テラーノベル
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shk視点
「どうしよ…」
ひとり暮らしのため、部屋には誰もいない。
静かな自室で、スマホを握りながら頭を悩ませる。
昨日、Nakamuにきんときさんとデートすることになったと伝えた。
そしたら、なにやら興奮したNakamuが電話をかけてきた。
『ねぇ、シャークん!もしかして馬鹿正直にご飯だけ行こうとしてないよね!?』
『え…そのつもりだけど…』
『ハァ!?ばかっ!!チャンスなんだから、ご飯以外の場所も行きなよ!』
『ご飯以外の場所?……例えば?』
『カラオケとか、映画とか!あ、でも映画館じゃ喋れないか…』
何やらブツブツと話してるNakamu。
話についていけず、脊髄で相槌を打つ。
『やっぱ水族館じゃない?ロマンチックだし!』
『水族館?』
『いいじゃん!ふたりでイルカショー見ちゃったりしてさ!』
『…』
魚を見て、はしゃぐきんときを想像する。
…悪くないかも。
『なんて言えばいいの』
『LINEで誘えばいいよ!』
『…迷惑じゃね?』
『そんなの気にしてたら何もはじまんないよ!』
『いや…』
渋る俺に痺れを切らしたNakamuが声をあげる。
『いいから!ちゃんと誘ってね!?』
『え、ちょっ、』
そこで電話が切れた。
何も聞こえなくなったスマホを見て、リビングに立ち尽くす。
もしここできんときを誘わなければ、Nakamuにキレられるのは目に見えていた。
そして、今に至る。
デートなんてしたことない。
スマホを握りしめ、ため息を吐く。
サークルのグループLINEからきんときの名前を探して追加する。
ワンタッチでトーク画面が表示された。
心臓がドキドキ跳ねる音が聞こえる。
なんてLINEしよ…
頭の中で浮かんだ文字を、打ち込んでは消して、打ち込んでは消して…
気づけば1時間が経っていた。
止まってくれない時間に、俺もだんだん焦り始める。
もう22時だ。
LINE送るのって何時までが良かったんだっけ。
今LINEしたら迷惑か?
でも、早く言わないときんときの予定埋まるかもだし…
頭の中でぐるぐると思考が回る。
考えているうちにだんだん頭が馬鹿になっていく感覚がした。
もうどうにでもなれ。
そう決めて、メッセージを打ち込み、送信ボタンを押す。
『時間あったらついでに水族館行きたい』
……送ってしまった。
数秒もしないうちに後悔が襲ってきて、心臓の鼓動が早くなる。
メッセージ取り消しのボタンを押そうとする手を気合いでとめて、スマホをテーブルに置いた。
通知切った方がいいか?
無視されたらどうしよ…
そんな考えが頭を駆け巡る。
「…風呂入ろ」
冷静になるために、風呂に行こうとした時。
「!」
メッセージに既読がついた。
「既読はや…」
慌ててスマホを手に取る。
このままではすぐに既読をつけてしまうので、とりあえずLINEは閉じて別のアプリを開く。
ピコン
「!」
通知だ。
相手は…きんときから。
『いいね、じゃあご飯食べる前に行こっか』
当たり前だけど、きんときから送られてきたメッセージということを再認識して、口元が緩む。
念の為、数分だけ時間を置いてから返信した。
『昼集合でいい?』
『いいよ~楽しみにしてる』
「はぁ~…」
きんときのLINEで会話が終わって、緊張がほぐれる感覚がした。
ため息を吐いて、画面を閉じる。
めちゃくちゃ緊張した。
でもこれで、きんときを誘うというミッションは完了した。
デートまであと4日ほど。
多少の不安を抱えながら、カレンダーに印をつけた。
デート当日。
天気予報通りの快晴でホッと安心する。
予定時刻より15分前の待ち合わせ場所。
遅れないようにと意識していたら思ったより早く着いてしまった。
(あーやばい…緊張してきた…)
ちゃんと喋れるだろうか。
きんときにアピールする機会はここしかないと思うと緊張で手が震えてきた。
ピコン
「!」
きんときからのLINEだ。
画面に映し出される文字を読む。
『後ろみて』
「…?」
不思議に思いながら、後ろを振り返る。
「ばあ!」
「うわっ!!」
驚いた俺を見て、きんときはクスクスと笑う。
心臓が止まるかと思った。
「ふふ、驚きすぎ」
