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【日帝×日本×米国】
最後の設定は飛ばしても良し✌️
僕は今非常にいらいらしていた。バイト先の支店長が一昔前の中年男性を具現化したような、セクハラじじいだったからだ。こいつは、店の可愛い女の子は勿論のこと、男の僕にまで手を出してくる。バイトリーダーでもあった僕は、後輩からの相談が絶えなかった。だが、抜けられると僕のシフトが大変になるだけなので、なんとか留めさせてはいる。とはいっても支店長が迷惑なのは僕にとっても同じだ。彼奴のせいで未だ触られた腰部がゾワッとするし、何より…。
昭和のスケベじじいと言われると、あの人と重ねずにいられないのだ。
この奇妙な感覚を払拭するため、僕は彼奴を店から追い出さねばならない。だが、所詮僕はバイト。直接ものを申せば確実にクビにされてしまう。ここはバイトの割には賃金が良いので、まだ辞めたくない。
「どうしたものか。」
そんなイカした刑事のような台詞をタイムカードを切るのと同時に吐き、行き場のない吐息を飲み込んだ。こんな時、あの人が傍にいれば、何か強気な助言をくれるんだろうけど。今は自分で解決するほかない。嗚呼、煩わしい。
そんなことを考えていると、ポン と肩に手が置かれた。支店長かと思った僕は、苛立ちながら振り返る。その拍子に睨みつけようかとも考えた。だが、しなくてよかった。
「よっ、調子どう?」
「アメリカ..!さん。」
ポーカーフェイスを保ちながら、僕は内心嬉しくてたまらなかった。何故なら、アメリカさんは僕の大恩人なのだから。父さんが逝ってしまって途方に暮れていた僕を救ってくれたとてつもないスパダリ。それに、ちょっとだけ恋心も抱いている。けれどそれをアメリカさんに明かすつもりは無いので、いつも通りの仏頂面で対応する。嫌われないとわかっているから。
僕がなまやかな気持ちに浸っていると、アメリカさんが少し笑って言った。
「無理にサンってつけなくていいんだけどな〜。で、どうよ?政界を抜け出してバイトしてるたぁ、よっぽど復興が進んだんだろうな?」
「…嫌味を言いに来たんですか?」
今言ったことは嘘だけど、嘘じゃない。別に嫌味でも何でも、痴話ばなしでも良いから僕のとこに来て愚痴って行ってほしい。ただ、純粋に僕に逢いに来てくれたわけではないことに、物悲しい気持ちを覚えてしまうのも事実なのだ。
「はは、言うようになったじゃん。」
「で、用があった訳じゃないんですね?」
キッ、と今までにない強い視線でヘラヘラしているアメリカさんを一瞥する。さすがの彼もそれには微かにまどろんだようで、だらしなく1歩あとずさりをした。少し快い気分になった。それと同時に、突き放して早く帰らせるような発言をしてしまう自分に腹が立って、感情の2面性に怠惰を極めていた私の脳は、苛立ちが爆発しそうになった。
「ん〜…、俺も手伝ってく。なんか仕事ある?」
ばつが悪そうに首根っこをかいて、落とし物をするかのようにアメリカさんは呟いた。僕は、ふっと微笑んで言った。
「はい。それはもうたくさん。」
「あ〜っ、疲れた!!日本、俺もう帰る!」
アメリカさんにホールの仕事を任せて数時間、大きく伸びをしたかと思うと彼は急にそう叫んだ。幼児か、と呟きそうになったが直前で止める。どうやら普段会議や会談をノリで進めているだけの勢いタイプの彼には、この機械的なオーダー作業は重労働だったのかもしれない。いやはや、面倒くさいだけなのか。こう見えて意外と頭がキレる彼のことだから、恐らく後者だろう。こういう時は、僕が何を言ってもいちゃもんをつけて本当に帰ってしまう。どうしようも無いけれど、今アメリカさんに帰られると、どうしようもなく困る。ふと、あの人ならどう言うかという考えが頭をよぎった。
「じゃ〜な、楽しかったぜ。今度の会議は来いよ」
