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## 第49話:『交錯する残光』
轟、と荒野に吹き荒れる熱風が、赤紫に焦げ付いた砂を巻き上げる。
新型装備『マルチプル・ディバイダー』から放たれた極大の赤紫の閃光――ハモニカ砲の一撃は、確かに空間そのものを圧殺するほどの威力を持っていた。ウイングエックス・ディバイダーの砲身からは、未だに激しい冷却蒸気がプシューと白煙を上げて噴き出している。
だが、爆煙が激しく払われたその向こう側、エメラルドグリーンの鏡面装甲を持つアルカディアは、依然として冷徹な威容を保ったまま佇んでいた。
ハモニカ砲の直撃を受けながらも、焼き焦げたのは左半身の追加装甲のみ。
敵のパイロットは、直撃の寸前に機体を左半身から滑り込ませ、最も強固なシールドブロックだけで衝撃を受け流していたのだ。その実戦に裏打ちされた恐るべき判断力に、ウイングエックスのコクピットでゼロは歯を剥いた。
「(バカげた硬さだ……! ハモニカ砲の面制圧を、最小限の防御面積だけで耐え切りやがった……!)」
『見事な一撃だった、ゼロ。だが、天の光(サテライト)を失ったお前のガンダムに、これ以上の手札はあるまい』
アルカディアのパイロットの、どこか若く、それでいて重い責任感を湛えた声が、強制ジャックされた通信回線から静かに響く。
直後、アルカディアの背部に備えられた推進バインダーが、爆発的な輝きを放った。
ドォォォン!!
大気を切り裂く重低音。左半身を黒く焦がした海賊機が、文字通り「弾丸」と化して突進してくる。その手にあるビーム・ランサーの穂先が、赤紫の残光を切り裂きながらウイングエックスの胸元へ肉薄する。
「させないっ……!!」
マゼンタの光跡を描き、セレスのヴィヴァーチェがその軌道上に割り込んだ。巨大なビーム・サイズを斜めに構え、全力の推力でランサーの刺突を受け止める。
激しい金属の擦れ合う破砕音と、プラズマの火花が二機の隙間で爆発した。しかし、アルカディアの「一歩の重さ」はヴィヴァーチェの制動力を遥かに凌駕していた。
「くっ……う、嘘でしょ!? この出力に、押し負けるなんて……!」
『退けと言ったはずだ、ゼストのエース。お前たちの戦う意志は尊重するが、私の執念は……それを越える!』
アルカディアは突進の圧力を変えず、左腕の焦げ付いたシールドをヴィヴァーチェの胸部へと叩きつけた。強烈なシールドバンカーの衝撃がヴィヴァーチェを襲い、マゼンタの機体は荒野の地面を激しくバウンドしながら後方へと吹き飛ばされる。
「セレス!!」
仲間の危機。その瞬間、ゼロの脳内で何かが弾けた。
『ゼロ・システム』が、緩和装置の許容量を超えて強制的に演算深度を深めていく。
キィィィィン――!!
脳内を走る、鋭利なガラスで抉られるような激痛。ガドルフの組み込んだ緩和装置がヴィ、ヴィ、と過負荷のアラートを鳴らし、火花を散らす。しかし、ゼロはその痛みを咆哮でねじ伏せた。
「うぉぉぉぉぉッ!! 見えんだよ……お前の、その次の動きがぁぁぁ!!」
視界が真っ赤なノイズに染まる中、ウイングエックス・ディバイダーが動いた。
左腕のディバイダーを瞬時に前方に展開し、スライドシャッターを完全閉鎖。鉄壁の『盾』へと差し戻す。
ガギィィィィィン!!!
アルカディアの突き出したビーム・ランサーが、ディバイダーの中央に突き刺さる。超高密度マルチリンク・コンデンサが敵の全エネルギーを受け止め、周囲の空間に凄まじい電磁火花が吹き荒れた。一歩も退かない両雄。大地が二機の足元からクモの巣状に爆裂し、凄まじい地響きがゼストを揺らす。
『……ゼロ・システムか。やはりお前は、あの呪われた呪縛を使いこなしているというのだな』
「うるせえええ! 呪いだの過去だの、ブツブツうるせえんだよお前は!!」
ゼロはディバイダーでランサーを強引に右側へと弾き飛ばすと同時に、右腕のビームサーベルを完璧な一閃で抜き放った。
白銀の機体が、荒野の暗がりに強烈なプラズマの軌跡を描く。
ザシュゥゥゥッ!!
ビームサーベルの刃が、アルカディアの右肩のバインダーの根元を深く切り裂いた。鏡面塗装されたエメラルドグリーンの装甲が溶け落ち、激しい放電が走る。
だが、アルカディアのパイロットもまた、肉を切らせて骨を断つ覚悟だった。
『ならば、これで終わりだ!!』
右肩を破壊されながらも、アルカディアは残された左腕のクローを突き出し、ウイングエックスのビームサーベルを持つ右腕を力任せに掴み取った。そして、強引に軌道を逸らされたランサーの柄を短く持ち直し、ウイングエックスの腹部へとゼロ距離で突き立てる。
ドゴォォォン!!
強烈な爆発。ウイングエックスのコックピットを、今までにない質量的な衝撃が襲う。モニターの半分がブラックアウトし、システムエラーの警告灯が血のように赤く点滅する。
しかし、ウイングエックスの左腕――ディバイダーは死んでいなかった。
「これで、相打ちだぁぁぁーーーッ!!」
ゼロは残された左腕で、ディバイダーの打突をアルカディアの胸部中央へと叩きつけた。盾の質量によるゼロ距離の鉄槌。
激しい衝撃波が二機を同時に襲い、ウイングエックスとアルカディアは、互いの装甲を激しく削り合いながら、弾け飛ぶようにして後方へと吹き飛んだ。
ズズズズズズン……!!
両機ともに大地へと激しく倒れ込み、激しい砂煙の中に沈んでいく。
ウイングエックスの背中からは、過負荷で限界を迎えた緩和装置からプシューと黒い煙が上がり、ゼロ・システムの明滅が静かに停止した。アルカディアもまた、右肩と左半身から激しい放電を起こし、主ジェネレーターが緊急停止の音を立てている。
相打ちに近い形での、強制的な戦闘終了。
激闘の果てに残されたのは、荒涼とした荒野の静寂と、傷ついた二つのガンダムの巨体だけだった。
**次回予告**
激闘の果てに、共に傷つき倒れたウイングエックスとアルカディア。
沈黙した海賊機のハッチが開き、ゼロの前に姿を現したのは、仮面に素顔を隠した一人の若者だった。
「やはり、お前だったのだな、ゼロ……」
語られるのは、ゼロの故郷リメイン・ヴィレッジに隠された、旧大戦の恐るべき真実と二人の因縁。
引き裂かれた記憶の断片が繋がる時、荒野の風が新たな運命を紡ぎ出す!
次回、『仮面の下の真実』
**「お前が誰だろうと関係ねえ、俺たちの本当の戦いは、ここからだ!!」**
桜春遥朔🌸
52
来華
457
ポンデリング
289
コメント
1件
おお……第49話、めっちゃ熱かったですね! ハモニカ砲の直撃を装甲面積で受け流すアルカディアの熟練の判断力と、ゼロ・システムのリスクを越えた咆哮がすごく対照的で胸が熱くなりました。相打ちで倒れた後の「沈黙」と、そこから仮面の下の若者が現れる流れ……次回への引きが完璧です。設定の厚さとバトルの見せ方、どちらも魅力的でした!