「今日は何すんだよ」
やつれたて青白い顔でもその目には未だに生気と殺気だけは残っている。それが一層奴らの加虐心を煽るのだろう。
頬は痩けて、滑らかで潤いのあったショートカットはいつのまにか細く乾いている肩以上のロングになった。
『今日はお話ししようと思って』
そう言いながら一脚の椅子を持ってきた。服も普段のような防護服ではなく、桃太郎の象徴である真っ白なスーツを着て。
「…話すことなんざ一個もねぇっつてんだろ」
『まぁまぁ、俺の話を聞いてからでも良いじゃん?ね』
小首を傾げてこいつからは一回も見たことのない、偽善と愉悦を内部に宿した酷く歪んだ笑顔。
何を言われようとも四季は情報の一つも話す気は無い。ギチリと弱った力で唇を噛んだ。
でも、それは一瞬で離された。
桃太郎による一言で。
『君の捜査が自然消滅して、打ち切りになったよ』
「…えっ」
「どういう…いみ」
『もう、誰も、君のことを、』
『探していないってこと』
「そ…んな、わけ。ない」と力無く四季の口からはそう溢れた。曇る事が一度もなかったその群青色の瞳が淀み濁り翳った。
嘘だ、嘘だ。
無人も、京夜も、来ないよ。真澄だってきてくれる!諦めたんだよ。絶対。大丈夫!すぐすぐ来る!本当は探してなかったり。
探してくれてる…今探してくれてる…
今も…
紫苑も…馨も来てくれるよ。来ない。幽も波久礼だって!探す筈ない。
ぐちゃぐちゃに思考が纏まらずに視界も揺らいでくる。耳鳴りが大きく聞こえて、桃太郎の顔がグワングワンと揺さぶられている。
「そ…なわけ、ない」
希少な鬼神の子に死なれては困る。
大事な貴重なモルモットなんだから、だから死ぬギリギリまで実験と拷問をして治す。
治す間は性行為によって子種を育ててもらう。子供が鬼なら実験行きか殺処分。桃太郎ならば英才教育を。
それの繰り返し。
この哀れな鬼神は気付いているのだろうか…日光も時間もない部屋では分からないのか。
自身がここにきてから既に5年以上も経過していると言う事が。
一ノ瀬四季は飴でも鞭でも決して情報を話すことはなかった。例えば薬を使おうとも、尊厳を破壊しようとも…快楽を与えようとも。
自身が宿した子を目の前で処分させられようとも、決して話さなかった。目では涙を溢して、下唇を噛みちぎるんじゃないかと思うほどに噛み締めて。
1人の時間を作ろうとも、自分を慰めようと仲間の名を呼ぼうとは一切しなかった。
ならばもう、心でも壊してあげて楽にしてやろうじゃないか。そう思った。
上はどうせ一ノ瀬四季を解放する気はないだろう。一片も。
だったらこの生地獄で正気を保つよりも、事実を知り壊れた方が楽になる。正気でいるときの事実は時に自死に誘惑するほどに厳しく、辛いものだから。
逃す事もできない、下っ端の俺にできるにはこれだけ。俺はこの施設の誰よりも近くにいて受けてきた痛みを知ってる。
『嘘じゃない』
「…い゛や゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
溢した大粒の涙は痛みを堪える時よりも多くて、痛ましい。
翌日から彼女は反応をしなくなった。数時間見ないだけで、彼女の心は完全に壊れてしまった。
上からの冷たい目線を使った命令で爪をペンチで挟みながら、もうすぐ…来るよ。君の王子様達が
そう呟いた。
あとがき
はい、そうです。四季ちゃんが居ると情報をくれたクソ野郎見たいな男はこの桃太郎です。
情がうつったのか、元々優しかったのか、娘と重なったか…真相はわかんないんですけどもね。
1人ぐらい鬼にも優しい桃太郎が拷問施設にいたって良いんじゃいか…っていうただの欲です。
拷問を指示してたのも性行為をしてたのも彼じゃないです、彼の入っている隊の隊長です。
彼はただの平隊員
コメント
4件

あーめ!
続きがめっちゃ楽しみです‼︎
下っ端桃太郎、ほーんのちょっとは見直したよ(;_;)あと、四季のこと教えてくれてありがとう😭あゝ〜助けに来るのがまちどうしい!最高👍️