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「ジプソ、変やないか?」
「はい、完璧です」
「ほ、ほんまか?」
そう言いながら、鏡を見ていつもより念入りに髪を整えるカラスバとそんなカラスバを見て「(カラスバ様、本当に彼奴の事が…)」と少し複雑な気持ちになっているジプソ
それからしばらくして、エレベーターがポーンと鳴る
「!!」
その音に慌てていつもの椅子に座り、いつものように平然を装う
「すみませ〜ん、準備手こずっちゃって…」
そう言って現れるシオンはいつもの耳のように見えた、髪は取っており普通のボブヘア
そしてメイクもいつもの紫のアイラインは引かず、控えめだがキラキラとラメが光っていて目を惹かれてしまう
「カラスバさん?」
「!!な、なんでもない!それよか、はよ行くで!」
「は〜い!」
カラスバはシオンに手を出すとそれにシオンは驚いたように目を見開いたあと嬉しそうに手を取る
会場は大きなホールで、周りを見るとやはりカップルや夫婦が多いように見える
周りを少し見たあと、カラスバの腕に手を通す
「えいっ」
「なっ!?」
「こうしないと怪しまれちゃいますよ?折角ならカップル設定で行きましょ!!
あ、でもカラスバさんなら彼女とかより許嫁とかの方がいいかもな……」
そんな事をぶつくさ話すシオンに対し、心臓が飛び出そうな程脈打つカラスバ
「よし、じゃあ許嫁設定で行きましょう!」
「お、おうそうやな。まぁ、お前と許嫁なんて癪やけどそうした方が疑われ──」
「私は本当に許嫁になってもいいのに〜」
「ヒュッ───」
「ま、カラスバさんが嫌ですよね。とりあえず中に入っちゃいましょ!」
「ちょっ!いきなり引っ張んなや!!」
そう言って戸惑うカラスバの手を引き、ホールの中へと入っていった
ホールに入り二人でいるのは言いものの……
「なぁ、あんな人いたか?」
「すんげぇ美人だな…でも背は低いし可愛い…」
「胸もあるしスタイルもいいよな……」
なんて声がチラホラと聞こえる
そんな声に若干青筋を立てるも、当の本人はニコニコと笑いカラスバの傍に引っ付いている
「中々動きませんねアイツら」
「そーやな…」
「…私ハニトラでもしてきましょうか?」
「!?阿呆か!!」
「あいたっ!だ、だって……」
そう言って2人で話していると、コツコツ──とヒールの音が聞こえる
「あらあらあら、カラスバ様ではありませんの」
何やら花が咲くような声が聞こえたかと思い其方を振り返ろうとした瞬間目の前にカラスバの背中が見える
「其方の方はカラスバ様のパートナーの方でいらっしゃいますの?」
「やったらなんや」
「まぁ!…あら、とても可愛いらしいお方!!」
カラスバの視線を抜け、ひょこっと元気そうな女性が現れシオンを射抜く
そんなユカリに微笑み、小さく頭を下げる
「貴方お名前は?カラスバさんとはどう言ったご関係で?ミアレに住んでいますの?」
「あ、カラスバさんとは───」
「お前には関係ないやろ、シオン行くで」
「わ、分かりました…すみませんではまた」
そう言ってカラスバに手を引かれ、戸惑いつつもユカリに礼をし立ち去ろうとした瞬間だった
「うっ…!?」
クンッ、とシオンの首が引っ張られる
「あら、カラスバ様もお好きな人には首輪を付けるご趣味をお持ちなのね」
「おい、離──」
首輪?と思い、振り向くとシオンがいつも首につけている黒色のチョーカーのようなアクセサリーをユカリが引っ張っていた
しかしそれは、自分が着けたものではないし何よりこんな事をシオンにしているユカリに腹が立ちユカリに声を掛けようとした瞬間だった
──パシンッ!!
