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ガンガン! ガンガンガン!!
バイト無し休暇を満喫する俺の早朝を、インターホンも鳴らさずにドアのノックで遮るこの所業。
普段であれば、居留守を使うか、如何にも不機嫌そうな顔で応対するところだが、俺は門を叩く主を知っていた。
その為、俺はウキウキと、満面の笑みで出迎える。
その来客とは、
「猫ちゃ〜ん!! いらっしゃ〜〜い!!」
「なんなんですか……その猫撫で声……」
猫の背後には、UT特務局や、元四天王たちの強さを垣間見て、俺の更なる訓練の為の備品を、数多く携えた学が俺のことを憐れむような目で見ていた。
「なんだよ、普通猫を見たら、人ってのはこういう反応になるのが普通だろ。お前が異常なんだよ。さっさとその訓練と称した俺への拷問器具を置け」
――
ズズ……と、三人でお茶を啜る。
「あの……なんで猫がお茶啜ってるんですか……?」
「そりゃあ猫だってお客様だからだろ」
「いや、普通、猫はお茶なんか飲まないですよね……?」
「数多の宇宙との交流があるんだぞ? 今の時代、お茶が飲める猫がいたって不思議じゃねぇんだよ」
ドタタタタタ!!
「んな訳、あるかぁ〜〜〜〜!!!」
ゴッ!!
いつもは昼までゴロ寝大王のルリは、突如駆け足で降りてきたかと思えば、俺に飛び膝蹴りを喰らわせる。
「な、なんだよ急に……!!」
「ソイツ……! その猫の形状は魔の者だ……! 悪しき魔の力を感じるぞ……!!」
「はぁ? 黒猫だからって魔の者とか……古ぃんだよ。愛猫家から怒られるぞ、お前」
そう言いながら、俺は黒猫を抱き締めた。
音を聞き付けてか、ババアもリビングにやって来る。
「あー、その猫。多分ルリの言う通り、魔の者だわ」
「へ……? だって、たまにここに来ては、ババアも可愛がってたじゃん……」
「優を拾った時、一緒にいた子なんだよ。懐いてるのかなんなのか知らないけど、一緒に拾ったのさ。この前のルリの話を聞いた時、あの黒猫、もしかしたら……とは思っていたんだけどね。ルリがそう言うんじゃ、侵略者の類か、アンタ達の探してる四天王じゃないの?」
ババアの言葉を幕切りに猫は俺の手をそっと離れ、浮遊していた。
「ね……猫が浮いてるぞ……!! 最新技術やべぇな! どこのエイリアンと交配させられたんだ!?」
「優さん……現実を見てください……。もうこの猫、明らかに異世界から来た猫で間違いないですよ……」
そんな中、宙に浮かんだ黒猫は目を開き、その目は紅く変色した。
「バレたのなら仕方ない。妾は気高き龍族の者。魔王の子供の側にいれば、異世界へ帰る為の手掛かりが掴めると思っていたが、全くそんなことはなかった」
そんな猫の言葉に、全員が静まり返る。
「え……? 龍……? ドラゴン……? お前が……?」
正体を知り、テンションの下がる俺とは打って変わり、今度は学のテンションが上がっていた。
「す、凄いですよ……! あの神話の伝説上の生物、ドラゴンさんなんですか!? 宇宙との交信で、いつかはドラゴンとも遭遇できるんじゃ……と期待していましたが、やはり伝説上となっていたドラゴン……!!」
「おい、学……。テンション上がってるところ悪いが、前がドラゴンでも今は猫だぞ。もしドラゴンに戻れるなら凄いことだけど、宙に浮いただけで別に変身する訳でもねぇんだ。あんま過度な期待すんなよ」
「そうじゃな。確かに、龍の姿には戻れぬ。妾は、魂のみをこの地に送り、近い生物へその身を委ねたのじゃ」
「龍に近い生物が……猫か……。鳥とか、ライオンとか、凶暴なやつはいなかったのか……」
「ふっ、間抜けめ。そんな怖い外見になったら、うろちょろと出歩くことが困難になるであろう。タダ飯をかっ食らうのに、猫の姿は非常に便利じゃ」
「おい、今コイツ、タダ飯っつったぞ。高貴なんじゃねぇのかよ」
「そう言うことでの、これからも厄介になるぞ、優」
「まあ……猫の姿だから別にいいけど……」
