🎼演劇部!
を主の今の国語力でリベンジする!
大きなステージの中央に、六つの影が立っていた。降りそそぐライトをまとい、彼らはまるで別世界の住人のように煌めいている。ひとつの台詞、ひとつの所作、そのすべてが観客の息を止めさせるほど美しく、力強かった。
客席の中、家族連れの一角で、ひとりの少年が前のめりになって舞台を見つめていた。
瞳はきらきらと揺れ、口元は驚きと憧れでわずかに開いている。
「 … すごい。」
つぶやきは、ささやきにも満たないほど小さかった。
六人の演者は、舞台の上で確かに生きていた。 その姿は、まるで物語の主人公たちが現実の幕を破って現れたようで、少年には眩しすぎるほどだった。
劇が進むごとに、彼の胸は熱くなり、鼓動は速くなる。 目の前の光景はただの“演劇”ではない。物語そのものが息づき、観客の心へ手を伸ばしてくる。そんな素晴らしい舞台だった。
劇場を出た帰り道
夜の空気はひんやりしていた。
「 ♪ ~ 」
少年は軽くステップを踏みながら、父親の手を握って歩いている。歩きながらも先ほどの舞台の光景が何度も頭の中で反芻する。
「母さんっ!」
少年は父の手をぎゅっと握りしめ、少し前を歩く母に向かって声を上げた。
「 ん、どうしたの? 」
母親はぴたりと足を止め、軽く首をかしげながら振り返る。
「あのね!俺ね!今日のね!すごいね!楽しかったんだよ!」
言葉が熱に押されるように、ぽんぽん飛び出していく。 語彙力があるようで、ないようで、感情だけがあふれ出している。
「 俺ね…だからね…その、演劇やってみたいんだ。」
言葉に近づくにつれ、声はどんどん小さくなっていく。 少年の肩はすこしだけ縮こまり、目線も不安げに揺れた。
「 だ、だめ? 」
すると母親は目を細め、ふっと優しく笑った。
「 いいわよ。」
「 ぇ、ほんと !? やったー!」
「 ははっ、笑 」
少年の声が夜空に跳ね上がる。 足元の影さえも弾むように揺れ、父も思わず笑みをこぼす 。
__ピピピピピ
スマホのアラームが、朝の静けさを破るように裂いて鳴り響いた。
ベッドの中で、布団をかぶったまま腕だけがもぞもぞと動く。 指先が枕の下を探り、壁側を探り、ようやく冷たいスマホの背面に触れた。
「 ……あった。」
掴み上げて画面をスワイプし、アラームを止める。 その途端、静寂が戻り、代わりに大きな欠伸がひとつこぼれた。
「 ねっむ…… 」
ゆっくりと身体を起こし、ベッドの軋む音が部屋に響く。 机の上に置きっぱなしにしていたメガネを手に取り、かけ直す。
ピントが合った世界が広がり、彼はぼんやりと部屋を見渡した。一般的な部屋の広さ。だけど、壁一面を埋め尽くすように貼られた、何十枚ものポスター。
すべて、あの日ステージで見た憧れの劇団の、公演ビジュアルや舞台写真。
主役として写る姿もあれば、脇役として息づく一瞬の表情もある。
鏡の前に立つと、そこに映る自分の姿に思わず目がとまった。 黒髪の中央に大胆に走る鮮やかなピンクのライン。 もともと細いメッシュだけ入れていたのだが、どうせならと真ん中に大きく染め直したものだ。
「 えっと、何処にあったけな 」
ぼそりとつぶやきながら、机の引き出しを開ける。 中をがさがさと探っていると、指先に固いものが触れた。
「お、あった。あった…」
取り出したのは、黒と桃色の長方形の耳飾り。 表面には細い線で桜の模様が刻まれていて、派手さの中にも上品さがある。
彼のお気に入りだ。
片耳だけに耳飾りをつけ、もう一度鏡に顔を向ける。 角度を少し変え、光の当たり方を確かめ、そして…
「……ふっ、」
鏡に向かってキメ顔をする。
数秒後、気恥ずかしさが込み上げて頬がほんのり赤く染まった。
「う”ぅん!さぁて、制服着替えよ! 」
気持ちを切り替えるように声を出し、クローゼットを開ける。 中から取り出した制服に袖を通し、ワイシャツのボタンをひとつひとつ丁寧に留めていく。 ズボンに足を通し、ベルトを締める。 そして、胸元へ桃色のネクタイをきゅっと結ぶ。 髪のメッシュと色が揃って、なんだか少し誇らしい。
「 よしっ… 」
軽く拳をにぎって息を整え、
荷物の入ったスクールバッグを片手に持つ。