「…べつに」
笑われたのが恥ずかしくて、顔に熱が集まる。
ふと視線を下に向けると、きんときが羽織っている青いカーディガンが目に入った。
少し大きめのサイズがきんときによく似合っている。
(可愛い…)
「水族館行くんだよね?」
「え、あ、うん…」
「いつぶりだろ、楽しみ」
笑いながら横を歩くきんときに笑みが溢れる。
「…あ」
「?なに」
歩き出したかと思えば急に歩みを止めたきんとき。
不思議に思って顔を覗く。
「あれ」
きんときが指さした先にあるのは、お洒落な雰囲気なクレープ屋のキッチンカー。
「シャークん、お腹空いてる?」
「え、まぁ…」
「じゃあ食べてこうよ、美味しそうだし」
クレープか。食べるのは久しぶりだ。
たしかに、メニューに映っているクレープはクリームがたっぷりのっていて美味しそうな見た目をしている。
きんときの言葉に頷いて、キッチンカーに近づく。
「何にしよ」
「俺チョコバナナがいい」
「じゃあ俺はいちごかな。ちょっとまってて」
きんときはそういうと、だれも並んでいないキッチンカーに近づいた。
そして慣れた様子で注文をはじめる。
「!きんとき、!」
「なに?」
「俺が払うから、!」
財布を取り出すきんときを慌てて止める。
バッグに手をかける俺の手を、きんときが抑える。
「気にしないでいーよ。年上なんだからこれくらいさせて?」
「っ…」
爽やかな笑顔を向けられると何も言えなくなる。
カッコつけたかったのに…
「楽しみだね」
「…ん」
余裕のあるきんときに、嬉しいような悲しいような複雑な気持ちを抱いたまま、俺はクレープが出来上がるのを眺めていた。
クレープを食べて、そのまま目的の水族館へ向かった。
平日の昼間だからか、人は少なく、館内の雰囲気はより落ち着いたものになっていた。
「あ、シャークん、サメいるよ!サメ!」
控えめに輝く照明がきんときを照らす。
この水族館のメインである巨大な水槽をバックに映るきんときはいつもの何倍も綺麗に感じた。
静かな雰囲気に呑まれ、ボーッと水槽の中の魚を眺める。
アジ、エイ、マンボウ…教科書で見たことある魚から見たことない魚まで色とりどりの魚たちが水槽の中を泳いでいた。
「サメ好きなの?」
さっきからずっとサメを見ているきんときに話しかける。
すると、なんてことない顔できんときが笑った。
「好きだよ?だってシャークんに似てるし」
「はぁっ…!?」
きんときの言葉に顔に熱が集まる。
「ほら、あのサメとか似てる。なんだっけあれ…」
「…シュモクザメ」
「あ、そう、それ!」
「…このサメ、別名あんのか」
俺が説明ボードを見ていると、きんときも覗き込んできた。
「ハンマーヘッドシャークだって。カッコよ」
「ふーん…」
「…ねぇ、このサメちょっとシャークんに似てない?」
「はぁ?どこが」
「んー、ぽけっ〜てしてるし。雰囲気?」
「意味わからん…」
それなら、ホホジロザメとか、もっとデカくてかっこいいやつがよかった。
「ふふ、拗ねないでよ」
そんな俺を見てきんときがクスクスと笑う。
「じゃあきんときはペンギン」
「え!なんでよ」
「なんとなく。でも自主性ないからファーストペンギンにはなれなそう」
「はぁー?なれますー!」
「絶対無理だろ」
膨れるきんときを見て、今度は俺がクスクスと笑う。
楽しくて、ずっとこの時間が続いてほしかった。
しばらく歩いていると、奥にある空間が目に入った。
少し大きめな水槽の中を泳いでいるのは無数のクラゲ。
どうやら、クラゲエリアに来たらしい。
他のエリアより静かで、天井のスピーカーからはクラシックの音楽が流れていた。
地味なエリアのせいか、俺たち以外誰もいない。
上下にプカプカ浮かぶクラゲたちをボーッと見ていると、きんときが水槽の前にある横長のベンチのような椅子に座った。
俺も吸い寄せられるように隣に腰掛ける。
決して派手ではないけど、どこか落ち着く雰囲気を纏う水槽に釘付けになった。
それはきんときも同じようで、横を見ると、水槽を眺める横顔が見えた。
静かで、無表情だけど冷たくない、綺麗な横顔が反射した水槽の光に照らされている。
お互い何も喋らないまま水槽を眺めていると、左肩に重みを感じた。
「っ!」
