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「根岸ぃ、テメー」

「おやおや?優等生のメッキが剥がれてきてますよぉ和田ちゃん。それとも、そんなモン最初っから無かったのかなぁ?ま、どうでもいいけど」

急に和田のズボンのポケットの中でマナーモードのスマホが振動を始めた。

「出ないのか?やり捨てた女からの復縁コールか?」36号が煽る。

「ふざけんな!」

「出た方がいいぞ。後悔したくなかったらな」

「おい、根岸の分際で俺に指示するんじゃねぇ」和田が激昂する。

ポケットの中からスマホを出して画面をチェックすると知らない番号からだった。不審に思いながらも和田は電話に出た。

「もしもし?」

「お早うございます。わたくし、根岸の姉で36号と申します。昨晩はとんだ御無礼をしてしまい申し訳ありませんでした」

昨夜の公園の暴力女だ。和田の心臓の鼓動が1オクターブ速くなった。

「で、何の用ですか?」

「昨晩、弟とゆっくり話をしました。新年度から貴方たちに10万円近く巻き上げられたと聞きました。そこで、賠償金として貴方たちに100万円請求します」

「おい、ふざけんな」

和田がスマホに向けて怒鳴る。

「ふざけてはいませんよ」36号が慇懃無礼に言う。「5人で頭割りすれば1人当たり20万です。バイトを掛け持ちするなり、親のクレカを勝手に使うなりして用意すれば宜しい。もし、こちらの要求に応じて頂けないのなら−−」

「どうするっていうんだ?裁判でもするか?」

「いいえ、そんなぬるいことはしません。貴方たちが弟をイジメている様子を撮影した動画を、ネットにUPします。モザイク処理も音声を加工するのもなしで」36号が一度言葉を切った。

「正義感ぶった暇人たちが遊び回せるように、貴方たちの氏名、住所、電話番号、メールアドレス、学校名や親の勤務先なんかの個人情報も併せて晒しちゃおうかな、なんて思っています」

和田の背中に嫌な汗が一気に沸いた。だが、あえて強気に出た。

「ハッタリだ。もし隠し撮りした動画があるなら、もっと早く言っている筈だ」

「成る程。いい度胸してらっしゃる。逆に言えば、反省の色が丸で見られない。200万に跳ね上げさせて貰います」

「どの道、払う気はない。好きなように跳ね上げてろ」

「一度始まったら、損害額は100や200では収まりませんよ。後悔先に立たずと言いますが、まぁ、お好きなように」

「黙れ」和田が通話終了ボタンを押した。

「根岸、テメーの姉貴はとんでもねー詐欺師みたいだな」

「おいおい。随分と追い詰められた表情かおしてんじゃん和田ちゃん。姉貴に痛いトコ突かれちゃったんだねぇ。カワイソ」36号が煽る。

自分役と電話口で口調を変えて一人二役をしているのか。すげぇ。根岸は内心関心した。

「根岸、テメー調子乗ってんじゃねぇぞ」

「オメーら散々調子乗ってたじゃん。今度は俺が乗る番って訳。ドゥー・ユー・アンダスタン?」

根岸と和田の煽り合いを、ガタガタという音が遮った。

「あ、あのっ。机を交換しました」

小野が新しい机を持ってきた。

「小野くぅーん、メガネ外そっか♡」36号が小野に命じる。

スパンッ。メガネを外した小野に平手打ちが浴びせられた。

「和田の机と取り替えろって言ってんのに、何で自分のと取り替えるのかなぁ?」36号が小野を追い詰める。

「波風立てずに穏便に、なんて考えるなよ。お前等が散々波風を立てた後でな」

根岸と和田との板挟みにされた小野は、プレッシャーに耐え切れず、自分の机を差し出したのだった。


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