「わ、私は認められない……!!」
さっきから、飛び膝蹴りを喰らわせたり、何もない中でハァハァと息を溢すルリが反論を示す。
「なんだよー。そんなに魔の者が嫌か? 俺だってそんなこと言ったら魔の者だろ?」
「なんか……私も言い伝えでしか聞いたことないけど、龍は他人の魔力を吸い取るらしいの……! 魔族ですらそんなことできないのに……!」
「やはり、主には分かってしまうようじゃな。妾たち龍族の者は、自然や生命、他の者から魔力を吸収することでエネルギーに変えておる。本来、龍族はその個体に負荷のないように吸収するのじゃが、この世界に魔力がないことと、主の魔力が膨大なことが相まって、そこまでフラフラになっているのであろう」
「ハァハァ……側にいるだけでこんなに吸収されちゃうなんて……流石私……大魔法使い……」
「よし、これで、主人公に相応しい、男二人に女一人、そしてペットと言う王道なメンバーになったな!」
「うんうん、それは確かに」
ふむ、と頷く俺に対し、学は冷や汗を掻いている。
「いやいや……以前の訓練で、ある程度、戦闘に支障がない程度に優さんの『魔を祓う刀』を扱えるようになりましたけど、主人公とヒロインが基本的にエネルギー吸われてるメンバーってどうなんですか……」
「そ、そうよ……! 特に私なんて、悪いこともしていないのに、ただ存在するだけで吸われるのよ! 今後の戦いでデメリットにしかならないじゃない!」
「ん〜、だからと言って普通のペットをお供にしても、居るだけの子になっちゃうしな〜。元がドラゴンとかかっこいいし、秘められた力〜! みたいな感じで、俺たちを助けてくれる伏線にもなるだろ?」
「そ、そんなメタいところまで話すんですか!?」
「なあ、クロ。その吸い取るやつ、なんとかなんねぇのか?」
「そうじゃな。ぶっちゃけると、龍の頃に比べてこの身体になってから、飯でエネルギーは補給できるから、別段吸い取らないと妾が死ぬとか言うことはない。じゃが、パワーが出せぬ。もし主人公たちと一緒に戦うペット、みたいな想像をしているのなら、その時にはその女から魔力を吸い取るしかない。あと、昔から思っていたが、そのクロという名は安直すぎて好かん」
「なんだよ、じゃあ解決じゃん。じゃあクロ、取り敢えず魔力の吸収はヨシって言うまで禁止な」
すると、ルリはフラッと膝を付いた。
「何よ……吸わなくてもいいのね……」
「改めて考えると、中々のメンバーが集ったな。俺が異世界の魔王の息子。やっぱ、主人公たる者、これくらいの背景描写がないとな。で、異世界最強の、本来は魔王と対立してた最強の魔法使い。これも、『対立してた』ってところがいいよな。んで、異世界の元ドラゴンがこちらに来る過程で猫になった。これもまたアツいよな。どこかで覚醒とかしそうだし。で、最後に新米発明家……と」
「ちょ、ちょっと……僕だけインパクト弱くないですか……? もっとなんか……読み手が感動しちゃうような感動描写とかないんですか……?」
「それは、まあ今後、話の展開に合わせて作者が後付けに色々足すからいいんだよ。そんなこと言ったら、魔王の息子にしてあるけど、俺なんて記憶もねぇし、ババアに育てられたモンだから、力は使えても言っちゃえば普通の人間と変わらねぇしな。まあ、そのお陰で今の精神状態でいられてるのはあるけどさ」
「じゃあ、チーム名とか決めちゃいます? こんなメンバーで功績を上げれば、お国から世界から名指しで依頼が来ちゃうかも知れませんよ!」
そんな折、ババアが俺たちの間に立つ。
「ほら! アンタらのチーム名は『緑一派』だよ!! どうせ全員、私の居候組なんだから!」
「ハァ!? そんなダセェ名前、名乗りたくねぇよ!」
「その名なら、アンタらがこの家にいる理由にもなる。家賃の減額も考えてやってもいい。それに、今後の展開的に私の名を入れておいた方が話が進めやすいんだよ」
「またメタい!!!」
「じゃ、じゃあ……緑一派で……」
そうして、渋々とこの四名がチームとなった。