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「こらっ!盗人め!」
またやってしまった。店の人が、顔をトマトのように赤くしながら追いかけてくる。
お金がなくて貧しいアレンは裕福層のいる王都へ忍び込み、ついつい金を払うことなくパンを盗んでしまった。
今日王都と城下街とでは貧富の差が激しく、食べていけるのがやっとの状態。働けど働けどお金は貯まらず、裕福な人間に搾取されるだけ。我慢の限界である。どうにか手を打たないと、母が患っている病気を治すこともできない。
そんな時だ。逃げ切ることできた通路で、一人のおばさんに話しかけられた。黒いマントを羽織り、頭に黒いフードを被っている。見るからに怪しげな老女だ。
城下街と王都の境目の場所だから、ここら辺は少し通路が入り組み覚えにくいことで有名だ。治安は一般の城下街より良い方だが、あまり人の近づかない場所でもある。
「お嬢ちゃん、これをおまえさんにやろう」
そう言われて差し出されたのが、茶色いスプーンだ。木の枝のように根を伸ばし、緑の葉のようなものが絡み付いている。
「これは私が作ったの。ただのスプーンじゃないのよ。幸せを掬い取ることができる優れた魔法道具じゃ」
「おばあさんが作ったの?」
彼女はコクリと頷いた。どうやら彼女は身を隠している魔女らしい。魔女は見つかれば、八つ裂きされてしまうから表舞台に出てこれないのだ。
「ありがとう、これを使ってみんな不幸にしてやるから」
「そうかい。ただね、一つ守らなきゃいけないことがあるのよ。それは」
「おばあさん、じゃあね」
「待ちなさい!まだ言いたいことが!」
アレンは自分の欲のために、スプーンを握りしめたまま魔女の注意事項を聞く前に走って逃げてしまった。これがあれば裕福の幸せを奪い、自分と母親が幸せになれる。そんな思いを抱きながら王都の方へ向かった。
ちょうど街にある噴水の近くで、裕福層たちは馬車に乗りながらサーカスのような舞踏会を閲覧していた。
派手なフリフリのついた服を着た貴族達は、皆行進や芸を見ながら賑わっている。高らかな笑い声や話し声も至る所から聞こえてきた。これはチャンスだ。
アレンはこっそりと隠れながら魔法のスプーンを振ると、白い煙のようなものが頭から溢れてきた。そして自分の頭に貴族の幸せが入ってくる。
豪華な赤色のワインに、たくさん並べられた料理が頭に浮かんだ。どれも美味しそうで、これが女貴族の一番の幸せらしい。それから彼女の親二人も見えて、ずいぶん甘やかされていたことがわかった。「買って」と言えば買ってもらえる幸せな時間を見ていたが、数分後にその記憶が消えてしまう。
たくさんの人の幸せを見たくなったアレンは、次々に貴族から幸せを奪っては見ていく。母親の分まで奪い取り、貴族達は幸せをとられてぐったり横になったまま動かない。
こんな生活をしたかった、あんなことができたらというネガティブな気持ちになって、家に帰宅することにした。しかし身体が変だ。先ほどまではそこら辺の屋台の中身がよく見えたのに、全く見えなくなっている。一体、どうことだろうか?
「もしかして身長が縮んでる?まあ、いいわ。病気で苦しんでる母さんに、最後幸せを届けてあげよう」
スプーンを握りしめ、切羽詰まった表情で帰宅した。家は城下街の道を進むと、山の中にいくつかの家が建っている。その中の一つに自分の家がポツンと聳えていた。
黄色くてずっと修理されていないボロボロの家に入ると、母が咳をしながらウウッという苦しそうな声で、もがいていた。顔には黒い斑点ができていて、謎の病気らしい。
「母さん、幸せを持ってきたよ」
そう呟いても彼女には届かなかった。例え自分自身が消えても、母が助かるならそれでいい。最期に幸せを届けたい。
スプーンを一振りして、貴族達の幸せ全てを母に提供した。貴族達は皆動かずに、ここに住む人たちはそれを狙って暴動を起こしているらしい。外は叫び声でうるさいけど、母さんだけは救いたい。
母はその幸せを見て唸り声はなくなり、にこりと微笑んだ。しかしそれからびくともしなかった。何も言わずに、死んだようだ。
アレンは魔法のスプーンの力がなくなって消えてしまい、そこには誰もいなかった。あるのは、余った布で縫い合われた布団だけ。
幸せは人からもらうものではなく、自分で作っていくものだと考える。人が幸せだから自分も幸せでは、あなた自身幸福を感じていない。
外に出てもいいし、自分から率先して何か好きなものを見つけてみよう。新たな発見と幸せが自然と溢れてくるではないか。