第8話:情報操作:チーノの推理
登場人物
チーノ:新情報分析官
ひとらんらん:一般兵、スパイ
トントン:書記長
鬱先生(大先生):情報収集担当
本文
オスマンが引き起こした作戦のミスは、WrWrd軍内部に不信感を広げた。しかし、グルッペンは二人を罰する代わりに、彼らの情報アクセスレベルを一段階下げ、監視体制を強化するという指示を出した。
その強化された監視体制のキーパーソンとして、若き情報分析官チーノが抜擢された。彼の任務は、WrWrd軍内部の通信ログと、W国に流れ込んでいると推定される情報の**『ズレ』**を検証することだった。
チーノ「トントンさん。このログ、どう見てもおかしいです」
情報室で、チーノはトントンと大先生に、複数のグラフとデータを提示した。
チーノ「グルッペン総統が流した**『偽の情報A』**と、我々の実際の作戦を比較すると、W国の部隊は確かに『偽の情報A』に基づいて動いていました。ところが、昨日の演習以降、W国軍の動きが突然、不自然なほど正確になり始めている」
大先生「え? それって、グルッペンの偽情報がバレたってことちゃうの?」
チーノ「いえ、それだけじゃないんです。W国軍が動いているのは、グルッペンの『偽の情報A』でも、我々の『真の情報B』でもない。まるで、**『情報Aと情報Bを混ぜた、第三の『情報C』**に基づいて動いているんです」
チーノは、W国側がこの「情報C」をどのようにして得たのかを追跡した。その結果、彼の視線は、WrWrd軍内部の一般通信ログに注がれた。
チーノ「これを見てください。ひとらんらんさんが、昨日の深夜から今朝にかけて、園芸用の肥料の配合について、異常に細かい、専門的なデータを複数の内線でやり取りしています」
トントン「……それが、スパイ行為とどう関係がある?」
チーノ「肥料の成分の配合比率、水分の含有量、そして土壌のpH値。この数値の羅列を、**『とある島の言語の音階』に変換し、さらに『古い東側の暗号形式』**で再エンコードすると……」
チーノはキーボードを叩き、画面に表示されたテキストを指差した。
チーノ「出てきました。W国が最も必要としている、最新の軍事技術開発の『裏側』の情報が」
大先生「うわぁ……あの肥料データが、暗号の**『隠し扉』**やったんか!」
トントン「(あの男、グルッペンの監視を逆手に取り、日常会話や無害なデータの中に、二重の暗号を仕込んでいたのか……)」
チーノは、ひとらんらんがグルッペンの監視下にあることを承知の上で、自分が流した偽情報がバレたという事態を受けて、より高度な情報操作に踏み切ったのだと推理した。
チーノ「そして、この情報Cは、W国軍が『WrWrd軍の次なる標的は、国境の東側島嶼部だ』と誤認するための、完璧なミスリードになっています」
チーノ「ひとらんらんさんの目的は、WrWrd軍の作戦を完全に阻止することではなく、W国が『防衛に成功した』と見せかけるための時間稼ぎなんです。彼は、家族を守るために、W国とWrWrd軍のどちらも完全に裏切らないという、最も危険な綱渡りをしています!」
トントンは深く息を吐いた。ひとらんらんの行動が、スパイとして決定的に露呈した瞬間だった。グルッペンに報告しなければならない。そして、ひとらんらんは、WrWrd軍を危険に晒した。
その日の夕刻。
ひとらんらんは畑で、満足げな顔でトマトの手入れをしていた。彼の通信がW国に届き、家族の安全が一時的に確保されたことを知っているからだ。
しかし、彼の背後に、影が落ちた。
トントンが、無言で立っていた。その手には、チーノが作成した肥料データと暗号解読結果の報告書が握られていた。
トントン「ひとらんらん。話がある」
ひとらんらんはゆっくりと振り返った。彼の顔からは、もう**「ただの農夫」**の笑顔は消えていた。彼は、すべてが終わったことを悟っていた。
ひとらんらん「トントン……うん。全部話すよ」
ひとらんらん「僕のこの手は、本当は、人を殺すために訓練されたんだ」
彼は、隠し事③の全容:ひとらんらんは元暗殺者、あるいは特殊部隊員という、最も恐ろしい過去を、自らトントンに告白した。彼の顔は、穏やかな農夫から、冷酷な工作員の顔へと変わっていた。
ここまでの隠し事の状況(8話終了時点)
ひとらんらんの高度な情報操作がチーノの推理により露呈。(隠し事①が決定的に露呈)
ひとらんらんが、自分の手が殺戮のために訓練された過去を持つことをトントンに告白。(隠し事③が完全に露呈)