ふまくん絡ませたくて絡ませました。
もっくん視点。
映画で主演を飾らせてもらってからというもの、音楽活動よりも宣伝も含めたテレビ収録が増加した。主題歌も書かせてもらったから音楽番組に出演することもあるけれど、倍以上は単独でテレビに出ている気がする。
色々と需要があるのはありがたいことだけれど、自分は音楽を生業としているつもりだし、音楽を通して、または音楽を伝えるために作る映像を通して、自分というものを伝えていきたいと思っている。
不要だ、と言われるよりはいいことなんだろうけれど、その結果、やりたいことがやれなくなるのは本末転倒だよな、と休止に至ったフェーズ1を思い出す。才能を認めてくれるのも、Mrs.を評価してくれるのも、本当に嬉しいことなのに、そのことが足枷になってしまうジレンマ。
贅沢な悩みだと分かっていながらも、どうしてもモヤモヤが拭えない。忙しすぎて涼ちゃんとゆっくり過ごすことができないのも苛立ちの種になっているという自覚がある。
いっそのこと同棲を持ちかけて、せめて朝と夜を一緒に過ごせたらここまで腐らずにいられたのだろうか。涼ちゃんの腕の中で眠ることができれば、この苛つきも少しは緩和されるのだろうか。
何日、涼ちゃんを抱いていないだろう。
どれだけの間、あのやわらかな空気感に身を委ねていないだろう。彼の髪を撫で、唇を塞ぎ、目を見て愛を囁いていないだろう。
ふと思考に余裕ができたときに思い浮かぶのはいつも涼ちゃんのことばっかりで、せめて涼ちゃんも同じように思い悩んでくれていたら少しは救われるのに、きっと涼ちゃんは普段通り過ごしているだろう。それを思うと少しばかり憎らしい。
収録と収録の合間の休憩時間、自動販売機で購入したドリップコーヒーをすすりながら溜息を吐く。
「顔こっわ」
朝から同じ番組に出演していた風磨くんが、苦笑しながら隣に腰掛けた。
揶揄いを含んだ声に、わざと変顔をして返せば、ははは、と声を上げて笑ってバシバシと背中を叩かれた。
「番宣ばっかで飽きてきた?」
「飽きとかではないけど……慣れない感じはするよねやっぱ。できてるか不安というか」
飽き性の自分の性質を指して心配してくれているんだろうけど、そういうのではなかった。
自分の楽曲であれば、伝えたいことも内包させたメッセージも言葉にすることは容易いけれど、皆で作り上げた映像作品となると話が変わってくる。
ネタバレをしないように、けれど興味を持ってもらえるように、自分じゃなくて他人を飽きさせない言葉を選ぶ作業は、いつもは使わない神経を使う。
そんな俺に、お疲れ様、と声を掛けてくれる優しさが、炎上だのなんだのとイジられがちな彼の本質だ。根は真面目で、しっかりとしているのに飄々として道化を演じることができる才能豊かな人。
彼と共演できてよかった。仲の良い友達、とまではいかないけれど、友達になれてよかったと心から思う。
「そういや、隣で藤澤くん撮影してるんだってね。なんの撮影なの?」
そんな友達から告げられた衝撃の事実に、勢いよく振り向いて目を見開く。
俺の反応に、え、と戸惑った風磨くんが、さっきトイレ行ったら知り合いに会って、世間話と宣伝を兼ねて俺の名前を出したら、偶然にもメンバーの藤澤さんを撮ってるんですよ、と言われたらしい。
「……何それ、俺、知らないんだけど」
自分でも驚くくらい低い声が出た。仲の良い友達の知らない情報を違う筋から聞いたことへの嫉妬だと捉えたらしい風磨くんは、軽い調子で続ける。
よく連絡を取る人物がメンバーだってことは知られているし、交友関係が極端に狭いからそう思っても仕方がないと言えば仕方がない。
「この前もバラエティー出てたし、あるでしょ、そういう個人の仕事も。売れてるって良いねぇ」
売れているかどうかは置いておいて、個人の仕事というのを俺はあまり歓迎をしていない。
誤解のないようにいうけど、目立ってほしくないとか、個人活動してほしくないとかそういうわけではない。
十年目という節目を迎えて、俺だけが中心に立つのではなく、全員がそれぞれ真ん中に立つように、っていうのを心掛けてはいるつもりだ。
でもそれは、Mrs.としての活動の話であって、藤澤涼架という個人を全面に出したいわけじゃない。
だって涼ちゃんは、Mrs.のものだから。
Mrs.は俺そのもので、つまるところ涼ちゃんは俺のものだから。
「……なくはないよ。けど……なくていいんだよね」
「どういうこと? ってかマジで顔こわいんだけど!」
風磨くんの質問に答える気のない俺は、コーヒーを一気に飲み干して立ち上がった。
びっくりした顔で俺を見上げる風磨くんの顔は僅かに引き攣っていた。
目の奥が笑ってないの、バレちゃったかな。
「うちのマネージャー、どこにいるか知ってる?」
にっこり笑って首を傾げる。切れ長の目を瞬かせた風磨くんは、困惑しながらも教えてくれた。
「え、控え室じゃない? それかスタジオ?」
「ありがと」
紙コップをぐしゃっと力任せに潰して近くのゴミ箱に捨てた。
俺の知らないところでなんの撮影をしてるっていうの?
言ったよね? 俺プロデュースじゃない涼ちゃんの魅力を世の中に出す必要はないって。
こんなことなら俺の腕の中に閉じ込めて、外の世界なんて知らさなければよかったよ。
とにかく休憩終了まであと少ししかない。
問い詰めるなら今しかないのだ。
声をかけてくれた風磨くんには悪いけど、涼ちゃんのこと以上に最優先にすべき事項なんて、この世に存在しないんだよね。
私が書くといつも重くなりますねこのひと。
コメント
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今回もおもしろいです マネさんがんばれ!!
怒らせちゃいましたね... 愛重大森さんも刺さりますね、藤澤さん一体どうなってしまうのか...🙃
ふうま君絡みも、愛が重い♥️くんも、どれもめちゃ好きです🤭✨