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リオンが運転するスパイダーでゲートルートにウーヴェが到着した時、既に店内には家族の姿があり、やっと主賓が来たと兄に笑われてしまう。
「ちょっと、警察で長居をしてしまった、から」
「気にするな」
店の一番奥に特別に席を設けてくれたらしく、リオンの腕に手を預けながら席に向かうと、予想していなかった人の姿を発見し、ウーヴェの顔に嬉しそうな笑みが浮かぶ。
「マザー、来て下さったんですか?」
レオポルドとイングリッドの隣にいたのはマザー・カタリーナで、入院中何度も顔を出しては心配事の相談に親身になってくれていた彼女が退院祝いの席に参加してくれている事実にウーヴェが嬉しさを隠さないでリオンを見上げ、悪戯が成功した子どもの顔でリオンが笑う。
「オーヴェを驚かせようと思ってさ、親父に相談したらマザーにも来てもらえって」
「退院おめでとう、ウーヴェ」
「ありがとうございます」
マザー・カタリーナの言葉にありがとうと告げたウーヴェは、ギュンター・ノルベルトとアリーセ・エリザベスの頬にそれぞれキスをし退院した事を伝えると、それぞれがウーヴェの背中にやんわりと腕を回して退院を祝う言葉を伝え、早く席に座りなさいと促してくる。
それに頷きつつレオポルドと安心から微かに涙を浮かべるイングリッドにも退院を報告し、何かと世話を掛けたと礼を言うと、そんな言葉よりも元気になってくれた事の方が嬉しいとイングリッドが笑ってウーヴェを抱きしめ、そんな二人の肩にレオポルドが腕を回して同意する。
「……リオン、お前も三ヶ月ご苦労だったな」
「ダンケ、親父」
労いの言葉に素直に頷いて席に着いたリオンは隣に腰を下ろして安堵の溜息をつくウーヴェの無精髭の存在など一切感じさせない頬を指の背で撫でると、どうしたと問うように見つめられて満面の笑みを浮かべる。
「病院ではオーヴェがずーっと我が儘言ってたよなーって」
「……うるさい」
「はいはい」
図星を指されては何も言えずに上目遣いでリオンを睨んだウーヴェだったが、背後から大きな声で名を呼ばれたことに気付き椅子の上で振り返って先程とはまた違う笑みを浮かべて立ち上がる。
「ウーヴェ! やっと退院出来たなぁ!」
三ヶ月は長かったがリンゴのタルトを食べたいと言われて何度も持って行った甲斐があったと笑うベルトランの目に涙が浮かび、ウーヴェが苦笑しつつも手を伸ばすと、ベルトランが幼い頃と変わらない泣き顔で突進するようにウーヴェを抱きしめる。
「心配掛けた、バート。悪かった」
「……本当に、な……!」
幼馴染みの背中を撫でて心配掛けたと謝罪をするウーヴェだったが、ベルトランが鼻声で何度も良かったと繰り返すことから自分でも改めて退院出来てこうして家族みんなに囲まれて祝ってもらえる事実から込み上げてくるものを必死になって堪えるが、リオンがそれを見抜いていたのかどうなのか、ベルトランが泣いてるーと茶化すような声を掛け、泣いてないとベルトランが涙混じりの声で否定をする。
「うっそだぁ。思いっきり泣いてるじゃん、ベルトラン」
「これは鼻水だっ!」
目から鼻水を出せるなど器用だなと皮肉を言いかけたリオンだったが、レオポルドやギュンター・ノルベルトらがベルトランをからかっている間にウーヴェの手を取って痩躯を抱き寄せると背中を優しく撫でて良かったなぁと笑いかける。
「……うん」
「みんなお前におめでとうって言ってくれるからさ、今はちょっとだけガマンしようぜ、オーヴェ」
嬉しいものであっても涙は今はお預けだと他の誰にも聞こえないように小声で囁くリオンに頷いたウーヴェは、うんともう一度頷いて目元を腕で拭うと、ベルトランにお前の料理を久し振りに食べたいと笑みを見せる。
