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その日ライアは、大きな声で目が覚めた。
銃声。駆け寄って外を見る。
「彩月おねえちゃん!」
隣に住むきれいなお姉さんが、わけのわからない生き物と戦っている。お姉さんの体が、生き物によって傷つけられる。
お姉さんは、少しずつ体を食い殺されていった。幼いライアは、お姉さんの顔が頭から離れなかった。
いつからこうなってしまったのだろうか。ライアはじっと空中を見つめる。母に、父に戦闘命令が出された。引き取ってくれた家族も、大勢を守るために死んだ。
「理屈では、わかっているんですけど。」
ライアは小さくつぶやいた。生きるためには、犠牲が必要だ。…怪異が街にあふれたこの世界では。
何より苦しいのは、弟の存在だ。弟であるメシアは、ライアとの接触を拒んだ。理由は知っている。
一度、メシアの親友である海麻と買い物に行ったとき、怪異が出たからだ。見殺しにした。
「仕方ないです、助けられるわけ、ないです」
「幼かったから。恐怖を感じるのが当たり前でしょう。」
(どうして?ボクが代わりに死ねば、みんな平和だったよ?あの子も死ななくて。メシアも元気なままで)
うるさい、うるさい、うるさい…!頭の中、ぐらぐらする。
(キミなんてだれも望んでない。死んだって、悲しむどころか気づかれないでしょう?)
頭の中から聞こえる声に、ライアは思いっきり息を吸い込む。過呼吸だ。なんどもせき込んだ。それでも胸のつかえがとれることはなかった。
空は、暗雲が立ち込めていた。
『招集 あなたを、怪異討伐隊員に指名します。』
来た、ライアは思った。もう、私は死ぬ。過呼吸になりながら、ライアは怪異討伐部隊からきた手紙を思い出した。母も、父も、みんなも、あれに呼ばれて、死んだ。
「いま、行きます。父さん、母さん。」
「そこ、住みたいから退いてくんない?」
メシアは、目の前で泣きじゃくる人に冷たく言い放った。
「や、やめてくれ、ここには、兄上が…!」
「なら、会わせろ。」
「兄上は…わ、私の心の中にいる!」
強めに言った彼を、メシアは鼻で笑うと、彼を蹴り飛ばした。
「死んだんだろ?死んだ人間は、土に還るんだよ。」
メシアは彼を追い出すと、乱暴にドアを閉めた。
(土にかえる。そんなの、俺が一番知っている。海麻だって、みんな。心の中にあるのは、思い出だ。)
先ほどの彼に腹が立つ。家族に愛されて。最愛の人の死を悲しむ余裕があって。そして、奪われることに対して、みっともなく泣いて。
(あんなのが生きてて、どうして海麻は。)
不快だ。どうも、あいつは兄を彷彿させる。だから、奪う。あいつが俺の視界に入らないように。
泣きたい。寂しい。怖い。生きたい。死にたくない。心臓が、そんな音を立てている。目を閉じると、メシアは気を失うかのように眠った。
「あ、あの、ほんとに…」
寝てる。銀は、困ったように目の前の男を見つめた。やばい筋の人だったりして。銀は、慌てて首を振った。
「起きて、お願い…」
兄上が怪異に殺された。一か月前の話だが、心の傷は消えない。そんな中、この仕打ちだ。辛い。
「兄上は、日本刀を持っていなかっただろうか…!!あった!」
刀で、自分と兄上から家を奪おうとする不届き物をつつく。髪の毛がさらさらと切れていき、銀は慌ててひっこめる。殺す?私が?…話を聞いてみるだけなら、いいかもしれない。決してさみしいとかではなく。
「あの、起きてくれ……起きろ!!」
「んあ…?ああ、お前か。何?どっから入ってきたわけ?」
「窓のカギが開いていた。不用心だぞ。…ではなく、話を聞いてやる。つらいことでもあったのだろう?」
メシアは、銀をごみを見るような目で見ると、思いっきり蹴っ飛ばした。
「キモイんだけど…自分の立場、わかんない?」
「うう…と、兎に角…」
メシアは、銀をいちべつすると、ため息をついた。
「仕事に行っている間だけなら、ご自由に」
銀は、顔を綻ばせたが、慌てて口を結ぶ。
「これは私の家だ!貴殿の家に帰れ!」
「貴殿って…何?あんた、貴族だったりする?」
「どうでもいいだろう!?帰れ!」
怒る銀を無視し、メシアは気怠げにスマホに触れる。
『もしもし、ソレ、いる?』
『うん。…すみか見つけたから、良いよ。』
すみか。すみか。…住処?
銀はそれに気づくと、真っ青になって気を失った。
「落斗さん、ソレです。メシアの元へ行ってきます。司令を伝えに。」
部下のソレイユが、僕の下へトコトコ歩いてくる。
「ソレイユ、異常はない?」
「ええ…あの、メシアの側に誰かいたような…」
「そう…いいかもね。人手不足だし。」
僕はくすくす笑った。ソレイユは困ったように首を傾げた。
招集が来たものの…
怪異討伐ってどこでしょうか…
(ボクには無理でしょう?早く帰ろうよ。)
(何もかも忘れよう。)
私の頭の中に住んでいる、ボク。その声を無視し、歩く。
「新人?」
いなかった場所から、突然少女が現れた。驚いたが、討伐部隊には、特殊能力を持った方がいると聞いたことがある。
「ええ…迷ってしまって…」
「私はソレイユ。よろしくね…?」
「ルノアール…ルノアール・ライアです。」
ソレイユは、薄く笑うと離れていった。
どうしよう…
「………」
すぐそばで、風を切る音がした。怪異が、近くに、いる。
死ぬ。殺される。
ガクガク震える足。逃げれない、動けない。
死んだみんなが、私を見つめる。
助けて
(ほら、ボクの言った通り。)
(できない。)
嫌だ。こんなことなら、もう1回やり直せたら良かった。
(…ボクの力が、ほしい?)
無我夢中で、頷いた。