テラーノベル
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✦ 白の過去 ―「羽の代償」
「なんで、なんで、うちだけ逃げてきてん……?」
白は、燃えた町を振り返った。
彼の生まれた天使の里は、魔界の毒霧に侵され、壊滅した。
白の母は言った。
「白ちゃんだけでも生きて…っ」
けれど、逃げ延びた白は“翼を一本”切られていた。
「純血でない子には、すべてを与えない。それが天界の掟」
白は混血児だった。
天使の父と、堕天寸前の母から生まれた“汚れた存在”。
仲間からは排除され、兵として使われるだけの存在。
だから――
白は“笑って”見せるようになった。
心を守るために、感情を陽気さに塗りつぶして。
「水君はええなぁ……天使やのに、ちゃんと穢れた俺を見てくれる」
そのときから水を慕い、信じていた。
自分の汚れを、ひとりだけ見つめてくれる存在だったから。
✦ 青の過去 ―「嘘の正義」
「正義って、なんや」
青は、上官の命令で非武装の悪魔の親子を“処理”した日を、今でも忘れられなかった。
「悪魔に情けをかければ、また仲間が死ぬぞ」
そう教えられた。
でも、あの時の子どもの泣き顔は、剣の先にこびりついたままだ。
青は“天界の辺境地区”で育ち、厳格な軍人の家系に生まれた。
剣技を叩き込まれ、幼い頃から兵器として育てられた。
「感情は捨てろ。勝て。命令を守れ」
それが青の“家族愛”だった。
でも白と出会って、心に亀裂が入った。
「……笑うしかできん奴も、居るんやな」
青は、白の裏にある深い痛みに気づいていた。
そして、いつしかそれを守りたいと思った。
「正義なんかより、あいつの笑顔を守る方が、俺にとって正しいわ」
✦ 桃の過去 ―「焼けた鉄の誓い」
桃の過去は、“実験体”だった。
「悪魔は闘争種族。ならば幼いうちから改造してしまえばいい」
魔界の地下施設で、桃は筋肉強化、精神抑制、そして他者との情動遮断の薬を投与されて育てられた。
兄弟は多くいたが、全員が途中で死亡。
桃だけが生き残った。
「命令に従え。思考するな。主のために死ね」
桃が黒に出会ったのは、戦場でのことだった。
「こんな子どもを戦わせて、何が勝利や!」
そう怒鳴った黒に、初めて“怒り以外の声”を感じた。
それが“アニキ”と呼ぶようになった理由。
桃にとって黒は、初めて自分を“存在”として認めてくれた人だった。
✦ 黒の過去 ―「守るための破壊」
黒は、家族を失ったことがなかった。
だが、それが一番の“呪い”だった。
「お前が強すぎるせいで、みんな守られてばっかりや。」
そう言われて育った。
だが、黒自身はずっと、孤独だった。
守るために戦って、守られることを知らず。
誰も黒の“弱音”を聞こうとしなかった。
だから、赤が泣いていたあの日、黒はこう言った。
「泣いてええんやで、赤。俺は、お前の味方やから」
そして赤に剣を渡し、戦い方を教えた。
その弟が、敵と恋をした。
「……でも、ええやないか。赤が笑えるんやったら、俺は世界だって壊してやるわ」
そう言える自分に、黒もまた、救われていた。
✦ そして今
天使も悪魔も、誰もが地獄を見てきた。
誰もが理由を持って憎しみ、理由を持って剣を取った。
でもその中で――
「水」と「赤」が手を取り合った。
彼らの恋は、“ただの恋”じゃない。
誰よりも深く、戦争を知る者たちが、それでも愛を選んだという事実。
それが、全てを変えていった。
コメント
2件
一気見したけど…、神すぎへん?!✨️