🎲「──今日も、お疲れ様でしたぁーっ!!」
楽屋に響く、元気いっぱいな声。
ステージを終えたばかりのいれいすメンバーたちは、それぞれ衣装を脱ぎながら、今日のパフォーマンスについてわいわいと語り合っていた。
🐇「うぃぃ〜、最高やったな今日のライブ!」
初兎がタオルで汗を拭いながら叫ぶ。「あの曲のとこ、客席めっちゃ跳んどってさ、僕もテンション上がってヤバかってん!」
🐣「しょーちゃん、MC中めっちゃ噛んでたよ。あれ、地味に面白かった(笑)」
りうらが笑いながら突っ込む。
🐇「やめろや〜!笑うな〜!僕やって緊張することあるし!」
🐶「でもさ、今日一番ぶっ飛んでたのは……やっぱ“ほとけっち”じゃない?」
🦊「えっ?僕?」
振り向いたほとけが、わざとキョトンとした顔をする。笑顔は、まるで子供のように無垢で、何も知らない顔。
🐶「うん、めちゃくちゃ暴走してた!『今日の僕、輝きすぎてて逆に見えない』って何だったのアレ?!」
🐱「ファンサしながら言うやつやないやろ、それw」
🦊「えー、サービス精神でしょーが!こちとら全力ですって!」
口を尖らせて反論する。わざと大げさに。冗談っぽく。いつも通りに。
でも──
その裏では、喉の奥がきゅうっと締めつけられていた。
笑えば笑うほど、虚しさが積もっていく。
“本当の自分”は、あのステージにはいなかった。
🐣「……無理してない?」
その声に、肩がピクリと反応する。
振り返ると、りうらが真っ直ぐにこちらを見ていた。
あどけなさが残る表情。でもその目だけは、誰よりもまっすぐで、鋭かった。
🦊「なにが(笑)?」
なるべく軽く聞き返す。できるだけ自然に。
🐣「ううん……なんか、“笑ってるのに楽しそうじゃない”って思っただけ」
🦊「……っ」
危ない。今、ちょっとだけ呼吸が止まった。
動揺が出ないように、ふわっと笑って肩をすくめる。
🦊「うわ〜、りうちゃん怖いな〜。エスパー?僕の心読んでる?」
冗談めかして返す。でも、その声がほんの少し震えていたことに、自分で気づいてしまった。
🐣「……冗談でも、そういうのって、隠しちゃだめだと思うよ?」
りうらはそう言って、そっと視線を外した。
その横顔に、僕──“ほとけ”は何も言えなかった。
「ほとけ」
今度はアニキがそっと隣に来て、優しく声をかけてくる。
🦁「しんどい時はしんどいって言っていいんやで?
無理してるの、気づいてる人はちゃんと気づいてる人ちゃんとおるんやから」
🦊「……そっか」
苦笑してうなずく。けど、心の奥は「言えない」でいっぱいだった。
──だって、僕が“何をしてるか”なんて知られたら。
──みんな、笑えなくなっちゃうでしょ?
ライブ会場を出た後の帰り道。
都会の夜は、ネオンと人でにぎやかだったはずなのに、自分の世界だけがひどく静かだった。
スマホの画面を開く。
《標的:〇〇〇〇。ファンを装って接近中。ライブ中のメンバーを撮影、転売疑惑あり。》
💎「またか……」
吐き捨てるように呟いた声が、夜の空気に溶けた。
そのファイルの下には、何件ものデータベース。
過去に排除した相手。
姿を変え、名前を変え、でも“いれいすに危害を加える存在”という共通点だけは変わらない人間たち。
──殺し屋・無威としての顔。
それは、誰にも見せてはならない裏の顔。
何度も血を流し、何度もその手を汚してきた。
💎「僕がやらなきゃ、きっと、ないちゃん達が狙われる」
笑顔の裏で、無威は何人も消してきた。
それが罪でも、間違いでも、後戻りできなくても。
“守るため”という言い訳だけが、自分を保たせていた。
翌朝。楽屋。
🐶「よっ!ほとけっちー!朝から元気じゃん!」
ないこが手を挙げて挨拶してくる。周りにはいふと悠祐もいて、いつも通りの空気が流れていた。
🦊「元気ですとも!今日もキレキレでファンサかましてくよ!」
🐱「昨日ちょっと顔色悪かったけど、大丈夫か?睡眠とったか?」
いふが冷静に見てくる。彼は、ほとけが“抜けそうになってる”ことにうっすら感づいているようだった。
🦊「うん、寝た寝た。爆睡だったよ!夢で初兎ちゃんがケーキの中から飛び出してきたけど!」
🦁「は?それは俺も夢であってほしいわ……」
🐶「え、俺イチゴショートでお願いしていい?」
🐇「お前らやめろや(笑)!!」
全員で笑った。
でも、その笑いの中に自分だけ、“浮いている感覚”があった。
──ここにいていいのか、分からなくなる。
──本当に守れてるのか、不安になる。
その時、初兎が声をかけてきた。
🐇「………なあ、いむくん。今夜、ちょっと時間ある?」
🦊「え……あるけど、なんで?」
🐇「話したいことがあるや。2人で、な?」
その瞳は鋭く、優しく、でもどこか“確信”を持っていた。
まるで、ほとけが隠しているすべてを知っているかのように。
🦊「……うん。わかった」
にっこりと笑う。
完璧な笑顔で、隠すように。
けれど胸の奥で、確かに何かが壊れはじめていた──
「仮面がきしむ音」が、確かに聞こえた。
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