「おー、今用意してるから待ってろ。みんなも待ってて下さい」
「期待してるぞ、ベルトラン」
「頑張ります」
おじさん家の料理長には負けてしまうと笑って頭に手を当てたベルトランだが、すぐに料理を出すから待っていてくれとシェフの顔で告げるとチーフに合図を送って飲み物のオーダーを取ってもらうが、チーフの手が微かに震えている事に気付き、落ち着けと伝えるように肩を叩くのだった。
出された料理は特別なものでは無く今日の日替わりランチメニューだったが、初めてここに来て食事をするマザー・カタリーナをいたく感動させ、何度も来たことがあるイングリッドやアリーセ・エリザベスらもやはり美味しいと顔を綻ばせるが、意外なことに店で初めて食べた料理に感動し、周囲から聞こえてくる評判が過小評価ではないかとの言葉でギュンター・ノルベルトがベルトランを褒めるが、照れたように笑みを浮かべるベルトランを手招きしたレオポルドが太い笑みを浮かべたかと思うと無造作にその手をベルトランの頭に載せ、くしゃくしゃと髪を乱すように撫でる。
その仕草はベルトランが幼い頃毎日のようにウーヴェと家で遊んでいる時を彷彿とさせるもので、二十年以上の時を一気に遡った気がしたベルトランが当時と変わらない笑みを浮かべる。
この中で最も食べ慣れているのはウーヴェとリオンだったが、ウーヴェは長期の入院のため、リオンは自分一人だけここで食べる事を良しとしなかった為に久しぶりに食べた料理にじわじわと感動を覚えているようで、沈黙している二人の様子から口に合わなかったかというありえない心配を覚えつつその顔を見たベルトランは、その目がきらきらと輝いている事に気付いて軽く驚いてしまうが、それが出された料理に対する賛辞だと気付いて大げさに頭を下げる。
その後、ウーヴェにはもちろんリンゴのタルトを、リオンにはチーズケーキをわざわざ取り寄せてくれたらしく出されたそれに皆が感動の声を上げるが、他の面々にはアイスにワインを軽く掛けたデザートが用意されていた。
それを食べながら当面の予定を家族皆に伝えたウーヴェだったが、ギュンター・ノルベルトがアリーセ・エリザベスを見た後、彼女がそっとラッピングされた細長い箱を取りだし、小首を傾げるウーヴェにそれを差し出す。
「退院祝いよ、フェル。受け取ってちょうだい」
退院祝いはこの食事だと思っていたと苦笑するウーヴェにそんな訳ないでしょうとと笑みを浮かべ、早く開けろと促す姉に弟は苦笑を深めつつ丁寧に箱を開け、ビロードの布に包まれるように納められた一本のステッキに目を瞠る。
そのステッキの本体は黒檀か何かで握りはシルバーで装飾されていて、華美すぎずだからといって質素すぎないデザインになっていた。
そのステッキをまじまじと見つめたウーヴェはこれはと問いかけながら兄と姉を見ると、父さん母さんと相談をして皆で選んだと兄に笑顔で教えられ、持ってみなさいとも促されて手に立ち上がる。
リハビリのドクターから教わったようにステッキをつくと握りの部分がしっくりと手に馴染み高さもぴったりだった為、驚きつつギュンター・ノルベルトの顔を見ると使いやすいようで良かったと安堵の溜息をつかれる。
「退院祝いだ、フェリクス」
今後そのステッキがお前の生活を支えてくれるだろうと笑い使用感も悪くないようで安心したと頷く兄に何も言えなかった弟だったが、姉が受け取ってと告げた真意に気付きステッキを両手に掲げるように持つと家族に向けて頭を下げる。
「……ダンケ、みんな。ありがたく使わせてもらう」
「良かったなー、オーヴェ」
