適当に授業を受けて元貴とくだらない話をして過ごしていた変わらない毎日に少しの変化があった。
「若井くーん、僕の授業どう?わかりにくいところないかな?」
「あれ、若井くん今日はカレー?じゃあ僕もそうしようっと···隣で食べていい?」
「若井くん走るの速いんだね、さっき職員室から外見たらびっくりしたよ」
···とにかくあいつは俺に話しかけてくる、それもどうでも良い話ばかり。
すれ違えば話しかけられ、1日会わなかったなと思うと帰りにひょこっと教室を覗かれてたりする。
「若井、めっちゃ気に入られてるじゃん」
明日から夏休みだし一緒に帰ろうと誘ってくれた元貴がケラケラと笑いながらからかってくる。
「頼んでないんだけど···なにあれ?うっとおしい」
心配しているつもりだろうか。
あんなところを見たから放っておけない責任感を感じているんだろうか。
「んー、けどあの先生裏表ないし、たぶん素であれなんだろうね」
「え、元貴はそう思うの」
元貴は敏感で割と聡いところがある。
少し話してあの人はだめ、とかあの人は嘘っぽいとかズバリと言ってそれが当たっているから人をみる目がある、と俺は感じていた。
そんな元貴が言うなら、もしかしたらあいつはあのまんまの性格なのかもしれない。
「···他に元貴から見てどう思う?」
「藤澤先生?たぶんだけど自分が辛くても周りには笑顔でいるタイプじゃないかな。無理して抱え込んでそう、色々。あと責任感あって愛情深い」
「ふーん···」
俺から見れば何にも考えてないほわほわしてる奴で今でも苦労なんかしてなさそう、なんて思っていたのに。
けど元貴の言う事は割と当たっているからなぁ。
「気になるの?」
「はぁ?!別に何も言ってないだろ」
元貴がまたケラケラと楽しそうに笑った。
「あの人は信用出来そうだけどね、それに若井のこと好きそうだし」
「やめろよ···」
あんなところで俺を助けたことから気にかけているだけだろう。
「若井くーん、いるぅ?」
「噂をすれば。いますよー、先生」
あいつが教室にプリントを持って入ってきて、元貴は玄関で待ってるわ、とさっさと出ていった。
「ごめんね、帰るところ。明日から夏休みでしょ?自習室として教室開放するから若井くんおいでよ、これ日程」
カレンダーには日程と時間が記載されていて、前半ほとんどに赤丸がつけられていた。
「···この丸は?」
「あっ、僕が当番の日だよ、よろしくね!待ってるし、勉強も教えるし」
そう、音楽の先生なのに意外と数学なんかも得意でわかりやすく教えてくれる、しかも気さくで優しい、と皆が言っているのを俺は知っていた。
「丸、多くない?夏休みほとんど」
「独身で恋人もいないしちょーどいいって扱いじゃない?だから楽しみは若井くんが来てくれることくらい」
「···行けたら、ね」
「ん、待ってる」
独身で恋人もいないんだ。
にこにこ笑いながらじゃあ気をつけて帰るんだよ、と手をひらひらと振ってあいつは教室から出ていった。
···仕方ない、俺も暇なら···出来るだけ行ってやるか。
急いで玄関に向かうと元貴は待ってくれていた。
「あれ、若井なんか嬉しそうな顔してる」
「別に···」
別に、明日からもあいつに会えるのが楽しみってわけじゃない。
ただ、予定のない夏休みに予定が出来たのが少し嬉しかっただけ。
俺は無くなさいように大事にプリントを鞄にしまった。
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本当は藤澤さんの予定を知れて嬉しいはずなのに、ツンデレ若井さんが可愛すぎるわ❤