前回を読んだ上でお読み下さい。
あくまで兄弟愛です。腐要素なし
十四松side
一松兄さんとはずっと一緒だった。
相棒だった。
だからこそ、こんなに呆気なく死んでしまったことが悔しくて苦しくて辛かった。
でも兄さんは6日間だけ戻って来てくれた。
これは本当に最後のチャンスだと思ったんだ。
兄さんの中に黄色を残したい。
黄色。そう、僕の色。
兄さんに忘れないで欲しいから。
布団の上で暫しぼうっとしていれば廊下から十四松、と控えめな声が聞こえた。
「にいさぁぁぁん!!」
襖を開けて思い切り抱き上げる。
頬擦りをすればか弱い静止の声が聞こえる。
「今日は色んな所に行きまっせー!準備してくるから待っててくだせぇ!」
大きな声でニコニコと一松兄さんに話しかければ「…そうでっかー。ほな待っときますわー。」と嬉しそうに綻ばさせた声が耳に入り更に口角があがる。
現在午前8時。
あまり遠出はしないからとタカをくくっていたらすっかり電車の時間になり慌てて家を飛び出る。
「十四松、何処行くの。」
るんるんと効果音が付きそうな程楽しげなステップで駅へ向かう。
「えっとねー、まずはすな!」
「すな?…あ、砂丘ね。」
やっぱり僕の事を1番分かってくれるのは一松兄さんだ。嬉しいな。
ニコニコとしていれば足元で着いてきていた兄さんも笑ってくれる。
抱っこしたいとせがんだのだが、恥ずかしいし…とやんわり断られた。
やっぱり弟に抱っこされるのは嫌なのかな?
僕は気にしないけどね。
時間を確認すればもう電車が行ってしまう時間だった。
焦ってさっきの言葉を忘れて兄さんを抱き上げて走る走る走る。
人混みを掻き分けてひたすらに足を動かし、間一髪乗車することが出来た。
周りから浴びせられるジットリとした視線に肝が冷える。
途端腕の中から声が聞こえた。
「十四松…いきなり過ぎてびっくりした…」
顔を青くさせてハクハクと息をする兄さんの頭に手を乗せてなでなでと手を動かした。
「ちょっ……はぁ。別の車両行こう。隣全く人居ないから。」
兄さんからの助言に顔を綻ばせ、未だ撫でる手を緩めずに隣の車両へ移る。
何故かそこには誰も居らず、2人だけの空間だった。
「ほんとに人が居ないね!にーさんと2人っきり!うれしいでんなぁ〜!」
きゃっきゃと喜ぶ自分を優しい笑顔で見守ってくれるのが大好きで。
いつしか僕は泣き虫を辞めた。
笑ってれば兄さんも笑ってくれるから。
でも、でもね。
泣いちゃった時、その暖かくて良い匂いの腕の中に包んでくれる感覚も大好きで。
僕は一松兄さんを頼りたい。傍に居たい。
兄さんはそうじゃないのかなぁ?
ダメだ、ダメダメ。折角楽しいお出掛けなのに。
ダメ。やめて。泣きたくないよ。
兄さんも悲しくなっちゃう。
「っぐす…っうぁ…ひぐっ。」
突然泣き始めた僕の顔を見てオロオロしてる兄さん。ごめんね。
「じゅ、え、十四松…?どうした?どっか痛いか?…よしよし。いい子いい子。」
戸惑いながらも昔のようにあやしてくれる。
“いい子。”
昔からそうやって兄さんにいい子って言ってもらう度に安心していた。
今もそうだ。兄さんにいい子って言って貰えるのが嬉しくて、涙なんて引っ込んじゃった。
「ごめん、ごめんね一松兄さん。なんでもないよ。」
安心させるためになんでもないと言うと、兄さんの顔は一瞬酷く悲しそうに歪んだがまた直ぐに優しい笑顔が浮かんだ。
「そっか。なんかあったら頼れよ。お前もトド松も俺にとってたった2人の弟なんだから。」
口角があがる。
「…うん!!!っと…あ!にーさん!着いたっぽい!」
勢いよく立ち上がると膝上に座っていた兄さんがぽーんと放り投げられる。
猫ということもあってシュタッと着地してた。凄い!
外に出れば都会ともいえず、田舎ともいえない中途半端な土地が現れた。
空気がとっても気持ちいい。
「兄さん、暫く歩くけど抱っこする?」
聞けば一瞬面倒くさそうに顔を歪める。
「うーん…疲れたらお願いする…。」
頼ってくれた!兄さんが抱っこしてって!
