分からないですけど、はいい~」
状況は理解して無さそうだがルティは素直に言うことを聞いて、スキュラの元に駆けていく。
「イスティさま、鞘に収まるね?」
「うん? うん」
スキュラの元にいたフィーサがルティと交代するようにして、おれの元にやって来た。自然と二手に分かれてしまったな。もしや別行動を継続するつもりか?
「アックさま。あたしは、ドワーフ娘と別の道からルタットへ向かいますわ。あなたさまは宝剣と共に森を抜けて町へ来てくださいませ」
「――何でだ?」
「アックさまとドワーフ娘はこの辺りですでに手配書が回っている罪人なのですわ。ねちっこい貴族のほとぼりが冷めるまでは、別行動を取るべきかと思います」
そこまで罪を増やしたつもりは無いんだけどな。
「おれは貴族には負けないと思うが……?」
「人間は争いを起こせばとても面倒なことになっていくのではありませんか? まして相手は貴族。それも偽騎士が率いている国ですわ。強さでは確かにアックさまに敵う相手などおりませんけれど」
アルビンは本物の騎士と言っていた。
その彼も追われた身ということは――
「……分かった。スキュラはルティを頼む。おれはフィーサと森を抜ける」
「本当はずっとお傍についていたいのですけれど、国を抜けるまでは我慢いたしますわ」
「アック様~! お元気で~~!!」
「ルティもスキュラと仲良くな」
あの様子では仲良く出来そうだな。
「全く……。それでは、お先に行きますわ! アックさま、ご武運を!」
「ああ、また!」
意外にも世話焼きな魔物だったのか?
すっかりスキュラに外交的なものを任せっきりになっている。ルティとの相性が悪そうに見えたが何とかなるだろ。
「イスティさま、深い森を抜ければ山の洞窟があるって聞いたよ」
「森の先の山の洞窟か。――ということは、別の支配エリアに行くことになるのか」
貴族の国にはもう戻れない以上、新天地を求めるしか無い。
「何かあったら、すぐにわらわを引き抜いて戦ってね!」
「フィーサを? いや、森を抜けるだけなら危険なことは無いと思うよ」
「とにかく! マスタぁはスキル上げをするの!! しないと駄目なの!」
「そういえばそうだった。じゃあ、魔物が出たらそうするよ」
「うん!」
宝剣姿のフィーサを鞘に収めながら先の見えない深い森に進む。
おれとフィーサは人間が通った跡がありそうな森林道をとにかく道なりに進んでいた。予想通り魔物の気配は無く、スムーズに歩いていたのだが。
「あれっ? 次はどっちに行けばいいんだ……」
気付けばすでに道という道はなく、深く生い茂る木々に囲まれていた。木の枝をすり抜けて進むか、先が見えない草地を踏み進むか迷うところだ。
「フィーサ、山はどっちかな?」
「わらわにはサーチスキルなんてないもん」
「だ、だよねえ……ガチャで何か引いてみるか」
こういう時に自然に強そうなルティがいれば――何だかんだであの娘に頼りっきりだったんだな。
とにかく何が引けるのか試してみるしかないか。