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「――占い屋は、結局のところ、雰囲気勝負だと思うんだよな」
勇斗が急に真剣な顔でそう言い出したのは、占い師訪問から数日後のことだった。彼なりに、本当の占いを体験して思うことが合ったらしい。
「雰囲気って、具体的には?」
柔太朗が首をかしげると、勇斗は待ってましたとばかりに力説した。
「だから、小道具! タロットカードとか、キャンドルとか、あと――でっかい水晶玉とか!」
「水晶玉とか、この前いかにもーってかんじやったもんな。なんか気分上がるし。」
「だろ??やっぱり盛り上げていくしか無いっしょ!」
食いついたのは柔太朗ではなく、舜太の方だった。
こうなると二人は止まらない。柔太朗は、二人で加速していく様子に一抹の不安を覚えた。
空きコマで学食でダラダラ過ごしていた三人は、時間つぶしの意味合いも込めて、隣町の輸入雑貨店まで行ってみることにした。柔太朗は、一人で二人を止められるのか心配だったが、あいにく仁人も太智も授業だった。
入り口横、象の置物がトレードマークの輸入雑貨店に入れば、エキゾチックな香の香りが漂う。あまり統一性もなく雑多に商品が並べられている。天然石のコーナーと思われるエリアには、手のひらサイズのものから、両手でようやく抱えられるほどの巨大なものまで、様々な水晶玉が並んでいた。
「――これ、めっちゃええやん!」
舜太が指差したのは、まぁまぁ大きな一玉だった。台座までセットになっていて、ご丁寧に【sale!!50%OFF】というポップまでついている。怪しさ満点の長髪店員いわく「イベント装飾にも人気」なのだという。
「これだな、決まり。」
「えー………大ちゃんと仁ちゃんに相談してからが良くない…?」
二人はろくに値札も確認せず、心配そうに引き止める柔太朗を振り切って、勢いのままレジへと向かった。
「――は? で、いくらしたって?」
翌日、レシートと例の水晶玉を見せられた太智は、開いた口が塞がらないという顔をしていた。水晶玉の方はろくに見もせず、レシートを握りつぶさん勢いで、わなわなと震える指でつまんでいる。
「原価ゼロが売りの商売やって言うたやろ! なんで一発目からそんな高い買い物すんねん!」
「いや、でも、これがあるとないとじゃ、説得力が全然違うと思って。」
「そうそう、見た瞬間にビビビと来たっていうか!」
悪びれもせず言い返す舜太と勇斗に、太智はこめかみを押さえながら唸った。
「――お前ら、商売する気あんのかい!」
「そこまで言う?」
「言うわ! これ、何人分の客とったら回収できると思っとるん。損益分岐考えろや!!」
「大ちゃん、そんな怒らんといて。水晶玉は、いわば初期投資だからさ、変動費――っていうか……客一人あたりにかかる追加コストは、ほぼゼロやろ? やったら、あとは客数さえ稼げば、初期費用なんてすぐ回収できるじゃん!おっけーおっけー!」
「あ? お前、客数稼ぐのがどんだけ大変かわかってるんか?」
屁理屈かと思ったが、思いのほかちゃんとした理屈に、太智は一瞬、言葉に詰まりつつ、いやいやと首を振りながら返す。
「んー、それは勇ちゃんと、気合で頑張るよね??」
「がんばるがんばる」
得意げに胸を張る勇斗と舜太に、結局最後は気合かい…と反論するのがめんどくさくなったように、観念して肩を落とした。
「――まぁ、小道具はいつかは買わんといかんかったからな。この水晶玉は腹立つけど。」
「せやろ? この水晶玉の分も、しっかり稼ごうな」
「お前がゆうな!せめて、舜太と勇ちゃんが、客寄せやれや!」
水晶玉の一件が落ち着いたところで、話題は本題――実際にどうやって占いをするか、に移った。
どちらかというと、というか、圧倒的にこれが肝である。
「――正直、俺ら、だれも占いできないけどどうする?」
仁人の身も蓋もない指摘に、その場にいた全員が黙り込んだ。
皆考えていないわけではなかったが、目を逸らしていた現実だった。
「あんな、ちょっとした作戦を思いついてん」
舜太がにやりと笑いながら取り出したのは、自分のスマホだった。
「客の悩みを、隠しマイクで音を拾わせる。で、それをそのままチャッピーに聞かせるんよ。んで、チャッピーが考えたそれっぽい回答を、骨伝導イヤホンで聞きながら、占い師役がタロットの解説っぽく喋る、とかどう!?」
「――それ、なんか色々とまずくない?その…倫理的に…?」
柔太朗が真っ先に眉をひそめる。
何がどうまずいかはうまく言い表せられなかったが、何かやばい匂いがする。
「チャッピーの規約的にどうなんだ、それは」
仁人も冷静に突っ込んだ。
「もちろんちょっとは勉強しないといけないといけないだろうけど。
たぶん、個人情報だけ気を付ければ大丈夫だと思うねんけどなー。ほら、あだ名とかで読んだらええんちゃう?」
太智だけは、目を輝かせていた。
「――それ、コストゼロで的中率だけ上げられるってことやんね?」
「そういうことよ!これでみんな占い師や!」
「太智、食いつくところそこかよ」
呆れる仁人をよそに、舜太と太智は、早くも計画の詳細を詰め始めていた。ばれない程度に、うまくやれば――そんな淡い期待だけを胸に、夏祭りに向けた準備は、少しずつ、きな臭さを増しながら進んでいった。
水虹ひにゃ@リムらないでほしい