「触らないでッ!!」
荒いシオンの声と共に、ユカリの手を強く払い除ける
その声に周りも気づいたのか、何事だとガヤガヤし出す
「シオ…ン?」
「ッ!!あ、ご、ごめ……ごめんなさっ……あ、ぅ…ごめんなさい…ッ」
「ちょ!シオン!」
険しい表情から我に返ったのか、ハッとして周りをキョロキョロと見たあとカラスバやユカリに謝りそのまま首を抑え逃げるようにカラスバの手を振りほどき人混みの中へ逃げていった
「…あら……」
「っ!お前、やっていい事と悪いことがあるで」
キョトンとするユカリに対して、睨みドスの効いた声で制圧した後シオンの後を追い人混みの中へ消えていった
『触らないでッ!!』
あんなシオンの声は初めて聞いた
いつもヘラヘラと笑っているが、どこか余裕そうな言葉使いや行動を取っていたからこそあんなに切羽詰まっているシオンは初めて見た
そう思うとシオンがあの首のアクセサリーを撮っている所は見たことがなかった
何か外せない事情でもあるのか
何がともあれあんなに切羽詰まったシオンが心配だ
それにあそこまで、恐怖に顔を歪めていた表情も
「はっ、はっ───」
『──輪を付けるご趣味をお持ちなのね。』
『6番、何も思うな、何も測るな、何も感じるな、逃げようとするならこれがお前の首を──』
『今年中に必ず処理しなければ、──の装置も一緒に起動させる』
『お前に拒否権など無い、6番お前には奪うか奪われるかの2択だ』
『───6番』
「ッ、は……はっ………」
嫌な記憶が一気にフラッシュバックして苦しい
呼吸が出来ない、周りが見えない
ホールの中にある広い中庭の草むらの中で身を縮める
もしあの瞬間この装置が作動してたらと思うと怖くて震える
「(…ああ、これが死への恐怖か)」
やはり自分には感情がある、あの人達と同じじゃないと思い、喜びが溢れると同時に死というものも理解する
自分はこの恐怖を乗り越えれるだろうか
乗り越えて幸せだと言えるのだろうか
もう決めたはずなのに、意思が揺れいでしまう
けど今から計画をやめるなんてことも出来ない
自分の中で様々な感情が渦巻き周りが見えなくなっていく
「──シオン!!」
「ッ!?」
しかし、その瞬間後ろから名を呼ばれ現実に帰るとそこには走ってきたのか肩で息をしているカラスバが立っていた
「あ、カラスバさ…すみません……あんな目立つ行動しちゃって…戻りますね、もう大丈──」
「大丈夫やないやろ」
「えっ……だ、大丈夫です!ごめんなさい、今度こそちゃんと──」
「そんなこと言っとんやない!!」
カラスバの怒声にビクッとシオンの肩が震える
それと同時にカラスバは少しバツの悪そうな顔をしたあと、シオンの手を引き自分の胸の中へ引き寄せ抱きしめる
「…無理せんでええ、泣きたいんやったら泣いたらええ。ここは誰もおらんさかい」
「は、ははっ……っ……ぅ、カラスバさッ…」
最初は引きつった笑みを浮かべていたもののその笑みも一瞬で崩れカラスバの胸に顔を埋め涙を流すシオンの背中を優しく撫でる
「…安心し、オレがおるさかい」
シオンの涙を見るのも初めてだった
あの首のアクセサリーは今思えば何か隠されているのだろうか
あの動揺に今目の前で何かに怯え泣いているシオンを見ると明らかだった
しかしシオンは自分から言うことは無いだろうし、聞くことも気が引ける
しかしこんな中でもこんなことを思うのは自分が腐っているからだろうか
こんなにも自分に身を任せ泣いているシオンを見て優越感に浸ってしまう
このまま自分だけを見ればいいのに、と自分だけを頼って生きていて欲しい
ドロドロと薄暗い感情がカラスバを包み込んだ