えへへ。嬉しいな。
1時間程足を動かせば流石に疲れも出てくるもので。僕達はもう砂丘に着く前からヘトヘトだった。
それから更に30分ほど歩く。
「あー!!!」
目の前に砂丘が現れた。
周りの人もわぁ…と感嘆の声を漏らし、中には写真を撮るものもいた。僕だってカメラ持って来てるもん!
そんなことは置いといて…一面に広がる僕の色。
兄さんにはどう見えてるかな。
もう1時間程前から腕の中の兄さんはすっかり疲弊している。
「ごめんね兄さん。疲れたよね…ちょっときゅーけーしよーね。」
そう言えば腕の中から蚊の鳴くような声が聞こえ、くすくすと笑う。
「なに…笑ってんの…」
キッと睨まれるけど、全然怖くない。
「なーんにも!!」
抱っこしながら大きな木の下へ向かう。ストンと座るとすぐ隣に咲いてあったオトメギキョウがふわふわと揺れた。
「わ…兄さんみたいな花…!僕みたいな花もある!」
オトメギキョウの横にはたんぽぽがゆらゆらと風に煽られていた。
僕達みたい!
気付けばパシャ、パシャ。
写真を撮っていた。
「ちょっと…」
夢中で写真を撮っていると突然フニフニの肉球でカメラを抑えられた。
「わ、なーに?一松にーさん!」
びっくりして振り返ると顔をそっぽに逸らして頬を膨らます兄さんがいた。
「花ばっか…俺十四松と一緒に撮りたい」
ずっきゅん。
もう可愛すぎるよねっ!
だから一緒に撮ったよ!これは兄さんが居なくなっても絶対に飾って置くんだ。
それからは写真をやめてサラサラの砂を触ったりラクダの体験とかもあったからやったり、すっごく楽しかったな!
そろそろ別の場所に行こうとしたのにもう薄暗くなってきてたから駅前の動物OKカフェでお茶していこうって話になった。
カラン、カランと子気味良い鈴の音と出された水の冷たさに疲労感がドバっと溢れ出る。
「ふぃー…疲れたねぇ、にーさん!」
問いかければうん、と頷き水を飲む口を止めない兄さん。
「みてにーさん!バナナパフェとさつまいもパフェある!動物OK!頼むー?!」
「パフェ…。」
バッと顔を上げてキラキラした目でメニューを眺める兄さんはとっても可愛くて撫で撫での手が止まらなかった。
注文して運ばれてくるまで駄弁って、その後は兄さんにあーんしたり兄さんの口に付いたクリームを拭ったりと本当に楽しかった!
でももう帰る時間…
「よし、兄さん行こっか!」
席を立って素早い動きで代金を支払う。
カフェから出た途端急ぎ足で駅へ向かう。
朝とは違い余裕で間に合った。
「よかったね一松にーさん!」
あれ?
話し掛けても反応がない。
視線を下に向ければ眠っていた。
どわーーー!!全然気付かなかった…!
兄さん、最近すっごく寝るの。連日のお出かけで疲れてるのかなぁ?チョロ松兄さんも凄く寝るって言ってたなあ。
心配だよ。
…あ。もう今日いれてあと3日だ…
離れたくない、逝かないで。
消えないで。忘れたくない。
忘れるのが怖い!いやだ!
カタカタと震え出す身体に気付いたのか兄さんがむにゃむにゃと目を覚ました。
「…十四松…?怖いの?寒いの?大丈夫だよ。俺は”まだ”ここにいるから。」
「っ!…兄さん、兄さん。怖い、僕から離れないで!僕の前から消えないでよ!こんなのやだよぉ!どうして兄さんがこんな目に遭わなきゃ…「十四松。」…ぅ?」
「ごめんね。俺、兄さん失格かな…でもね俺、後悔はしてないよ。だって最期まで好きなモノを守れたんだ。だから、こんな目なんて言わないで。…絶対、絶対何時か逢いに来るから。だから、泣くな。」
「うっん…ふっぅ。失格じゃ、なぃい!!絶対、ぜったい、にあいに、くる?っぅ」
兄さんは「うん。」と優しく微笑んで指切りをしてくれた。
そしておでこにキスしてくれた。
安心する。兄さんの匂い。
数秒か、数分か。兄さんを抱き締め続けていたらあっという間に駅に着いていた。
時間が止まればよかったのにな。
それからは今まで考えてたこと、兄さんが居なくなってからのこととか色々話したよ。
泣いたからスッキリした。
トド松side
もう兄さんが消えちゃうまで今日を入れて後2日。
刻々と近づく別れに怯える。
皆実感が沸いていないみたい。
でも、僕はビビりだし心配性だから、すっごく、すっごく怖いんだ。
一松兄さんは僕とよく言い合いもしたし喧嘩だって何度もした。
それでもちゃんとお兄ちゃんとしての役割を果たしてくれて、甘やかしてくれた。
そんな一松兄さんが子猫を庇ってトラックに撥ねられて死んだ。
ほんっと、馬鹿みたい!
