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数日後。
ふみのりは仕事の合間に、ひとりで振り付けを確認していた。
みんなは少し離れた場所で楽しそうに話している。
その笑い声が聞こえるたびに、胸が痛くなった。
以前なら、絶対に自分もその輪の中にいた。
くだらないことで笑って、誰かにツッコんで、みんなでふざけていた。
「……いいな」
思わず声が漏れた。
「何が?」
突然声をかけられ、ふみのりは顔を上げた。
「え?あ、なんでもない!」
「ふーん」
それだけ言って、相手は戻っていった。
ふみのりは再び鏡を見る。
そこに映っていた自分は、なんだか知らない人みたいだった。
(俺、ここにいていいのかな)
そんな考えが、頭から離れなくなっていた。
第7話 気づき始めたメンバー
その日、ふみのりは珍しく早く帰った。
「お疲れ様でした」
いつもより丁寧に挨拶をして、楽屋を出ていく。
「……あれ、ふみもう帰った?」
メンバーの一人が尋ねた。
「うん。先に帰ったよ」
「最近、ずっとあんな感じだよね」
「まあ、俺らも話しかけてないし」
その言葉に、少し沈黙が流れた。
「でもさ、前はあんなにうるさかったじゃん」
「うるさいって(笑)」
「いや、そういう意味じゃなくて。最近、本当に静かじゃない?」
誰もすぐには答えなかった。
そして一人がぽつりと言った。
「……俺、ふみがあんな顔してるの初めて見たかも」
みんなの頭に、最近のふみのりの姿が浮かんだ。
いつも笑っていた人。
誰よりも周りを気にかけていた人。
そんな彼が、今は誰とも目を合わせなくなっていた。
「明日、話してみる?」
その提案に、全員が黙ってうなずいた。
けれど、彼らはまだ知らなかった。
ふみのりが、もう何度も仲直りを諦めようとしていたことを。
そして翌日、ふみのりが楽屋に来たとき。
彼の口から出た言葉は、誰も予想していなかった。
「……みんな、俺のこと嫌いなんでしょ?」
楽屋に響いたふみのりの声。
その瞬間、全員の動きが止まった。
「え……?」
誰かが小さく声を漏らす。
ふみのりは笑っていた。
でも、その笑顔はいつものものとは違った。
「いや、だってさ。最近ずっと避けられてるし。俺が話しかけても嫌そうだし……」
「ふみ、それは……」
「いいよ、分かってるから」
ふみのりはメンバーの言葉を遮った。
「俺が悪かったんでしょ?何回も謝ったけど、まだ許せないんだよね?」
「違う、そういうことじゃ……」
「じゃあ、なんで?」
その問いに、誰も答えられなかった。
ふみのりは少しだけ視線を落とす。
「俺さ、みんなといるの好きだったんだよね」
その声は、さっきよりもずっと小さかった。
「楽屋来るのも、仕事するのも、みんながいるから楽しかった」
一度言葉を切る。
「でも最近、ここに来るのが怖い」
誰も動かなかった。
「俺が話しかけたら迷惑かなとか、隣に座ったら嫌かなとか、ずっと考えちゃって」
「ふみ……」
「ごめん。もうあんまり話しかけないようにするね」
そう言って、ふみのりは荷物を置きに行った。
残されたメンバーたちは、何も言えなかった。
その日の休憩時間。
ふみのりは楽屋の隅で、一人で台本を読んでいた。
いつもなら誰かが隣に座って、くだらない話を始める時間。
でも今日は違う。
「……ふみ」
声をかけたのは、メンバーの一人だった。
「ん?」
「ちょっと話せる?」
「仕事のこと?」
「いや、違う」
ふみのりは少し考えてから、台本を閉じた。
「いいよ」
二人で廊下に出る。
「最近、避けててごめん」
「……うん」
「俺たち、ちょっとひどかったと思う」
「そうだね」
ふみのりの返事は淡々としていた。
怒っているわけでもない。
責めているわけでもない。
ただ、もう期待していないような声だった。
「ふみは、俺たちと仲良くしたくない?」
「したいよ」
即答だった。
「本当は、ずっとしたい」
その言葉に相手の表情が曇る。
「でもさ、俺だけが仲良くしたいって思ってても意味ないじゃん」
「……ごめん」
「謝らなくていいよ。俺も悪かったし」
「でも、ふみは何も……」
「もういいって」
ふみのりは小さく笑った。
「俺、もう大丈夫だから」
その「大丈夫」が、一番大丈夫じゃないように聞こえた。
仕事が終わった夜。
メンバーたちはいつものように帰り支度をしていた。
「今日、ご飯どうする?」
「行こうよ!」
そんな会話が聞こえる。
ふみのりは荷物を肩にかけた。
「お疲れ様でした。先帰るね」
「あ、ふみ!」
呼び止められて振り返る。
「今日、一緒にご飯行かない?」
一瞬、ふみのりの表情が明るくなった。
でもすぐに、いつもの笑顔に戻る。
「え、いいの?」
「もちろん」
「……そっか」
少しの沈黙。
「ごめん、今日はやめとく」
「え?」
「ちょっと用事あるから」
本当は何も予定なんてなかった。
ただ、みんなとご飯を食べて、また冷たい態度を取られるのが怖かった。
「また誘ってね」
そう言って、ふみのりは楽屋を出た。
メンバーの一人が小さくつぶやく。
「……断られちゃった」
その言葉に、別のメンバーが答えた。
「俺たちがずっと断ってきたからじゃん」
誰も反論できなかった。