へそウォ設定改変
九尾についてニワカです
モブ一要素
めちゃくちゃです
その日は朝から夜まで雨が降っていた。
雲から延々と流れる雫を眺めて震える身体を尻尾で包む。
己が人間に憎悪を抱くようになったのもこんな日だったな、と考える。
果たして震える身体は寒さからなのか恐怖からなのか。
九尾、一松が人間に憎悪を抱くようになったのはもう一〇〇〇以上年も前の事だ。
その頃はまだ社に祀られてはおらず、その社には先代が居た。
一松は先代の九尾と仲が良く、祀られては居ないがその社に住み着いていた。
村の人々はもう一匹社に九尾が居る、と倍の供え物をして作物の豊作を願った。
まだ力も余りなく勝手な行動も出来なかった一松は無能だと罵られ煙たがられた。
いつの間にか先代すら一松を煙たがり、
ある日社から何も持たずに追い出された。
その日は神様もグズグズの大雨で追い出されても大きな木の下で待つ事しか出来なかった。そこに偶妖怪が見えるという少年が通り、しまったと思っても後の祭り。
下卑た笑いを浮かべながら殴られ、蹴られ、そして仲間を呼んで犯された。
押し倒された身体が泥に侵され、先代に整えてもらっていた髪や尻尾が水分で纏まり汚くなる。
一松は心底信じられなかった。
人間が妖怪を犯すなんて可笑しい。
本当なら妖力で簡単に撃退出来たはずだが残念ながら先代に妖力を奪われてしまった為抵抗など出来ず無理やり犯されてしまったのだ。
一松は元々力も弱く大声を出すことも余りしない大人しい狐だった。
残酷に蹂躙された後は水分と受けたもので重い体を引き摺りながら全国を旅した。
矢張り妖力は雀の涙程で何度も暴力を受けた。
何時しか一松の心は闇へ染まり、人間に復讐する事だけを考えるようになった。
元々九尾というのは人を食う妖なのである。
しかしこのままでは妖と人間が共存できないと考えて村の豊作を願うようになった。
それでもまだ山に籠り人間を喰う九尾や他の妖も存在するのだ。
一松は元いた所とは遠い遠い山を見付けてそこに住み着くようになった。
山に深く入る程村の数は減り妖が増える。
そこの妖は友好的なようで余所者の一松を警戒さえすれど攻撃はしなかった。
そんな妖達と直ぐに仲良くなって小さな小さな社に住み着くようになってからだった。
妖達が少しずつ姿を消しているのだ。
本当はその山の中で一番力を持っていた一松は仲間の妖から力を貰い結界を張った。
途端ピタリと妖達が消えることは無くなった。
それからは人間も少しずつ増え、近くに村が何個も出来た。
しかし一松の憎悪の強さにより作物は育たず疫病は流行り無差別殺人が起こり村は直ぐに滅んだ。
そんな状況が五〇〇年以上続いたある日、それを見兼ねたある天狗がおずおずと一松に相談をした。
その頃には一松の妖力もすっかり回復したどころか前よりも強くなり山の中全てを縄張りにしていた。
そんな一松に逆らえば消されると考える妖が多く、少し胸が苦しくなる。
「一松様…このままでは噂を聞いた祓い屋が俺達も、一松様も消してしまいます!どうか人間を殺すのをお止め下さい!」
一松はかしこまった口調や下に出る態度が大嫌いだった。
「…その言い方辞めてって言ってるでしょ。あと人間は殺す。やだよ。僕にとって大切な皆を人間に消されるなんていやだよ。だったら人間を近付けないようにすれば良いでしょ?」
苦虫を噛み潰したように顔を歪めて吐き捨てる一松に天狗は戸惑い、苦しそうな顔をしてから口を開いた。
「一松様以外の妖は余り強くないのです!強い祓い屋の気配だけで消えてしまいます。…俺達天狗はこの山を今日中に出て行きます。」
信じられなかった。
自分が必死に守ってきた仲間達がこんなにも簡単に消えて行ってしまうなんて。
いや、そもそも守ってきたなんて言葉が可笑しいんだ。
僕は僕の仲間を見くびっていた。
僕の仲間も自分で自分の身くらい守れるのに。
ならばもう一緒に居なくてもいいや。
「…分かった。君達は出て行かなくていいよ。元々この山に居たのは君達なんだから、僕が出て行くよ。今までありがと」
少し強く言い過ぎただろうか。
淡々と言い放って一松はふわりと浮いた。
「みんなにも言っておいてね。」
酷く哀しそうに微笑んで一松は飛んで行った。
残された妖や山はどうなったかって?
