「赤い糸」
翔太はいつも真面目な会社員だ。だが、一つだけ。翔太には、自分から連なる『赤い糸』が見えていた。
あれは、中2の夏だった。帰り道、いきなり強い衝撃が翔太を襲った。翔太の意識が、遠くなるのを感じた。少しだけ、心地いい。
目が覚めると、教室だった。机に突っ伏していた。日は落ち、夕暮れが翔太を照らす。不思議に思いながらも、ぼんやりと周りを見渡した。いつもの、教室だった。その時だ。ふと、視界にナニカが映る。それは、翔太の心臓からピンと張っている『赤い糸』だった。 行く宛もなく、物を貫通し、ただ真っ直ぐ伸びていた。一体何処へ__
そして現在。翔太は大手企業に就職している。『赤い糸』は昔と変わらず糸を張っており自分の存在を目立たせている。翔太は、この『赤い糸』が気にならなくなっていた。『赤い糸』は限りなく伸び続ける。故に謎なのだ。追いかけても、追いかけても、一向に終わりが見えない。『赤い糸』を調べれば調べる程、謎が深まるだけだった。翔太は諦めたのだ。
ある日のことだ、翔太がいつものようにキーボードを叩いていると違和感を覚える。静かだった。異常なほどに。翔太は周りを見渡した。さっきまで仕事をしていた同僚は消えいつもうるさい上司も消えている。翔太は、焦り始める。『赤い糸』が脱力するかの様にダラリと垂れ下がっていた。
翔太は無意識に、『赤い糸』を引っ張った。
なにか、失ってはいけない様な気がした。『赤い糸』には重みを感じる。まるで、重りがついているかのようだ。とても、重い。それでも、引っ張った。無我夢中に、引っ張った。
『赤い糸』はシュルシュルと束を作り始め、重りが見えてくるのと同時に、世界の崩壊が始まる。それでも、翔太は手を伸ばした。翔太の体は、温かい光に包まれる。
_2015年7月18日6時頃、〇〇橋で事故発生
被害者の『上田 翔太』さん(14)は、意識不明の重体であり……
目を覚ますと、ベッドの上だった。側には母と姉がいた。二人は目に涙を溜めている。
俺はカレンダーに視線を移す。
_2025年9月24日
とても長い、夢だった。
退院後、俺は大手企業に就職した。あの夢と同じように。ビルを見上げる。妙な懐かしさを感じた。期待に胸を膨らませながらも、俺は一歩踏み出す。
『赤い糸』は、もう見えなかった。
END
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