部屋を出て、ドアノブを回す。
ひらりと揺れるネクタイの先を感じながら、
彼はリビングへと向かった。
がちゃ
リビングに入ると、テーブルの上には温かみのある湯気がまだわずかに残る朝食と、一枚の手紙が置かれていた。
「……?」
手に取ると、短いけれど力強い文字でこう書かれている。
『朝食、用意したよ。学校頑張ってね。』
「… 父さん。」
彼の胸の奥が、じんわりと熱くなる。
母が交通事故で亡くなって以来、彼と父の二人暮らしが続いている。 父は仕事が忙しく、家にいる時間はほんの少し。
朝も夜も、多くは独りで過ごすことが増えた。
それでも――。
忙しさの合間を縫って、父は毎朝こうして食事だけは用意してくれる。 誕生日やクリスマス、節目の日には必ず帰ってきて、少しぶっきらぼうに、でも確かに優しい笑顔を見せてくれる。
そんな父の気遣いが、紙切れ一枚のメッセージに全部詰まっていた。
「じゃあ、ありがたく いただきます。」
席に座り、箸をとる。
まずは卵焼きをひと口、ぱくり。
「 ! 」
「 ……はは、やっぱりしょっぱい笑 」
思わず笑ってしまう。 父の作る卵焼きはいつもしょっぱい。砂糖と塩を間違えているのか、塩加減が下手なのか、理由は分からないけれど、昔からずっと変わらない味だ。
このしょっぱい卵焼きが、母とは違うよさが出ていて彼は好きだ。
玄関にしゃがみこみ、靴の紐を結ぼうと指先を動かす。
「うわっ……からまった」
靴紐は見るも無惨に複雑な結び目をつくり、思わずため息が漏れる。 本当に、不器用だと自分でも苦笑する。
なんとか悪戦苦闘の末に結び終え、
「よし……」
と小さく気合を入れながら立ち上がる。
ドアノブに手をかけたその瞬間、
視界の端で、玄関の棚の上に置かれた写真立てが光を反射した。
「 … 」
そこに写っているのは、やわらかく微笑む一人の女性。
蘭は歩みを止め、写真の前で静かに微笑み返した。
「母さん。行ってきます」
言葉を投げかける声は、ほんの少しだけ優しくなる。
この家の中で、
そして彼の心の中で、母はずっと生き続けている。そして彼は玄関のドアをゆっくりお開けて、外の世界へと歩いた。
これが、この物語の主人公。
川瀬 蘭(かわせ らん)。
数年前のこと。
「 今回は、なんと!今、大人気のあの子役、暇 南月君に来てもらいました!どうぞ!」
人気番組の司会者が元気よく紹介すると、まだ6歳の小さな少年が、控えめながらも元気にステージに現れた。
彼の出演は、あるドラマでほんの少しだけのセリフをこなした経験があるだけ。それが、初めての大舞台への出演だった。
本人は内心、これだけでは大して注目もされないだろうと思っていた。 しかし、舞台に立った瞬間、彼の演技は光を放った。
わずか一言の台詞、柔らかな笑顔、微妙な仕草。そのすべてが自然で美しく、見る者の心を引き込んだ。
放送後、SNSやレビューでは瞬く間に絶賛の声が広がった。
「可愛い」「天使みたい」「存在そのものが輝いている」と、驚くほどの反響が寄せられる。
その日から、南月には次々とオファーが舞い込み、さまざまな作品で演技を披露することになる。
「こんにちはー!なつです!」
南月が笑顔で挨拶する。それだけで、場内の空気がぱっと明るくなる。
「 可愛いーー、!」
「 こっちむいてー! 」
声を出すだけで観客は笑顔になり、手を振るだけで視線は彼に集中する。
まるで、彼がそこにいるだけで舞台の主役が決まるかのように。
自然と目が覚める。
「 あ”、…… また、ソファで寝てた… 」
広い部屋の中央に置かれた大きなソファで、昨夜も眠りこけてしまったらしい。
だが、部屋は広く、ソファがあっても窮屈さはない。 軽く伸びをし、机の上に置かれたメガネをかける。
椅子に腰を下ろし、手元のパソコンを起動する。
「 …… 」
カチ、カチ…カチ…
「 …はぁ、」
何気なく開いたウェブサイトに、予想通り小さなため息が漏れる。
毎日確認せずにはいられないサイト。そこには、かつての自分の名が、ひどく辛辣に書かれていた。
元人気子役だった、暇南月。
今では、テレビで一切みない干された、どん底に落ちた者!