どこまでも猫松兄さんだよ。
ほんと…ほんとに…一松兄さんらしいよ。
ばか。
遺された皆のことちょっとは考えてよ…
一松兄さんナシでどうやってこれから生きていけばいいの?
兄さんなんて、大嫌いだよ。
今日嫌ってほど連れ出してヘトヘトにしてやる。これは兄さんへの意地悪だよ。
昨日枕元に置いておいた服を着て朝食を頬張る。
今日は駅前のショッピングモールで兄さんの為に小物を買う。後は映画を見たりカフェでお茶したり。
全部動物OKだからね。
襖の前で深呼吸する。
無音で開かれた襖の前で待っていたのは正真正銘兄さんで。
「…お、はよ。」
「ん。おはよ。」
兄さんを抱き上げて玄関へ向かえば腕の中でギャンギャン騒ぐ。
「降ろせトド松!おい!」
恥ずかしいのかバタバタと暴れる兄さんはやっぱり力が弱くて。
1週間ほど前までプロレスとかしてたのを思い出して視界がぼやける。
それに気づいたのかフニフニの肉球で頬をぽんぽんと叩かれた。
「…あんま考えすぎるな。今日の事だけ考えてろ馬鹿。」
棘のある言葉とは裏腹にその表情は柔らかく、安心したなんて事は絶対に言ってやらない事にした。
気を持ち直してショッピングモールへ向かえばそこはガヤガヤしていて親子や女の子達が沢山いた。
失敗だ。人が多すぎる。
兄さんは人が苦手なはず…
「兄さん大丈夫?人多いけど、やめる?」
そう問えばふるふると首を振って「…行く。」と決心した顔で言った。
入ってまずは雑貨屋に行くことにした。
そこは猫の雑貨専門店で、前に兄さんが行きたいって言ってたはず。
「兄さんが選んだもの全部買うよ!遠慮せずに選んで!」
胸を張って言えば あ、だのう、だの狼狽えていた。
「そんな、悪いし…だって、俺…」
兄さんが言いたいことは全部分かってる。
どうせ俺、もう居なくなるし…とか思ってるんでしょーね。
「だ、か、ら!思い出!全く…いつもなら買ってあげないけど今日だけ特別なんだからね!」
必死にそう言えば渋々頷き、商品を見始めた。
キラキラした目で見たり頬を綻ばせたり、可愛い…と口から零れてたり。
いつまでも見てられる。
くすくすと笑いながら見ていたら急に呼ばれた。
「トッティ。これ皆でお揃いにしてもいいかな」
手にしているのは手のひらサイズの猫ストラップ。
色は赤、青、緑、紫、黄色、ピンク、
僕もお揃いには賛成だ。
「いいねお揃い。でもトッティ言うな」
目を見合わせてくすくすと笑い合う。
幸せだ。
神様はやっぱり居ないのかな。
その他も沢山猫グッズを買って店を後にした。
「兄さん、この後映画見に行くんだけど何みたい?」
スマホを見せればうんうん唸りながら
肉球でぷにっと画面をタッチした。
「これって…今話題のホラーじゃん!!!」
兄さんの顔は悪人面になっていて、どう考えても狙って選んでいた。
でも無下には出来ない…
「ぐううううううっ…はぁ…仕方ない…」
項垂れてチケットを買いに行く。
耳元で意地悪く笑う声が聞こえ、兄さんの頬を抓る。
抗議の声が聞こえたが聞こえないフリで通した。
映画が始まるまで後少しって所でチケットを買ったので急ぎ足で向かう。
…結果から言おう。
ホラー嫌いの僕からすればもう1人でトイレ行けない。いや、元々行けないんだけど、もっと無理になったよ。
兄さんはそんな僕を見てケラケラ笑ってた。
あの闇松め。
ぶっ飛ばしてやりたい。
「はぁ…ほんと怖すぎるでしょ。」
未だ僕の腕の中でケラケラ爆笑している兄さんの頭にデコピンをして舌を出す。
痛かったのか猫パンチを繰り出された。
ガヤガヤと言い合いをしながらフードコートへ向かう。時刻は正午。
何食べるー?と言いながら辺りを物色する。
なんと動物用フードを販売してる店があって、兄さんはそこで猫用のフードを買うことにした。
僕は健康を意識してサラダとパスタ。
