敦「結構、散っちゃいましたね…」
太「でもほら、あそこの池には沢山花が浮かんでいるよ」
敦「綺麗ですね」
太「ん?それは私のことかい?」
敦「違います。花です」
太「あー!そうかそうか、華のある素敵な人だと!」
呆れたようなため息をつかれた後、思いがけないことを言われた。
敦「確かに、太宰さんは華のある素敵な人ですよ」
…いざそう言われると、なんて返したらいいのか分からなくなる。
無言になってしまった私を見て、敦くんは笑った。
敦「ははっ、照れてるんですか?らしくない」
太「君こそ、私をおちょくるなんて、らしくないじゃないか」
上手く話を逸らした私に気づかず、そうですねと呟いた。
敦「そろそろ、帰りましょう」
ー、うん、そうだね。
…そう言いたかった。少し躊躇う。
もう少し…ここに居たいとも言えず、来年は見れそうにない桜の花びらと敦くんの横顔をあと少しだけ眺めていた。
太「本当に、綺麗だね」
敦くんは、こちらを見て言われてびっくりしたのだろう。
敦「僕が、ですか?」
太「違う、花だよ」
敦「太宰さんじゃないんですからそんなこと分かってますよ」
可笑しそうに笑う敦くん。
違う。そうじゃないんだ、敦くん、私は君のことが…。
太「…」
す、き、と声も出ず、半端に口だけが動いた。
敦「?太宰さん、何と」
太「ううん、なんでもないよ」
…それが私と敦くんの最初で最後の春になった。
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