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「ビーッ!ビーッ!ビーッ!」


けたたましい警報が施設中に鳴り響き、赤い警告灯が廊下や部屋を断続的に照らす。


《緊急戦闘体制!第3地区にて多数の吸血鬼を確認。現在基地にいる職員は、速やかに現場へ急行してください。》

アナウンスが終わるか終わらないかのうちに、アナスタシアが目を見開いた。


「これは…なに!? 緊急戦闘体制って…!」

「話は後!」


ケイが即座に声を上げ、立ち上がる。


「武器を持って車両デッキに向かうよ!!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


車両デッキに滑り込むように到着したカレラたちは、すでに出撃態勢に入っている面々の姿を目にした。


ごう、とエンジンの唸りが空間に響く。戦闘車両の後部ハッチが開いており、レオナ監視官が中から鋭い視線を向けていた。


「遅い!とっとと乗れ!」


レオナ監視官が怒鳴る。声に焦りはなく、ただ苛立ちと苛烈さが混じっていた。


車両内部には、すでにレンとユウマが腰を下ろしていた。訓練の直後だったのだろう、2人とも汗で髪が額に張りつき、息も荒い。


「っはー……もう、休む暇ってないの〜……」


「吸血鬼って、ほんっと空気読まねえよな……」


ユウマがぼやき、レンが隣でうなずく。


「ほら!おしゃべりは後だ!出発まであと30秒!」


レオナの声に、ケイがすぐにカレラとアナスタシアをうながしながら乗り込む。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


車両が振動とともに走り出す。スチール製の床がわずかにきしみ、内部にはエンジンの低い唸りが響いていた。


「よし、説明する。」


レオナ監視官が座席に腰を下ろしながら口を開いた。視線はまっすぐ前を見据えたまま、声は揺るぎなく冷静だ。


「第3地区で、約30体の吸血鬼を確認した。現地の監視カメラによれば、奴らは都市部に向かってゆっくりと進行中だ。」


車内が一瞬、緊張に包まれる。アナスタシアが小さく息を呑み、カレラは不安げにその手を握りしめた。


「今回の任務は、吸血鬼の無力化が第一目標だ。ただし、状況が悪化した場合は排除も許可されている。くれぐれも油断するな。」


レオナはそう言って、鋭く全員を見回した。目の奥には、どこか焦燥にも似た色が滲んでいる。


「特にカレラとケイ、お前たちは新しい監視官付きだ。いつも以上に慎重に動け。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


車両が急停止する直前、ブレーキの金属音が車内を貫いた。


「着いたぞ!」


レオナ監視官の一声が響き、車両の扉が左右に開く。


扉の向こうには、荒れ果てた住宅街が広がっていた。朽ちた一軒家がびっしりと並ぶ集合住宅地。


ひび割れたブロック塀、崩れかけた玄関、風に揺れる破れたカーテンが、かつて人の営みがあったことをかすかに物語っている。


道の隅には放置された自転車や割れた窓ガラスが散らばり、どこからともなく枯葉が舞っていた。


「全員、装備確認! すぐに展開するぞ!」


レンとユウマは気合を入れ直すように武器を握りしめ、先に車両を飛び出した。


アナスタシアも緊張の面持ちで周囲を見回しながら、カレラとケイの後に続く。


ケイは車両の縁に立ち、俯いたままのカレラに声をかける。


「行こう、カレラ。今は…俺たちが動く番だ。」


カレラは短くうなずき、顔を上げた。その瞳にはまだ揺らぎがあったが、どこか覚悟の色も混じっていた。


一行は警戒を保ちながら、第3地区の戦場へと足を踏み出していった。


アナスタシアが腰から双眼鏡を取り出し、朽ちた家々の向こうを覗き込む。


息を飲むような静けさの中、レンズの先に不気味な動きが映った。


「……いた。数十体、ゆっくりとこちらに向かってきてるわ。全部、吸血鬼……!」


その言葉に、一同の空気が引き締まる。


レオナ監視官が前に出て、全員に視線を送る。


その声は鋼のように冷たく、しかし確かな力を持っていた。


「これから激しい戦闘になるだろう。心してかかれ!」


その言葉を合図に、全員が一斉に走り出した。


重い足音がアスファルトに響き、朽ちた街に再び命の気配が戻る。


カレラも走り出す。


迷いを振り払うように、ケイの背中を追って。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「三体目ぇっ!!」


