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水虹ひにゃ@リムらないでほしい
七月も半ば、占いの準備も一段落した、ある昼下がりのことだった。
柔太朗が買い出しに出かけている隙を見計らったように、舜太が勇斗の部屋に集合をかけた。
「聞いてくれ、聞いてほしいことがあってん」
「なんや、改まって」
改まった呼びかけに太智が身構えると、舜太は待ってましたとばかりに切り出した。
「昨日な、柔がふとした時に見せる笑い方があるんやけど、それがもう、可愛すぎて心臓に悪いレベルで」
「もう始まった」
仁人が即座に文庫本を開き、耳から入ってくる情報をシャットダウンしようと現実逃避を試みる。
「しかもな、俺が『それ好き』って言ったら、次の日からその笑い方、ちょっとだけ増えとってん。俺のために、なんか無意識に頑張ってくれとる気がして、それがまたかわいらしいなぁ。無意識なんかなぁ。」
「ストップ、ストップ!わかった、わかったから」
「あと、寝る前に電話すると、声のトーンが、いつもより少し低くなるんよ。あれ絶対、俺にしか聞かせてへん声やと思うんやけど」
お前らいつも一緒に寝てるやんけ、いつ電話するタイミングがあるんだ、部屋隣同士で電話ってなんやねん……空に浮かんだ無数の突っ込みと言われる言葉たちは、終ぞやぶつけられることはなかった。
「――もう十分だ、太智、助けてくれ」
助けを求める仁人の視線を、太智は華麗にスルーした。
「今日は吉田さんが相手して」
「ふざけんな。聞きたくない聞きたくない…耳と脳が砂糖で腐る…」
「柔がマジで可愛いから、しょうがないやんな!」
その日の夕方、今度は舜太が留守にしている隙を見計らったように、柔太朗が勇斗の部屋を訪れた。
「――ちょっと、聞いてほしいんだけどいい?」
「ちょっと待ってくれ。嫌な予感しかしない」
素っ気なく答える仁人にもかまわず、柔太朗は静かに語り始めた。
「舜って、普段はあんなに騒がしいのに、集中してる時の横顔だけ、妙に静かになるんだよね。その落差が、なんかすごく綺麗で」
「日に二人は勘弁してくれ
―――今日は俺が犠牲になる……太智、勇斗、逃げるなら今のうちだぞ」
すでに部屋にいた太智と勇斗が、じりじりと後ずさる。
「それに、寝てる時、無意識に手を握ってくることがあって。起きてる時はあんなに素直に甘えてくるくせに、寝てる時の方が、もっと素直な気がして」
「もう十分伝わったから、その辺で」
「あと、俺のことを『柔』って呼ぶ時の声、他の誰に対しても出さない声だと思う。呼び方だけで独占してる感って出るんだね」
いつも駄々洩れの舜太と違って、柔太朗は慎みがあると思ってた。淡々と、けれど確かな熱を込めて語る柔太朗をいざ前にすると、だいぶやられている。聞かされている三人はもはや、まともな相槌を打つ気力すら失っていた。
散々砂糖をまき散らした挙句、舜太が帰ってきたとわかれば、柔太朗はそそくさと部屋を後にした。
そのまま勇斗の部屋に残された三人は、しばらく声すら発することができなかった。
太智がぽつりと呟いた。
「なあ、今日、二人とも似たようなこと言うとったよな」
「言ってたな」
仁人が深く頷く。
「舜太は舜太で、柔太朗の惚気を延々語っていたし。まぁそれはいつものことなんだけど。柔太朗は柔太朗で、舜太の惚気を延々語っていたし」
「両方から挟み撃ちされたもんな…俺はもう今日をまっとうした」
「――これ、もしかして俺ら、一生こうやって、どっちからも砂糖吐かされ続けるんちゃう?」
最後の体力を奪うような太智の悲痛な問いに、勇斗と仁人は、示し合わせたように深いため息をついた。
「まあでも」
しばらくして、仁人がぽつりと付け加えた。
「そこまで惚気合えるくらい、うまくいってるってことなんだろうな」
「仁人、たまに素直なこと言うよな」
「うるさい、忘れろ」
からかう太智を軽く睨みながらも、仁人の表情はどこか穏やかだった。
窓の外では、夏の夜に満点の星空、少しだけ涼しい風が吹き抜けていた。
コメント
1件
読了しました〜!これはもう、完全に「砂糖で挟み撃ち」されてる側の気持ちが分かる(笑)。舜太の無自覚ドヤ惚気と、柔太朗の静かながら熱量がえげつない語り口の対比が最高でした。特に「俺にしか聞かせてへん声」と「呼び方だけで独占してる感」がダブルで来るところ、甘いけど読者としてはご褒美ですね…。そして仁人の「うまくいってるってことだ」の一言が、全部を優しく包み込んでいて心に沁みました。るりさん、今日も良いものをありがとうございます🌷