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借りた家が見えてきた。
まだまだ前夜祭まで時間があるから、ジョンの勉強でも見てようか。
今のところ一人でなんとか出来ている様だから、手を出さない方が正解だろうか。
ならコイの吸い込み釣り以外、たとえばぶっ込み釣りの仕掛けとか、フナ用の仕掛けでも作っていようか。
そんなことを考えつつ、家の扉を開けたところで。
「待ってたのニャ」
いきなりミーニャさんの声が出迎えた。
なお本人は、Tシャツ短パンというラフなスタイルだ。
先程のホーニャさんと似た服装だが、サイズはあっている。
だからホーニャさんほど危険ではないけれど、やっぱり……
「どうしたんですか?」
とりあえず気にしない態度を意識しつつ、そう聞いてみる。
「お腹が空いたのニャ。あと2時間待つのは辛いのニャ。ニャんでもいいからお魚が欲しいニャ」
何というか、いつも通りの要求だ。
あと2時間待てと言いたいところだけれど、まあいいか。
実は何かの際に備えて、収納内に非常食としておにぎりを20個準備してある。
材料はあるし、この村にいるなら非常事態なんてことにはならないだろう。
ということでリビング中央のテーブルに、おにぎり4個を入れた皿を出す。
俺はまだお腹が空いていないし、ジョンもそうだろうから、これは全部ミーニャさん分。
あとは冷たいお茶入りのコップを2つ。
これは俺とミーニャさん分だ。
ジョンが勉強を終えてこの部屋にきたらもう1つ出すということで。
「どうぞ。中身はアジの干物とアジの味醂干しです」
「いただくニャ。でももう少し欲しいニャ」
「あと2時間で前夜祭開始です。それに俺はまだお腹が空いていませんから」
「わかったニャ。ニャら4個ともいただくニャ」
減った分のおにぎりは、後で作っておこう。
いや、今のうちに作っておいてもいいか。
並列思考と収納を使用すれば、他に何かしながらでも問題ないし。
とりあえず並列思考の一つでご飯を炊きつつ考える。
おにぎりの具はいまのところ2種類だけれど、もっと増やした方が楽しいかなと。
そういえば前に食べたカツオオイル煮卵酢仕立ても、おにぎりの具にあいそうだな。
レシピも材料もあるし、後で作っておこう。
というところで、俺はミーニャさんに報告した方がいいことがあるのを思い出した。
まずはこちらから。
「そういえば養魚場へ行ってきて、コイを20匹持ってきました。あとお魚貯金の木札です」
「ありがとニャ。魚はエイダンが持っていて欲しいのニャ。前に焚き火で焼いたのと同じようにして食べると美味しいと思うのニャ」
草食いを料理した、マスグーフという料理か。
太くてでかい魚ほど美味しいと聞いたし、手に入れたコイは丸々太っている。
確かに美味しそうだなと思いつつ、次の話題へ。
「あと外見年齢が俺と同じくらいの年齢に見える女性エルフが、3つの車輪がついた箱状の魔道具でこの村に近づいていますけれど、これってアライアさんですか?」
ミーニャさんの右眉がピクリと上がる。
「そんな魔道具を使うエルフ、他にはいないのニャ。もう来るニャ?」
念のため、遠視魔法で確認してみる。
「あと17kmくらいで村です。南西からこの村に続く街道を走ってきています」
「……アライアとしても、アクラかドーソンに行く途中かもしれないのニャ」
そういえば、このことはまだ言っていなかった。
ということで、この村に寄りそうな理由を1つ言っておく。
「車輪のついた魔道具に、他に2人乗っています。革鎧とマントを着装した冒険者風で、1人は猫獸人の女性、もう1人は普人の男性です」
「……猫獸人の方は、大剣を持っていないかニャ。持っていたら鞘や柄に、ピンクのハートマークが5つ、ついていないかニャ」
遠視魔法で探してみると……少し違う。
「柄にピンクのハートマークがついていますが、7つです」
ミーニャさんが、大きなため息をついた。
「この村出身の、ヘイニャなのニャ。祭りのことを聞いて帰ってきたのだと思うニャ」
ミーニャさんはそこでまたため息をついて、そして続ける。
「ヘイニャはフィーギで冒険者をしているのニャ。祭りに間に合う様に急いで帰るニャら、魔力駆動車をチャーターするのが一番早いニャ。ニャので新しいオトコを披露するついでに、アライアの魔力駆動車に乗ってきたのニャ」
ちょっと気になったので聞いてみる。
「新しい男というのは、再婚か何かですか?」
「ヘイニャはよく言えば、恋多き女なのニャ。ハートマークは、今まで捕まえたオトコの数ニャ。3年前はハートマークが3つだったのニャ。だからあと2つくらい増えているだろうと思ったけれど、2つ多かったニャ」
つまり7人目の男ということか。
うーむ。でも、しかし。
「ホウトン村で生まれるのは女の子がほとんどニャ。だから外からつがいを捕まえてくるのは、よくあることニャ。ニャけど3回連れてきて、そのたびに相手が違うのはヘイニャくらいなのニャ」
つがいを捕まえてくる、か。
なんだかなあと思って、とあることに気づいてしまう。
猫獸人はほとんど女性であることは、前にミーニャさんに聞いた。
だから外から相手を連れてくるというのは、理屈としては理解可能。
でもそうだとすると、まさか俺やジョンは、ひょっとして……
念のため、確認しておこう。
まずは当たり障りのない聞き方で。
「そうやって相手を連れてきた時は、村の皆に紹介するような儀式とかあるんですか?」
「そういった相手を連れてきた場合は、受付の時にウーニャに合図して、青い腕章を渡して貰うのニャ。青い腕章をつけている相手は、そういう相手だから手を出すなという合図なのニャ。観光客の白色や賛助者の緑色、家族関係の水色とは違うのニャ」
俺やジョンの腕章は緑色だ。
「賛助者って何なんですか」
「祭りにインガンダ・ルマやのべ10人日分以上の魚を提供してくれた人ニャ。賛助者や恋人腕章の場合は、祭りで出ている料理を村人と同じように食べてもいいのニャ。観光客は観光客用の食事しか食べられないのニャ」
なるほど。
俺はインガンダ・ルマを持ってきたし、俺たちという名目で釣りや市場で買ったりして、魚を大量に持ってきた。
だから賛助者扱いってことか。
あと、とりあえず恋人扱い枠ではないとわかって、少しだけ安心。
別にミーニャさんが嫌いという訳ではないけれど、まだまだ自由に動き回りたいから。
ただ問題は、そういった自由が充分にあるかだ。
ドーソンに戻って、ジョンがC級に合格した時点で、半ば強制的に仕事が入ることが確定しているし。
コメント
1件
おお、第94話読了!今回も村の日常描写がいい感じだったね。特にミーニャさんのおにぎり要求するシーン、相変わらず可愛くて和むわ~。それでいてアライアさん接近からのヘイニャの話題で一気に村の掟や人間関係の奥行きが出てきて面白い。俺とジョンが「賛助者」で恋人枠じゃないって確認できたとこ、ちょっとホッとした気持ちが伝わってきて笑った。青い腕章の意味、ちゃんと伏線として効いてるな。続き気になる!
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