「 … どん底に落ちて悪かったな。」
小さく呟き、視界の奥で熱いものがこみ上げる。元 人気子役であったことは、彼にとって誇りであると同時に、重く苦しい鎖のようでもあった。
画面に流れるコメント欄は、容赦のない言葉で埋まっている。
『誰これ?』
『あぁ、忘れてたわw』
『あのイキってた奴だw』
『分からされてざまあw』
「 …… 」
吐き出すような言葉の洪水に、胸がぎゅっと締め付けられる。頬 を伝う小さな涙を、慌てて指先でぬぐう。
これが、彼にとって毎日のことだった。
見なきゃいいと思うのに、画面の前に座る自分がいる。 辛辣なコメントの中に、ほんの少しでも優しい言葉があるかもしれない。
そんな淡い希望を胸に、毎日、毎日、画面を開き続けていた。
今日も同じようにスクロールしていたその時、ふと目に一つのコメントが入った。
『 俺は、この人の演技好きだった。また帰ってきて、美しくて輝く演技をして欲しい。』
「 ………… 」
カチ、
言葉を読み上げるだけで、胸に小さな衝撃が走る。 指先が震え、思わずマウスをクリックした。 返信欄には、同じ思いを抱く人々の声が溢れていた。
『 私も! 』
『 帰ってきてほきい! 』
『 ずっと、応援してます! 』
「 … 帰ってきてほしい…か、」
静かに、小さな声で呟く。
彼はパソコンを閉じた。
画面の光が消え、部屋に静寂が戻る。
ガチャ
大きなクローゼットの扉を開ける。
中には、色とりどりの服がぎっしりと並んでいる。 その中から、今日着る制服を手に取り、ゆっくりと袖を通す。
ワイシャツを着て、ボタンをひとつひとつ丁寧に留める。 ズボンを履き、ベルトを締め、最後にネクタイを結ぶ。
「……」チラ
鏡の前に立つと、自分の姿が映る。
少し細く、不健康そうな体つき。
目の下にはわずかな影があり、笑顔を作ろうとしてもどこか弱々しい。
スケルトン階段をゆっくりと降りる。
足音が軽く響き、階下の広い空間が徐々に近づいてくる。
リビングに足を踏み入れると、誰もいなかった。 静まり返った部屋に、自分の存在だけがぽつんと浮かんでいるような感覚。
「 …飯、冷蔵庫にあるかな。」
両親はというと、子役時代に稼いだ彼の収入で旅行に出かけ、満喫しているらしい。
どうやら宝くじも当たったらしく、仕事も辞めてしまったという噂だ。
そのせいか、家には彼一人である。
大きな窓の前に立つと、薄いカーテンが揺れている。 少しの風が室内に入り込み、カーテンをさらさらと揺らしている。 光が差し込む窓辺には、かつての華やかな思い出の影など微塵もなく、ただ孤独な空気だけが漂っていた。
ぱっぱと制服を整え、スクールバッグを片手に持つ。そう思ったその瞬間、足が突然ピタリと止まった。
「 ……あ、」
思い出したかのように、慌てて階段を駆け上がる。 息を弾ませながら、自分の部屋に飛び込み、引き出しの中から小さな箱を取り出す。
「 忘れてた… 」
手際よく72のヘアピンを取り出し、髪に丁寧につけていく。 細かい作業を終えると、鏡に向かって軽く微笑む。
「 よし、行ってきます。 」
小さな声に少しだけ力がこもる。 準備は整った。外の世界へ、一歩を踏み出す瞬間だった。
コメント
1件
今から一気に2つ作るから、覚悟しとけよ。