レンの叫び声が朽ちた路地に響く。

手にした刀が赤黒い軌跡を描き、吸血鬼の胸を真っ二つに裂いた。


「ぐぎゃああああっ!!」


断末魔をあげて崩れ落ちる吸血鬼。


「刀が重いぃ〜……」


ユウマは弱音を漏らしつつも、軽やかな足さばきで一体の吸血鬼を蹴り飛ばし、鋭く斬り上げる。


「ぐぇっ!」という呻き声とともに、吸血鬼は力なく崩れた。


「カレラ! 後ろ!!」


ケイの鋭い声が響く。


その瞬間、カレラは素早く身を屈める。


「ギィィィ!!」


背後から襲いかかってきた吸血鬼の爪が虚空を裂き、次の瞬間――


シュッ! 鋭い風切り音と共にケイの短剣がカレラのすぐ後ろを駆け抜け、吸血鬼の首元を正確に切断した。


「ありがとう、ケイくん。」


カレラが息を整えながら振り返る。


「いいってことよ。」


短く応じ、次の敵へと走るケイ。

二人の動きはまさに阿吽の呼吸。その背中には信頼が確かにあった。


「監視か〜ん!」


前方でユウマが半泣き気味に声を上げる。


「血液パックはまだ届かないの〜!? もう身体中、痛くて仕方がないんだけどー!」


「後方部隊がもうすぐ到着する。それまで持ち堪えろ!!」


レオナの怒号が飛ぶ。

その後ろから、次々と現れる吸血鬼たち――


「ギャアアアア!」「グギャッ!」「シャァァァ!」


腐敗した身体を揺らし、獣のような咆哮をあげながら、容赦なく迫ってくる。


「ギャアアアアッ!!」

黒い爪を振り上げ、吸血鬼がアナスタシアに向かって突進する。


「来ないで…っ!!」


アナスタシアは慌てて銃を構え、震える手で引き金を引いた。


パン!パンパン!


乾いた銃声とともに、吸血鬼の膝と胸に命中。


「グギャッ…!」とうめき声を上げて、そのまま地面に崩れ落ちた。


「これが……吸血鬼……」


銃口を下ろしたアナスタシアが、浅い呼吸のまま呟く。


「これが……デットマン……」


彼女の視線の先では、ユウマとレン、そしてケイとカレラが次々と吸血鬼を切り伏せていた。


彼女の両手はわずかに震えていたが、それでも一歩も引かず、背後から迫る個体を正確に仕留め続けていた。


前線に立つことはできなくても、彼女は彼女なりの戦いをしていた。


「私も……前に……!」


アナスタシアが歯を食いしばり、思い切って前線へと駆け出す。だがその瞬間――


ガラガラッ!


崩れた建物の瓦礫の陰から、獣じみた呻きとともに一体の吸血鬼が飛び出してくる。


「ひっ……!」


咄嗟の恐怖にアナスタシアの足がもつれ、バランスを崩して地面に倒れ込む。


「監視官!!」


レオナが焦った声を上げ、助けに向かおうとするが――間に合わない。


「くそっ、間に合わないっ……!!」


吸血鬼が飛びかかり、発達した牙を剥き出しにして迫る――その瞬間。


ズバァァンッ!


