テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
水虹ひにゃ@リムらないでほしい
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「――占いって、実際どんな感じでやるもんなんやろな」
七月に入って最初の週末、五人は大学から少し離れた商店街の外れにある、小さな占いの店を訪ねていた。
太智が「そろそろ準備しなきゃやばい。本番の参考になるから行こ」とSNSで探し当てた、地元では評判のいい店だった。
木製の扉には小さな鈴が下がっていて、開けると同時に、控えめな音を立てた。中は薄暗く、白檀に似た香りが漂っている。幾重にも重なるカーテンの奥、丸いテーブルの上には、使い込まれたタロットカードと、小さな水晶が置かれていた。暑さと強い太陽の光からは、完全に隔離されて、どこか異世界に迷い込んだようだった。
「――よくいらっしゃいました」
出迎えたのは、白髪を一つに結った、静かな佇まいの女性だった。歳の頃は判然としないが、その目だけは、やけに澄んでいた。隠し事が許されないような――前世まで見通すような真っ直ぐな視線を向けられる。
「珍しいお客様ね。五人まとめて、ということでよろしいですか」
「あ、はい。今度、学園祭で占いの真似事をするんですが………、せっかくだったら本当の占いを体験したくて」
代表して答えたのは柔太朗だった。
占い師は小さく頷き、五人を丸テーブルの周りに座らせると、静かにカードを切り始めた。
しばらくは、当たり障りのないことが続いた。今年の運勢、恋愛運、金運――太智が身を乗り出して聞いていたのは、もっぱら最後の項目だった。
けれど、カードを一通り並べ終えたところで、占い師はふと手を止め、五人の顔を順に見渡した。
「――皆さんは、随分と長い間、一緒にいらっしゃるんですね――、不思議なご縁」
「え? いや、まだ大学入って半年もたってないんですけど」
太智が笑いながら答えるのに、占い師は静かに首を振った。
「そういう意味では、なくて」
その一言に、なぜか場の空気が、すっと冷えた気がした。この占師にはなにが見えていると言うのか。
「――あなた」
占い師の視線が、まず仁人に向けられた。
「長く重いものを、一人で背負ってきた方ですね。誰かを守るために、自分の願いを、何度も後回しにしてきた」
「……どういうことですか」
そっけなく返す仁人だったが、その声は、いつもより少しだけ硬かった。
「白いものに、心当たりは? 鱗を持つような」
「――」
仁人は答えなかった。答えられなかった、というほうが近い。ただ、脳裏を一瞬、白く光る何かの残像がかすめて、消えた。
視線は、次に舜太と柔太朗に移った。
「お二人は、まるで太陽と月のようですね。片方が沈めば、もう片方が昇る。そうやって、何度も何度も、入れ替わりながら巡り合ってきたのかもしれません」
「――片方が沈めば……片方が昇る……」
「運命ってことやんな」
なにか噛みしめるように言われた言葉を、柔太朗は少しだけ震える声でくり返す。舜太は軽口を叩いて流そうとしつつ、隣の柔太朗の手を、そっと握った。握られた手のあたたかさに、二人はどちらからともなく、小さく息をついた。
順々に向けられていた占い師の視線は、勇斗に向けられた。
「あなたは、本来守るべきでなかったものを、それでも守ろうとした人ですね。その代償に、多くを失った」
「――俺、そんな大層なことした記憶ないっすけど」
いつもの調子で笑い飛ばそうとした勇斗だったが、なぜかうまく声が出なかった。
「今世では、そうかもしれません。けれど、魂というものは、時に前の記憶を、感情の形でだけ持ち越すものです。理由も分からず、誰かを守りたくなる。そういう衝動に、心当たりはありませんか」
勇斗は、思わず、少し息を呑みこんだ。
隣に座る仁人を、思わずちらりと見た。仁人もまた、ほとんど同じ瞬間に、勇斗の方を見ていた。二人の視線が、束の間、絡み合う。
「――で、太智さんは、ええと」
占い師が最後に太智へと向き直ると、それまでの重い空気が、少しだけ緩んだ。
「あなたは、誰かのそばで、いつも先を読み、道を整えてきた人ですね。目立たないけれど、なくてはならない役目」
「――なんか、それだけ聞くと地味な人生じゃないっすか、俺」
おどけて笑う太智に、占い師も初めて、口元を緩めた。
「地味で結構。縁の下の力持ちがいなければ、太陽も月も、ちゃんと巡れませんから」
一通りの鑑定を終え、五人が店を出た頃には、外はすっかり夕暮れに染まっていた。橙色の光が、商店街のアーケードの隙間から、斜めに差し込んでいる。
「――なんだったんだろうね、今の」
沈黙を破ったのは柔太朗だった。誰も、うまく答えられなかった。
「まあ、占いなんて、当たるも八卦やし」
太智が努めて明るく言うのに、誰も反論しなかったが、誰も本気で頷きもしなかった。
五人は、いつもよりずっと少ない言葉数で、夕暮れの道を並んで歩いた。理由の分からない切なさだけが、それぞれの胸の奥に、静かに沈んでいくのを感じながら。
見上げた空には、まだ薄い月が、太陽と入れ替わるように、そっと輪郭を浮かべ始めていた。