「..あー、困ったな。」
「…!」
「困ったなぁ、アメリカさんが帰っちゃうとホールが激務になっちゃうなぁ、あー、腰が痛い。」
「…おい、にほ」
「全くアメリカさんったらひどいなぁ~」
「おい!!」
厨房棚の小さな戸が揺れた。見ると、アメリカさんがゲーム機を奪われた小児のような表情で固まっていた。僕は少し、やってしまったと焦ったが、そもそも帰ろうとした彼が悪いのだ。おちょくるだけして帰るなんてバイトリーダーの僕は許さない。
「やめろよ、…思い出しちまうから。」
思っていたより深刻な患いだったようだ。真っ昼間の陽光がサングラスを照らすせいで、彼の目ににじんだ涙がより強調される。
「お互いおちょくったってことで。」
僕が嘲笑しながらそう言うと、無理した笑みでアメリカさんも微笑んでくれた。少しからかいすぎたかと後悔したのは、家に帰ってからだ。
「はぁ、ただいま…。」
返事が返ってくることの無いさびれた玄関に、僕は今日も挨拶をする。もしかしたらオウムのような幽霊が、いつか返事をしてくれるかもと信じて。
「そういえば、結局アメリカさん残ってくれたな」
靴箱が開いた扉から入った夜風に吹かれてカタカタと少し揺れた。その拍子に埃が飛んできて、くしゅん、とひとつくしゃみをした。
「そういえば、あの人が初めて現れたのも、僕がくしゃみをした時だったっけ。」
ひゅ、とまた弱い風がふく。
「…ねぇ、父さん?」
風が強くなって、新調したばかりのジーンズのほつれが巻き戻った。
「は、そうだったか?覚えてるのは、お前のあほ面が心配すぎて此処に留まってしまったことだけだ」
「アホヅラは貴方でしょ..セクハラ親父。」
「くくっ、親バカと言ってくれよ。」
「親バカは良いんですね」
お互いに嘲笑を深めていると、父さんが一瞬まどろんだ。どうやら笑いすぎてむせたようだ。こんな小さな衝動でむせるのは、きっと戦争時についた傷跡が原因だ。大きくあくびをされたせいで火傷跡が見せつけられる形になり、胸が傷んだ。それのせいで、父さんが命を落としたのだと思うと、罪悪感が絶えない。何故僕がそんなことを感じるのか?だって、それをつけたのは、。
「あ〜、というかお前!またアメ公の匂いがするぞ!またイチャコラして来たのか!?」
傷をつけて、殺して、なのに僕を育ててくれた。それは、全部アメリカさんがしたことだ。だからアメリカさんと仲良くすることには元々抵抗があった。
「うるさいですね、こちとらイチャコラできるならしたいですよ…。」
「はぁ!?日本お前、私という者がありながらアメ公にくっつく気か!?泣くぞ!」
でもそんな抵抗感も、全部この人の異常なテンションにかき消されているのだけど。
「変なとこで幼稚ですね。」
僕はため息をついて、洗っていない手を軽くウェットティッシュで拭き、透けている父の頭に乗せた。すり抜けてしまわないよう、軽く、軽く。
「ふ、ふ。日本、気持ちい..。」
自分の手に身を任せている”日帝”は、どうしても可愛らしく感じられてしまう。また、自分もアメリカさんに同じことをされてみたいという静かな重い感情を隠し、全てを自分に委ねる父を見て悦に浸った。
【設定】
日帝 一人称・私:日本の前身で、前時代的な考えを持つスケベ親父。力は強く優しいが、脳筋なので頭はそれほど良くない。ヒョロい日本が心配で成仏することができず、イチイチ口出しをしてくる。
日本 一人称・僕:半ば自分を諦めていて、たまに衝動で優生思想に至ることもあるが、頑張って政策を打ち立てている。日帝にはよく困らされるが少しそれを楽しんでいる面もある。
米国 一人称・俺:通称アメリカ。日帝とは悪友を拗らせた結果対立して熾烈な争いを強いられた。彼の死後は、遺言を守り日本の面倒を見ている。たまに日帝が米国をからかって耳元で囁くことがあるため、疲れているのかと戸惑っている。