俺がいる時は問題ないが万が一離れている時にはそのステッキがお前を支えてくれるとリオンが笑ったため素直に頷いて座り直したウーヴェは、マザー・カタリーナがそっと差し出した小さな包みに気付いてまさかと目を瞠る。
「わたくしには、これしか出来ません」
あなたがどの神に対しても信仰心を持ち合わせていない事は知っているがお守り代わりに持っていて欲しいと笑みを浮かべ、断りを入れつつ包みを開くとそこには真新しいロザリオがあり、ウーヴェがマザー・カタリーナの手に手を重ねて頭を下げる。
「ありがとう……ございます、マザー」
「これはわたくしの教会に縁のある人達にお渡ししているものです」
だからこれを受け取ったからと言って明日から信者になれなどとは言いません、良ければ受け取って下さいと微笑まれて素直に頷いたウーヴェは、ロザリオを手首に通してリオンに見せると、俺とお揃いだと嬉しそうに頷かれて目を細める。
「マザーもいるからさ、ちょうど良かった」
「リオン?」
ウーヴェの頬を撫でた後ちゃんと話をしようと笑いかけて返事をもらったリオンがギュンター・ノルベルトの顔を見た後、驚く面々を一人一人見やり最後にマザー・カタリーナを見つめて口を開く。
「俺とオーヴェの結婚式、八月にしたいなって思ってるんだけど、マザー、その時期って教会は忙しくねぇよな?」
「え? ええ、八月十五日は聖母マリア昇天祭がありますが、それ以外は忙しいことは……」
リオンの唐突な申し出にマザー・カタリーナが驚き顔を見つめるが、二人で話し合った結果、役所だけではなく教会で式を挙げたい事を伝えウーヴェの横顔を見たリオンは、同じ顔で頷かれて目を細め、前は役所だけで良いと思っていたが今回の事件で自分たちがどれほど周囲から心配され愛されているのかが分かった、それに応えるためではないが自分達二人がこれから先も幸せに過ごすための第一歩を今まで見守ってくれていた人たちにも見てもらいたいと皆の顔を見る。
「八月に結婚式を挙げるんだな?」
ギュンター・ノルベルトの声に頷いたリオンだが、アリーセ・エリザベスも嬉しそうに頷きイングリッドとレオポルドも感慨深げに頷いてくれたことが嬉しくて、呆然としているマザー・カタリーナの手に手を重ねていつもと変わらない笑顔で宣言する。
「マザー、ホームで結婚式を挙げるからさ、準備をして欲しい」
「……ええ、ええ、そうですね、ええ。準備しましょうね」
リオンの言葉がよほど嬉しかったのかウーヴェとリオンの手を逆に取ったマザー・カタリーナが何度も礼を言い、神への祈りを捧げた後、あの子もきっと喜びますと涙を堪える顔で笑みを浮かべ、そうだと良いなとリオンも笑う。
「詳しいことが決まればまた教えて下さい」
「うん。皆にちゃんと報告する」
だからその日を心待ちにしていてくれと笑ってウーヴェの頬にもキスをするが、そのキスを受けたウーヴェが両親や兄姉を見た後、そういうことだからと頷きマザー・カタリーナの手を再度取ってよろしくお願いしますと軽く頭を下げる。
「結婚も退院も本当におめでとう、ウーヴェ」
「ありがとうございます」
足を悪くしてしまった事件は辛く悲しいことだが、それを二人で乗り越えて歩いて行く姿を見せてもらえることは本当に嬉しいと頷く恋人の母にウーヴェも頷き、クリニックを再開するまでは暫くゆっくりするつもりですと告げて笑みを浮かべる。
「本当に、退院おめでとう、フェル」
「……うん、ありがとう」
アリーセ・エリザベスの言葉に頷きギュンター・ノルベルトにも心配を掛けたと頭を下げるが、両親に向かってはもう一度しっかりと礼をいい、足が少し不自由になってしまったがリオンがすぐ傍で支えてくれるからきっとこれからも大丈夫だと二人を安心させるように笑みを浮かべる。
