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第2章「春風に誘われて」
桜の光に包まれ、狐白の世界へ来たからぴちのメンバーたち。
しかし、全員が同じ場所に戻ってきたわけではなかった。
それぞれが別々の場所で目を覚まし、見慣れたはずの世界に戸惑っていた。
あちらの世界で過ごした記憶は、誰ひとりとして失っていない。
そして、どぬくが目を覚ました場所は――深い森の中だった。
どぬく:「……あれ? ここ、どこだろう」
ゆっくりと体を起こし、辺りを見渡す。
木々の隙間から差し込む光。頬を撫でる風。遠くから聞こえる鳥の声。
けれど、近くに仲間たちの姿はなかった。
どぬく:「みんなと、はぐれちゃったのかな……」
少し不安になりながらも、どぬくは森の中を歩き始めた。
しばらく進むと、木々の向こうに大きな城が見えてきた。
どぬく:「……お城?」
立派な城壁に囲まれたその場所には、人々が行き交っている。
仲間を探すためにも、まずは人のいる場所へ行こう。
そう考えたどぬくは、城へと向かった。
城の門をくぐると、そこには美しい庭園が広がっていた。
色とりどりの花が咲き、風に揺れる木々の葉が優しい音を立てている。
どぬく:「わぁ……きれい」
思わず足を止めて庭園を眺めていると、少し離れたところから少女の声が聞こえた。
???:「……ねえ、あなた」
どぬく:「ん?」
振り返ると、そこには狐の耳と尻尾を持つ少女が立っていた。
少女はどぬくの姿をじっと見つめている。
狐華:「……見かけない顔ね。誰?」
どぬく:「あ、俺はどぬくだよ。ちょっと道に迷っちゃって……」
狐華:「道に迷った? どうしてこんなところにいるの?」
どぬく:「気づいたら森にいてさ。仲間ともはぐれちゃったんだ」
狐華:「……ふーん」
狐華は警戒するように、少しだけ距離を取った。
どぬく:「君は?」
狐華:「……狐華」
どぬく:「狐華ちゃんか! よろしくね」
狐華:「……別に、仲良くするつもりはないけど」
どぬく:「えっ、そ、そっか……」
狐華:「……」
どぬく:「……もしかして、俺のこと怖い?」
狐華:「は!? ち、違うし!」
どぬく:「あはは、ごめんごめん!」
狐華:「……変な人」
狐華はそっぽを向いた。
けれど、耳がぴくぴくと動いている。
どぬくはそれを見て、思わず小さく笑った。
狐華:「……何笑ってるの?」
どぬく:「いや、なんでもないよ!」
狐華:「……ほんとに変な人」
そう言いながらも、狐華の表情から、ほんの少しだけ険しさが消えていた。
しばらくして、狐華は小さくため息をついた。
狐華:「……それで、仲間を探してるんでしょ?」
どぬく:「うん。みんながどこにいるのか分からなくて」
狐華:「……街に行けば、何か分かるかもしれない」
どぬく:「ほんと?」
狐華:「案内くらいならしてあげる」
どぬく:「ありがとう、狐華ちゃん!」
狐華:「か、勘違いしないでよ! まだ信用したわけじゃないから!」
どぬく:「うん、分かってるよ!」
狐華:「……ならいいけど」
どぬくは嬉しそうに笑った。
狐華はそんな彼をちらりと見て、すぐに視線をそらした。
どうしてこの人は、こんなにも簡単に笑えるのだろう。
初対面の相手なのに、妙に調子が狂う。
けれど、不思議と嫌な感じはしなかった。
城の門を出ると、にぎやかな街並みが広がっていた。
露店には色とりどりの果物や花が並び、人々の楽しそうな声が響いている。
どぬく:「わぁ……すごい! こんなににぎやかなんだ!」
狐華:「……そんなに珍しい?」
どぬく:「うん! 俺、こういうところ好きだなぁ」
狐華:「ふーん……」
どぬく:「狐華ちゃんは、よく街に来るの?」
狐華:「まあね。お城にずっといるのも退屈だし」
どぬく:「そっか! じゃあ、おすすめの場所とかある?」