鋭い斬撃音とともに、吸血鬼の身体が真っ二つに裂ける。

宙を舞う血飛沫。

その中に、赤く染まった瞳のカレラが立っていた。


「大丈夫ですか?」


静かに手を差し伸べるカレラ。その表情は冷たくも、どこか優しさを湛えていた。


床に倒れたまま、アナスタシアは驚きと安堵に息を呑み、赤い瞳を見つめ返していた。


アナスタシアは驚いたように目を見開いたまま、そっとカレラの手に触れた。


「……ありがとう……ございます……」


震える指先。けれど、その震えは恐怖からではなかった。むしろ心の奥から湧き上がる感情に、体が追いついていないだけのように見えた。


「焦らないで、ゆっくりで大丈夫です。僕たちがいますから。」


カレラの声は静かで、けれど確かに彼女の胸に届いた。


アナスタシアはゆっくりと立ち上がると、頷きながらその手を離す。


赤い瞳の彼は振り返り、再び戦場へと歩み出した――まるで、迷いのない風のように。


アナスタシアは震える足を必死に動かし、覚醒したカレラの背中を追って前線へと駆けた。


もう、怖くはなかった。彼の言葉が、心を支えてくれていた。


吸血鬼たちは次々と襲いかかってくる。アナスタシアはその度に銃を構え、引き金を引いた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「っはぁ、はぁ……まだ……終わらないの……?」


次から次へと現れる敵に、疲労がにじむ。

気づけば、四方を吸血鬼に囲まれていた。


「ここまで……か……」


「くそっ……!」


絶望が胸を押しつぶしかけた、その時だった。


「ほらほら〜!どいたどいた〜!!」


ドドドドドドドドドドッ――!!


甲高いエンジン音と共に、巨大な車両が吸血鬼の群れへと突撃してくる。

跳ね飛ばされる吸血鬼たち。タイヤの下で潰れた断末魔が響き渡る。


吸血鬼を薙ぎ払いながら車両が急停車し、扉が勢いよく開く。その中から、機関銃を持つ大柄な男が姿を現した。


「第2行動予備隊、ただいま現着したぜ!」


「バンス監視官!遅かったじゃないか!!」


レオナが声を張り上げるが、その表情には明らかな安堵が浮かんでいた。


「そいつはすまなかったなぁ……だが、言われてたモンはきっちり用意してきたぜ!」


「受け取りな!」


バンスが肩に担いでいたバッグを投げ上げる。中から血液パックが弧を描いて宙を舞い、カレラたちのもとへ。


「やっときたか!」

レンはニヤリと笑い、すぐにパックの蓋を歯で引きちぎる。


「まったく、くたびれたよ〜」

ユウマも苦笑しながら口に咥える。


「これなら……!」

「……ああ!」

カレラとケイも血液を一気に飲み干す。身体の芯から力が湧いてくるのを感じた。


「お前らほどの腕はないが、うちの部隊も戦えるぜ! ビクトリア、アリス!」


バンスが手を振ると、車両の後部から二人の女性のデッドマンが現れる。

一人は赤毛でそばかすの目立つ、やや背の低い少女。手には鋭い槍を構え、挑発的な笑みを浮かべている。


「ったく、さっさと終わらせて風呂にでも入りてぇーですわ」


「ビクトリア姐様、私もお手伝いします!」


後ろから追うように現れたのは、素直で真っ直ぐな印象の少女、アリス。目を輝かせながらビクトリアを見つめている。


「ふん、足引っ張んなよ」


「お前に言われたかねぇーですわ。」


レンは挑発的に声をかけるが、この女にはどうやら意味はないらしい。


「さぁ!反撃の時だ!!」


ケイの鋭い掛け声が、戦場に響き渡る。


それを合図に、デッドマンたちが一斉に飛び出した。先程までの疲労の色はすでに消え、血液パックによって満たされたその身体は、再び驚異的な力を取り戻していた。


「いっくぞォォ!!」

レンが声を張り上げ、刀を振るう。その一閃が吸血鬼の胴を斜めに断ち切る。


ユウマは口元に血液パックを咥えたまま、無言で動く。無駄のない動きで吸血鬼の急所を的確に突き、次々に無力化していく。


カレラの瞳は赤く輝き、その刃が血の花を咲かせる。後ろからアナスタシアも続き、銃口を吸血鬼へと向け、狙いを外さない。


「こっち来んなっての…!」


ビクトリアが槍を軽々と振るい、吸血鬼を吹き飛ばす。その横で、アリスも器用に間合いを取りながら攻撃を加えていく。


ドガン!ドガン!ドガガガガッッ!!!


後方ではバンス監視官の機関銃が唸り、吸血鬼たちを牽制する。

だがその弾数はどう見ても「必要以上」。


「バンス!撃ちすぎだ!!」


「うるせぇ!まだ足りねぇぐらいだ!!」


レオナの声にもどこ吹く風で、バンスは高笑いしながら銃を撃ち続けていた。


地を蹴る音、咆哮、銃声、叫び声、そして次々と弾ける吸血鬼の断末魔。


“ぐぎゃっ!!” “グワァ!!” “ギィィィィ!!”