「そうだな。もしリオンが役に立たないと思えばすぐに言いなさい、フェリクス」
「あ、何だよ、それ!」
ギュンター・ノルベルトとリオンの舌戦が始まるかと誰もが予想をするが、ウーヴェが穏やかな笑顔で兄に向けて役に立たないことはないからその話はしないが今度一緒に食事をしようと誘い、リオンには信頼の証のような笑みを浮かべてただ名前を呼ぶ。
それだけで舌戦が回避された事にアリーセ・エリザベスなどは感心するが、今日は退院祝いをありがとうとウーヴェが一人一人に礼を言い、少し疲れたからもう家に帰ることも伝えて立ち上がると、すぐさまリオンも立ち上がり自然と腕を差し出してウーヴェに手を載せさせる。
「気をつけて帰りなさい、ウーヴェ、リオン」
「ダンケ、ムッティ。マザーも気をつけて帰れよ」
「はい、そうします」
「安心しろ。俺達が送っていく」
今日はウーヴェの退院祝いをするために会社を休んでいるので時間もある、マザー・カタリーナは送り届けるからとレオポルドが頷くとリオンの目が安心に細められる。
「ダンケ、親父」
「ああ。ウーヴェ、家に帰ればこれから不便なことが分かってくるだろうが、すぐに連絡をするんだ」
「うん、ありがとう」
リオンがこの三ヶ月の間に廊下や主に使っている二つのバスルームには手摺りを着けたそうだが、他にも不便なことがあればすぐに言いなさいと子どもの身を案じる親を前面に押し出して立ち上がったウーヴェの頭を撫でると、イングリッドがそっと抱きしめながら本当にすぐに言うのですよと優しく息子の背中を押す。
自分はこんなにも家族から心配され愛されているのだと改めて気付いたウーヴェが無言で頷くが、母の背中を安心させるように撫でてリオンがいるから大丈夫と言葉でも安心させようと囁き、今日は帰ってゆっくり休みなさいと額にキスをされる。
「ノル、エリー、ありがとう」
「ミカにも落ち着いたら連絡をしてあげてね、フェル。心配していたから」
今世界中を転戦している為に駆けつけられなかったがずっと心配していた事を伝え、弟の同意を頷きからもらうと安堵に目を細める。
「気をつけて帰りなさい」
「うん。ノルも」
「ああ」
互いを気遣いつつ今日は本当にありがとうとリオンが纏めるように礼を言い、帰る事に気付いたベルトランにも手を上げて今日の食事が美味しかったことを伝えると、厨房の奥からチーフを筆頭にスタッフ達がわらわらと顔を出し口々に退院を祝ってくれる。
「みんなありがとう」
「また来て下さいねー」
スタッフ一同の思いをチーフが代弁し頷いて手を上げたウーヴェは、いつもの場所に停めたスパイダーに少しだけ時間を掛けて乗り込むと安全運転をお願いしますと警備員の頬にキスをするのだった。
リオンが運転するスパイダーが小高い丘の上にある高級アパートの駐車場に滑り込み定位置に停まると、ウーヴェの口から様々な思いの籠もった溜息が零れ落ちる。
「どーした、オーヴェ」
「……帰って、来られた、んだな……」
「ああ」
ウーヴェの声に短く答えたリオンはトランクから荷物を取り出すとゆっくり車外に出てくるウーヴェに荷物を持ってと懇願し、意味が分からないままに荷物を持つウーヴェの頬にキスをすると、そのまま掛け声を一つ放ってウーヴェを横抱きにする。
「リオンっ……!!」
「はいはい。暴れないのー。荷物と一緒に落としちまうぞ」
羞恥に声を上げるウーヴェを宥めるように目尻にキスをしこのまま家に帰るからと宣言したリオンは、何かを言いたげに口ごもるウーヴェに気付いていたが鼻歌交じりにエレベーターに乗り込み、最上階のただ一つのドアを目指して上がっていく。