狐華:「……なんで私が教えなきゃいけないの?」
どぬく:「えー! いいじゃん!」
狐華:「……もう、しょうがないなぁ」
狐華は呆れたように息を吐きながらも、街の奥へと歩き始めた。
どぬくはその隣を楽しそうについていく。
最初はあれほど警戒していた狐華だったが、どぬくがあまりにも自然に話しかけてくるせいか、少しずつ緊張が解けていった。
狐華:「ここ、私のお気に入りの場所」
どぬく:「わぁ……!」
二人がたどり着いたのは、街を一望できる小さな丘だった。
丘の上には大きな桜の木が立っている。
風が吹くたび、淡い花びらが空へと舞い上がった。
どぬく:「すっごくきれい……!」
狐華:「でしょ? ここから見る景色、好きなんだ」
どぬく:「うん、分かる気がする」
狐華:「……あなたって、変なところで素直だよね」
どぬく:「えっ、そう?」
狐華:「普通、初めて会った相手にこんなに話しかけないでしょ」
どぬく:「あはは……そうかな?」
狐華:「そうだよ」
どぬく:「でも、狐華ちゃんと話すの楽しいよ?」
狐華:「……っ!」
狐華の耳が、ぴんと立った。
狐華:「な、何言ってるの!?」
どぬく:「え? 本当のことだけど……」
狐華:「……もう!」
狐華は顔をそらした。
けれど、その尻尾はどこか落ち着かなさそうに揺れていた。
どぬくはそんな狐華を見て、楽しそうに笑った。
狐華:「……ねえ」
どぬく:「ん?」
狐華:「あなたって……人間、だよね?」
どぬく:「うん、そうだけど?」
狐華:「……そっか」
どぬく:「どうして?」
狐華:「……別に」
狐華は、自分の耳にそっと触れた。
人間と狐。
二つの血を引く自分にとって、相手がどんな目で自分を見るのかは、いつだって気になることだった。
だからこそ、簡単には人を信用できなかった。
狐華:「……私、普通の人間じゃないから」
どぬく:「……うん」
狐華:「人間と狐、両方の血が入ってるの。だから……」
狐華は言葉を止めた。
どぬくがどんな反応をするのか、怖かった。
けれど――
どぬく:「……耳、かわいいね」
狐華:「……え?」
どぬく:「尻尾も! ふわふわしてそう!」
狐華:「……はぁ!?」
どぬく:「あっ、ごめん! 嫌だった?」
狐華:「……別に、嫌じゃないけど……」
どぬく:「よかった!」
狐華は、ぽかんとした顔でどぬくを見つめた。
怖がられると思っていた。
変な目で見られると思っていた。
それなのに、どぬくはいつもと変わらない笑顔を向けてくる。
狐華:「……あなた、本当に変な人」
どぬく:「今日、それ何回目?」
狐華:「知らない!」
どぬく:「あははっ!」
狐華も、つられるように小さく笑った。
ほんの少しだけ。
けれど確かに、二人の距離は縮まっていた。
日が傾き始めたころ。
二人は再び城へと戻ってきた。
狐華:「……今日は、もう遅いね」
どぬく:「そうだね。案内してくれてありがとう、狐華ちゃん」
狐華:「……別に。私も、ちょっと楽しかったし」
どぬく:「えっ?」
狐華:「な、何でもない!」
どぬく:「ふふっ、そっか!」
狐華:「……明日も、街を案内してあげようか?」
どぬく:「本当!?」
狐華:「……あなたが嫌じゃなければ」
どぬく:「もちろん! 楽しみ!」
狐華:「……じゃあ、約束ね」
どぬく:「うん、約束!」
そのとき、城の奥から慌ただしい足音が聞こえてきた。
使用人:「狐華様!」
狐華:「どうしたの?」
使用人:「た、大変です……!」
狐華:「……何があったの?」
使用人:「街で……ある方が見つかったそうです」
狐華:「……ある方?」
使用人:「はい。長い間、行方が分からなくなっていた方が……!」
その言葉を聞いた瞬間、狐華の表情が変わった。
狐華:「……嘘」
使用人:「まだ詳しい確認は必要ですが、間違いないとの報告が……」
狐華:「……そんな……」