あぁ、勿論結界が壊れて直ぐに滅んだよ。
一松はまた全国を放浪するようになったが妖力が強くなった故に暴行を受けることは無くなった。
しかし暴言などは未だに纒わり付くのである。
最も、そんな人間はすぐさま殺して神隠しとやらを見せてあげるのだが。
もう何人も殺して食料には困らなくなった時、またもや人間が余りいない山を見つけた。
気配からしても妖が居ないようで一松はこれ幸いとその山を自分のものにした。
人間や妖が入ってこれば即座に殺して喰う。
そんな生活が三〇〇年以上続いた。
そんなある日、一松が手を掛けずとも直ぐに死ぬであろう老人が一松の住処の小さな社までやってきた。
その老人は何やら袋からいい香りのものを出して供えてきた。
どうやら老人は一人暮らしのようでもうすぐ死ぬらしい。
村の掟に従ってこの山に入ることを辞めていたがもうすぐ死ぬならと掟を破り来たらしい。
なんだか一松は言い知れぬ感情に侵され、老人の前にふわりと飛び降りた。
老人は気配に顔を上げ、嬉しそうに微笑んだ。
「九尾様…」
ムズムズとした感情が躯を駆け上がり、一松はつっけんどんに言い放った。
「何か用があるんじゃないの?何の用も無しにこんなところまで来てこんな狐にお供えするなんて馬鹿だよ」
老人は更に嬉しそうに微笑んで、首を振った。
「用などありませぬ。私めは九尾様の事が大好きなのです。実は私祓い屋なのですが祓うのが可哀想で辞めてしまったのです。そこである日この山に九尾様が住み着いたと噂で聞いたものですから一目見たくて…」
一松は人間に恐れられなかったのなんて何百年も前だと少し綻んだ。
「様って呼ぶのやめてよ。変な言葉遣いも!僕あなたのこと気に入った!ここで一緒に住もう?何でも調達して来てあげるから!寿命も幾らでも延ばしてあげる!」
老人の手をとり尻尾を振る。
老人は呆気に取られていたがすぐにくしゃっと笑った。
「分かった。九尾が良いなら住もう。私の名前は喜助だよ。」
一松も直ぐに自己紹介をして仲良くなった。
一松は老人の為ならなんでもして老人の事なら何でも受け入れた。
老人も一松の言う事は全て二つ返事だった。
しかし老人は寿命を延ばすのだけは拒否していた。
「どうして?寿命を延ばさないと僕とずっと居られないよ?」
ある日こう聞いた事があった。
もう老人は布団から立ち上がる事が出来ず、全て一松が世話していた。
こう問いた時、老人は表情を崩さずに笑って一松を撫でた。
「それでいいんだ。無理に延ばした寿命より神が定めた寿命を全うする方が人間っぽいだろう?一松、私はきっと明日死ぬ。だから私が居なくなってもこの山を守って、人間を守ってやってくれないか。人間が一松に酷いことをしたのも知っているよ。でもね、やっぱり人間と妖は共存しなければならないんだ。分かったかい?」
優しく諭すような言い方に一松は耐えられず、思わず泣いてしまった。
腕の中で大泣きする一松を優しく抱き締めて、撫でて、額にキスを落とした優しい老人は次の日、亡くなった。
一松は老人の遺体を埋めようと思って社の前に穴を掘った。
しかしそこに丁度よく人間が通り掛かり、一松が人間を殺して喰う為の準備をしていたという噂が飛び交った。
一松は否定をしなかった
「僕が老人の心労を増やしていたかもしれなかったから。」
1つ呟かれた言葉は雨の音に掻き消された。
それからはまた人が入ってこず寂しい日々を過ごした。
そして今、なんの変化も訪れず未だに一人ぼっちで山の中に居る。
(寂しくないって言ったら嘘になる、けど…)
長く伸びた爪を眺めて小さく息を吐く。
少し眠ろうと縁側から腰をあげる。
途端現れた気配に耳をピクピクと動かし、一松は警戒した。
山の入口から唯ならぬ速さでナニカが向かって来ている。
「え…なに、人じゃない…」
鳥居まで後数mの所で焦って結界を張る。
張ったと同時に結界にドンとぶつかる音。
警戒しながらも見に行けばそこには口をパカッとあけた犬神が居た。
一松は小さく悲鳴を漏らし社へ引っ込んだ。
一松は犬神が苦手なのである。
ワンワンと煩い声にドタドタと走り回るふさふさのフォルム。
一松と正反対の姿に思わず顔が強ばる。
結界にぶつかって意識を暫し飛ばしていた犬神は頭をブンブン降って一松を見詰めた。
「…遊ぼ!!」
ハッハッと息を荒くさせて尻尾を振ってキュルルンとした瞳で見詰める姿はとても愛らしい。
一松の心はあっという間に射止められてしまった。
「…う、ん。」
それからは蹴鞠をしたり絵巻を読んだり昼寝をしたりと色々遊んだ。
話を聞けば犬神は全国を放浪しながら住む場所を探しているらしい。
「ならさ、一緒に住まない?」
話を聞きながら勝手に零れ落ちた言葉。
犬神こと十四松は満面の笑みで一松に抱き着いた。
「僕ね、一松の事好き!」
ぺろぺろと顔を舐めながら言う十四松を撫でながら一松も微笑む。
「僕も好きだよ」
途端十四松の顔は真剣な眼差しになり、一松から離れた。
「どうしたの?」
「両思いってことは…結婚できるね。」
照れたように頬を赤く染めてボソボソと話す十四松はとても可憐であった。
「…一松は人間が嫌いなんでしょ?だったら僕が一生人間に会わない所で養ってあげる」
十四松の目の中は透き通った硝子のようだったがいつの間にか濁った飴玉のように甘く溶けていた。
その後の結婚生活は上手くいったとかいかなかったとか。
コメント
2件
可愛い"(∩>ω<∩)"良かった