真鍮のドアノブがついたただ一つのドアをウーヴェに開けさせて玄関に滑り込むと、手摺りが新たに付けられた長い廊下を時間を掛けて歩いて行くが、リビングとベッドルームのどちらが良いとひっそりと問いかけるリオンにウーヴェが一瞬悩んだ後、天国が良いと返した為踵を返して己の部屋に向かう。
何とかドアを開けコンフォーターがリオンの抜け出した形のままになっているベッドにウーヴェを下ろすと荷物がウーヴェの手から床に転がり落ち、そちらに顔を向けた後リオンが振り返ると、ウーヴェが小さな子どものようにコンフォーターを抱え込んで身体を丸めていた。
小さく苦笑を零したリオンがその傍に腰を下ろすと重みの分だけ沈んだマットレスの傾斜に逆らわないでウーヴェの身体が傾き、覆い被さるように顔の傍に腕をつくと小さな小さな掠れた声が名前を呼んでいることに気付く。
「……うん、ここにいる」
何度も名を呼ばれ、その度にここにいる、もう大丈夫だ、家に帰ってきたのだと囁き肩を撫でて傷跡が残る背中を優しく撫でると、ウーヴェが寝返りを打ってコンフォーターの代わりにリオンの背中に腕を回して抱きしめる。
「……っ……ひ……っ……ぅ……」
リオンの胸に顔を押し当て嗚咽をかみ殺そうとするがそんなウーヴェの背中をリオンが抱きしめ、事件から三ヶ月、辛くて長い冬だったよなぁとウーヴェと同じく感情を乱しそうになるのを必死に堪えて何度も辛かったなぁと囁くと、ウーヴェの肩が大きく上下し手術を終えた数日間は時間を問わずに聞かされていた嗚咽の声が室内に響き渡る。
「うん。よく頑張った。オーヴェは本当に……よく頑張った」
今ここにいるのは俺だけだから泣きたいだけ泣けば良い、でも泣き止んだら笑ってくれ。俺と一緒に前を向いて笑ってくれと囁きかけるとウーヴェの手に力が込められる。
堪えていた感情を総て吐露するようにウーヴェが声を上げ続け、しっかりと抱きしめながらそれを聞いていたリオンは、咳き込んで噎せ返るウーヴェの背中を撫でてもう良いかと囁きかけるとその手を取って涙と鼻水とで汚れる顔を見下ろし、あぁもう仕方ねぇなぁと児童福祉施設の幼い弟妹達を相手にしている時の顔で笑ってシャツの袖で顔をぐいと拭いて額を重ねて笑い合う。
「オーヴェ、オーヴェ、お帰り」
「……う、ん」
「また、この家で俺と一緒に笑って暮らそうぜ」
悲しいことにこれからもきっと、今回のような酷い事は無いだろうがそれでも大小様々な出来事が待っているだろう、それを二人で一緒に手を繋いで乗り越えよう、乗り越えた先でもこうして笑っていようと笑いかけるとウーヴェが泣き笑いの顔で頷く。
「……うん」
「へへ。オーヴェだ」
笑って頷くウーヴェの頬を両手で挟み、やっとやっとウーヴェが帰ってきたと満面の笑みを浮かべたリオンにウーヴェが唇を噛み締めるが、望んでまた望まれている笑みを浮かべ、伸び上がるようにリオンの鼻先にキスをする。
「ただいま、リーオ」
この家に、お前と一緒に笑って過ごす世界にまた帰ってこられた、ありがとうと礼を言うとリオンの表情が一変して真剣なものになり、両手首をシーツに縫い付けられるようにベッドに押さえつけられたため一瞬緊張を覚えかけるが、見下ろしてくるのがリオンだとしっかりと認識し理解している為に目を閉じる。
そして程なくして重なる唇の感触に身体が震えるが、誘拐されてからの三ヶ月間が一瞬で脳裏を過ぎり、本当に帰って来られて良かった、またこうして互いの背中を抱けるようになって良かったときつく目を閉じる。
何度か離れてはまたキスを繰り返した二人だったが、リオンが力を抜いてウーヴェに覆い被さり、その背中をウーヴェがしっかりと抱きしめ、やっと帰ってきた、あの事件から生還したのだという実感を互いの温もりから感じるのだった。