羨ましげに此方をジト目で見詰める兄さんに勝ち誇った顔を見せつける。
他愛も無い話を交わしながら食べ終わり、また兄さんを抱き抱えてフードコートを後にする。
ショッピングモールの三階にはテラスが設置されていてそこでは運動することが出来る。
フードコートからテラスまでが遠く、テラスに着いた時には既に脇腹に鈍痛が響いていた。
そこで30分程休憩すれば既に午後2時。
後はもうダラダラとするだけなので兄さんが欲しいと思ったものや気になったものを片っ端から買った。
気付けばもう午後5時半になっており、
そそくさとショッピングモールから出た。
外は少し肌寒く、空は薄いピンクと薄い紫が混ざりあって溶けていた。
チカチカと星が輝き、風が頬を撫でる。
腕の中でぶるりと身を震わせた兄さんの為に僕は早足で家へ向かった。
一松side
ついに最後の日が来た。
僕でさえ実感なんて沸いてない。
多分今日の0時丁度に消えるはずだ
ほんと、みんなには申し訳ない
親より先に逝くなんて親不孝者だと思う。
取り敢えず今日は今まで世話になった人達に挨拶をして、後は家でゴロゴロする予定だ。
おそ松兄さんに抱き抱えられて玄関を出る。
昨日とは打って変わった暖かい風が頬を撫でてぽかぽか天気だ。
まず行くのはチビ太のおでん屋。
今まで散々ツケたから今ある手持ちの全財産を持ってきた。全く足りないけど。
チビ太に全て説明した時、呆然としていた。
「それ…本当なのか…そんな…一松…ってやんでぃ…またいつか会いに来いよな。」
涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら他の奴にも早く挨拶してこいと言われ、感謝と謝罪を伝えて去る。
といっても僕の声は直接チビ太には伝わらないから誰かに翻訳してもらった。
次はハタ坊の所。
ハタ坊は大声で泣き喚いて中々泣き止まなかった。ほんとに友達想いの良い奴だと思う。
ハタ坊だけじゃないけどね。
簡単に感謝と謝罪を伝えて足早に去る。
「また一緒に遊ぶじょー!!!」
去り際に大きな声が聞こえた。
次はダヨーンとデカパン。
僕がこうなってから本当にお世話になった。
デカパンも暗い顔だったけど、感謝と謝罪を伝えてラボを去る時は穏やかな笑顔になってた。
「力になれなくて申し訳ないダス。またいつか会いに来てダス。」
「そうだよ〜ん!また会いに来るよ〜ん!」
本当に優しい人達だ。
次はイヤミ。
イヤミにもなんだかんだ言って世話になったし報告する義務はあるかな、と思って来た。
イヤミはつっけんどんな態度で僕たちをあしらったけど、少し寂しそうに見えた。
「そうザンスか。ほんと、1人でも減って清々するザンス。…っ、はぁ。…寂しくなるザンス。」
とっても小さな声で話していた。
他にも色々な人に会いに行った。
でもやっぱり最後はトト子ちゃん。
トト子ちゃんはとっても綺麗に泣いていた。
普段僕達を殴ったりしてるけど、僕たちの為に沢山泣いてくれた。
「うっ、嘘って言ってよ…ひぐっ…うっぅ…」
トト子ちゃんと少し話をして僕達は家に戻った。
なんだかさっきからとっても眠たいよ。
時間は正午。
お昼ご飯を食べたあと皆で2階で沢山話しをした。
「一松、また俺たちの弟に産まれてこいよ。俺本当に最低な兄ちゃんだったよな。でも俺、一松の兄ちゃんに産まれられてすっごく幸せだったぜ。一松は素直じゃないし無愛想だけど、本当は誰よりも俺達の事を愛してくれてるってこと知ってるから。そして、俺達も一松を愛してる。」
「一松、お前が何故俺に冷たい態度を取るのか分からなかった。それでも俺にとって一松は本当に大事な弟だ。おそ松の言う通り、また俺達の弟に産まれてきてくれ。その時はまた一緒に遊ぼう。愛してるぞ。」