その全てを貫くように、デッドマンたちは一丸となって吸血鬼の群れを押し返していく。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「「これで最後!!」」


カレラとレンの声が重なり、二人の斬撃が吸血鬼に交差するように叩き込まれた。


吸血鬼が崩れ落ちると、レンは隣にいたカレラをじっと睨みつけた。


最後の獲物が被ったのが気に入らなかったのかもしれない。カレラは困惑し、静かに一歩後ずさる。


「てか、おねーさんたち、マジで強いっすね〜!この後って空いてます〜? 空いてたらお茶しn――」

「お前なんかに興味ねぇーですわ。」


ユウマがビクトリアに話しかけるが、即座に跳ね返され、膝から崩れ落ちた。


「バンス監視官、ありがとう。」


レオナが礼を述べると、バンスは肩をすくめて笑った。


「いやいや、小隊一つでここまで持ち堪えるあんたらの方がよっぽど化け物さ。」


戦闘が終わり、隊員たちはそれぞれに安堵し、自由に言葉を交わす。


その中で、少し離れた場所に立つカレラとアナスタシアの姿があった。


「アナスさん…僕…」


うつむき気味に口を開くカレラに、アナスタシアは小さく首を振った。


「いいの、カレラくん。ごめんね、あんな質問して…」


「でも僕はっ…」


「――それに、もう答えも見つかったからね!」


アナスタシアはそう言って微笑み、くるりと背を向けて駆け出す。


「カレラくーん、そろそろ帰りましょ〜。みんなが待ってるわー!」


呼びかけに、カレラも少し照れたように笑顔を見せて走り出す。


戦いを越えたその歩みは、どこか少しだけ、軽くなっていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


──その夜。


「それで、今日の初任務どうだった?」


落ち着いた声が受話器越しに響く。


「ヴァンデッタさんの言うとおり、かなり疲れました〜…」


アナスタシアはソファに腰を下ろしながら笑うように返した。


「カレラ君は…どうだった?」


少し間を置いて、心配そうな声が返ってくる。


「大丈夫です! カレラくんは優しくて、仲間想いで…」


「とってもいい子でしたよ!」


その自信に満ちた声に、ヴァンデッタはほっと安堵の息を漏らした。


「アナス監視官ー! これから夜ご飯を食べに行きますけど、行きますかー?」


廊下から仲間の声が届く。


「はーい! 今行くねー!」


アナスタシアはスマホに向かってにっこりと微笑みながら言った。


「それではヴァンデッタさん、失礼します!」

「これからも頑張ってね」

「はい!」


電話を切ると、アナスタシアは立ち上がり、廊下に向かって歩き出した。



──その背中を、ヴァンデッタは遠くから祈るように想う。

「あの子達に、明るい未来が在らんことを…」






おまけ


アナスタシアの調査メモ

「みんなの好きなもの」


訓練場——

アナスタシア

「突然すみません!好きなものはなんですか?」

ケイ

「俺は魚料理が好きかな?特に煮付けとか。」

カレラ

「僕は、ふわふわしてて甘いものが好きです。」


食堂——

アナスタシア「好きなものはなんですか?」

レン

「焼きそば。」

ユウマ

「僕はハンバーグかな〜。もちろん君のことも好k——」


談話室——

レオナ

「私は特にないが、強いて言えばコーヒーだ。」

ヤサカ

「僕はラーメンかな。」


第2支部——

バンス

「俺はどでかい肉だな!腹が膨れたらなんでもいいが!」

ビクトリア

「わたくしはレモンタルトですわ。」

アリス

「私はショートケーキが好きです!」


電話越しに——

アナスタシア

「ヴァンデッタさん、好きなものはありますか?」

ヴァンデッタ

「ビターチョコレートね。昔から、あれは落ち着くの。」


円卓の部屋——

「おやおや、僕にまで聞くのかい?ふーむ、そうだな……プリン。あれは美味しかった思い出だ。」

デットマン・リヴァース

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