狐華は、その場から動けなくなった。
ずっと、ずっと待っていた。
もう帰ってこないのかもしれない。
もう二度と会えないのかもしれない。
そう思いながらも、心のどこかでは信じていた。
いつか、また会えるのだと。
狐華:「……お姉ちゃん……?」
その声は、かすかに震えていた。
どぬく:「……狐華ちゃん?」
狐華:「……ごめん、どぬく。ちょっと、行ってくる」
どぬく:「うん。俺も一緒に行っていい?」
狐華:「……うん」
今度は、狐華からどぬくの袖をそっとつかんだ。
先ほどまでの警戒心は、もうほとんど残っていなかった。
二人は城の中へと駆け出した。
そのころ、街の入り口では――
ひとりの少女が、懐かしい景色を見つめていた。
風に揺れる桜。
変わらない街並み。
けれど、自分がいなくなっていた間に、世界は少しずつ変わっていた。
狐白:「……ただいま」
狐白。
長い間、行方不明になっていた少女。
彼女が戻ってきたことを、まだ知らない人々もいる。
けれど、その知らせは少しずつ広がり始めていた。
狐白は、懐かしい城を見上げた。
狐白:「……狐華、元気にしてるかな」
妹に会いたい。
ただ、それだけだった。
あちらの世界で過ごした時間は、決して短くはなかった。
それでも、帰ってきたかった。
もう一度、大切な人たちに会うために。
狐白:「……早く、会いたいな」
そのとき、遠くから足音が聞こえた。
顔を上げると、こちらへ向かって走ってくる二人の姿が見えた。
ひとりは、見覚えのある少年。
そしてもうひとりは――
狐華:「……お姉ちゃん!!」
狐白:「……狐華!」
狐華は、勢いよく狐白の胸に飛び込んだ。
狐華:「……っ、もう! どこ行ってたの……!」
狐白:「……ごめんね」
狐華:「ずっと……ずっと、待ってたんだから……!」
狐白:「うん……うん、ごめんね」
狐華は何度も首を横に振った。
狐華:「……帰ってきてくれて、よかった……!」
狐白:「……ただいま、狐華」
狐華:「……おかえり……!」
二人の目から、涙がこぼれ落ちた。
離れていた時間が、すぐに消えるわけではない。
伝えたいことも、聞きたいことも、きっとたくさんある。
それでも、今はただ、こうして再び抱きしめ合えることがうれしかった。
少し離れた場所で、どぬくはその光景を静かに見守っていた。
どぬく:「……よかったね、狐華ちゃん」
狐白は、狐華の肩越しにどぬくを見た。
狐白:「……どぬ」
どぬく:「……狐白!」
二人の間に、驚きはなかった。
あちらの世界で出会い、ともに過ごした記憶がある。
だからこそ、再び顔を合わせた瞬間、自然と笑顔になれた。
どぬく:「……帰ってきたんだね」
狐白:「うん。……ただいま」
どぬく:「……おかえり!」
どぬくは、心からうれしそうに笑った。
狐白もまた、そんな彼に笑顔を返した。
長い時間を越えて、再びつながった縁。
そして、これから始まる新しい時間。
桜の花びらが、三人の頭上を静かに舞っていた。
その花びらはまるで、これから歩む道を優しく照らしているかのようだった。
けれど、彼らの物語は、まだ始まったばかり。
この再会が、どんな未来につながっていくのか。
それを知る者は、まだ誰もいなかった。
コメント
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わあ、第2話、すごく良かったです!どぬくが狐華ちゃんと出会うシーンから、あの耳と尻尾のやりとりがもう心温まりました。「かわいいね」って自然に言えるどぬくの素直さが、狐華ちゃんの心を溶かしていく感じがたまらない。後半の狐白さんとの再会で涙が出そうになりました…。「ただいま」「おかえり」の掛け合いに、異世界の記憶を抱えて戻ってきた重みと優しさがぎっしり詰まっていて。設定も伏線も気になるし、続きが待ち遠しいです!