横を見れば、きんときの顔が至近距離に見える。きんときのサラサラの髪が俺の頬を撫でた。シャンプーのいい匂いがふわっと香ってくる。
どうやらきんときの頭が俺の肩に乗っかっているらしかった。
その事実を理解すると同時に、心臓の動きが早くなるのを感じる。
「きんとき…?」
顔に熱が集まっていく。
「…シャークん」
俺にだけ聞こえるくらいの静かな声が、その場に響いた。
「ずっと、このままで居たいね」
「!」
心臓の音が、きんときにも聞こえそうなくらい大きくなる。
こうしている間にもクラシックが俺たちの間に流れた。
この水槽の前を通る人は、誰もいない。
俺も同じことを思ったとは、言えなかった。
「んー!この竜田揚げ美味しい!」
夜19時。
駅前にあるこじんまりとした居酒屋。
きんときと一緒に行きたいと、ずっと思っていた店。
店は思ったより混んでいたが、予約していたお陰ですんなり入れた。
この辺では珍しい、個室の居酒屋。
目の前で運ばれてきた竜田揚げを頬ばるきんときを見て、ホッと息を吐く。
よかった。気に入ってくれて。
安心して、俺も刺身を口に運ぶ。
「ご飯美味しいってほんとなんだね」
「ん。ここなら酒も種類少ないし、酒とか気にせず飲める」
「ふふ、だね。ありがと」
少し狭めの個室。
小さい掘りごたつの下では少し脚を動かすだけで、向かいのきんときの脚に当たってそれだけでドキッと心臓が反応した。
…さっきの水族館のときから、心臓がうるさくて仕方ない。
はやく、落ち着いてほしいのに。
居酒屋でたくさん食べたあと。
きんときを送るため、ふたりで駅まで歩く。
もう外は真っ暗で空を見上げるとたくさんの星が空で輝いていた。
「楽しかった、今日はありがと」
「ん。…俺も、楽しかった」
静かな夜道。
暗いせいか、必然的に距離が近くなる。
「あの居酒屋のご飯も美味しかったし」
「竜田揚げ?」
「そう!それが1番美味しかったな」
「分かる」
『もう少し、このままでいたい』
なんて願いも叶わず、ふたりで笑いながら歩いていると、駅の建物が見えてきた。
きんときと居れる時間は、これで終わり…
「駅見えたし、この辺まででいいよ。送ってくれてありがとね」
「あ、うん…」
きんときが歩みを止めて俺の方を向く。
月明かりに照らされた優しい笑顔。
その笑顔を見ると、今日の楽しかった思い出がぶわっと頭に蘇ってきた。
クレープを買ってくれた時の笑顔、
水槽を眺めている時の横顔、
飯を頬ばっているときのあの顔。
あのきんときを、ぜんぶ、Broooockさんは見てきたのだろうか。
そう思うと、胸の辺りがズキっと痛んだ。
「じゃあね、シャークん。気をつけて帰ってね」
きんときが背中を向ける。
俺の好きなきんときを、ぜんぶ…Broooockさんは見てきた。
「っ!」
反射的にきんときの服の裾を握る。
「え…シャークん…?」
近づいて、きんときの背中に額を押し付ける。
柔軟剤のいい香りが鼻をくすぐった。
「…きんとき、」
きんときは、Broooockさんが好きだ。
「……きんときは、」
きんときの好きな人は俺じゃない。
「俺がもし…Broooockさんより先に、きんときと出会ってたら…」
そんなの分かってる。
分かってる、けど…
「シャークん…?」
顔の熱が耳まで伝わるのを感じる。
きっと、俺がこんな思いをするのは今日だけだ。
声が震える。
それでも、伝えたい。
震える声を誤魔化すように、きんときの服をぎゅっと握る。
そして、意を決して声を出した。
「俺のこと、好きになってくれた?」
「え…?」
熱くなる頬を冷ますように冷たい風が間に流れた。
ドクドクと、心臓が跳ねる音が聞こえる。
それが、どっちの心臓の音なのか、教えてくれる人はここにはいなかった。
コメント
2件
うわ~~~shkめちゃ可愛い、knも、こんなん惚れてまうで、ほんまに、

サシ飲み回楽しみにしてました。 nkとの電話や反応、考えてる事が初心だけど全てknさんのことを考えるからこそでとても好きです。 甘いもの嫌いではないし好きな方なknクレープ買いたげなknさんもとても良いです。 普段のbrとの関係性を忘れさせるようなknさんの優しさ、言葉で関係性と言葉の言い回しがとても好きです。いつもと違った1話でとても良かったです。 次もまた気長に楽しみにしてます。