「一松、僕と一松は近いのに遠かったよね。僕今凄く後悔してるよ。もっと一緒に居ればよかったって。でも今更後悔しても遅いよね。だからっ、だから、また僕達の弟に産まれてきて…!本当に、愛してる。」
「一松兄さん。僕は一松兄さんの相棒で居れてほんっとうに幸せだったっす!…本当は居なくならないで欲しい。ずっと僕達といて欲しいけど、どうしようもないよね。だから、また僕達の兄さんに産まれてきてくだせぇ!ずっと待ってるっす!また素振りしよう!愛してる!」
「一松兄さん、いつも中々素直になれないけどさ…実は兄弟ランキング、1位だよ。いつも生意気言ってごめんね。大好き。また、僕と十四松兄さんの兄に、おそ松兄さんとカラ松兄さんとチョロ松兄さんの弟に。松野家の4男に生まれてきてね。愛してるよ。」
涙を頬に流しながら1人ずつ手を握って語りかけて来る。
狡い。
涙が止まらなくなっちゃう。
「うん、また、また松野家の四男に産まれたい…!おそ松兄さん、おそ松兄さんは全然最低じゃない。いつも僕達のことをちゃんと見てくれて、大事なところで頼らせてくれる。
それからカラ松兄さん。いつも冷たくして本当にごめんなさい。実は、憧れてたんだ。素直になれなくて、いつもあんな態度をとって。ごめんね。また遊ぼう。
チョロ松兄さん、そうだよね。僕達お互いを知ろうともしてなかったよね。また産まれてきたら一緒にライブ見に行こうね。
十四松、俺も十四松と相棒で居れて本当に良かった。僕も皆から離れたくないよ。…素振り、何万回でも付き合うから覚悟しといてね。
…トド松。俺もいつも意地悪してごめんな。兄弟ランキング、1位で嬉しいや。お前はオシャレで優しくてカッコイイから、一番最初に童貞卒業しそうだな。頑張れよ。最後に、僕は皆と兄弟で居れて良かったよ。ありがとう。」
そうやって皆で大声を上げて泣いて、何時間か寝た。
起きるともう夜ご飯の時間で、皆で食卓を囲んだ。
父さんも母さんも涙を流しながら、でもとても穏やかな顔で僕を見つめた。
食後、家族全員で居間で夜を明かす事を決めた。
0時に向かう度に段々と眠くなってくる。
父さんと母さんも今までありがとう、愛してると言ってくれた。僕も愛してる。
僕はもう座ってる事もできなくて横になっていた。
今は午後10時。
皆で駄弁っていたらいきなりチョロ松兄さんが僕に花を渡した。
「一松、これ、出掛けた時の花だよ。ラベンダー。花言葉はあなたを待っています。
僕達はずっと待ってるからね。」
そうやって腕を握ってくれた。
もう結構冷たい僕の腕を暖めるように摩ってくれた。
ありがとう、と言うと十四松もハッとした顔でポケットから花を取りだした。
「一松兄さん!僕も!オトメギキョウとたんぽぽ!オトメギキョウの花言葉は感謝と期待!たんぽぽの花言葉は真心の愛だよ!僕達は兄さんにとっても感謝してるし兄さんがまた産まれてきてくれる事を期待してる!僕達の真心の愛、伝わったかなぁ?」
涙がボロボロと畳に吸い込まれる。
最後の力を振り絞って微笑み、ありがとうと伝えた。
今は午後11時半。
段々事故当時の痛みが思い出され、全身がズキズキと痛む。
荒くなる息や目から零れ落ちる大粒の涙に皆が涙を流しながら覗き込む。
ゴホゴホと咳をすれば吐血する。
十四松とトド松が大声で泣き始める。
「いやだ、いやだ!やだ!兄さん!逝かないで!相棒でしょ!」
「一松兄さん!!!やだ!!!一緒にまた合コン行くんでしょ!目を開けて!」
段々閉じていく目。
もう息をするのさえ面倒になる。
おそ松兄さん、カラ松兄さん、チョロ松兄さんの嗚咽も耳に入る。
「み…んな…僕を”忘れないで”」
その言葉を遺し、僕は死んだ。
耳は少し生きていて、皆の泣き叫ぶ声や僕の名前を呼ぶ声に心が暖かくなった。
「一松君。君は愛されてるね。」
ただ1人、神様だけが微笑んでいた。
コメント
8件
ほんと泣きすぎて息が