🪐🕶続き
その夜、アビスがいないことをいいことにワースはベッドの上で花を吐き続けていた。
シーツの上に散らばった色とりどりの花々。
「いつまでこんなこと繰り返せばいいんだよ。」
このまま吐き続けて心も体も衰弱していくくらいならいっそのこと……。その方がランスも楽かもしれない。
いつになく弱気な自分の思考が怖くなり、勉強もそこそこに眠りについた。
次の日、また急な吐き気に襲われた。
近くに人がいないことを確認し、ワースはしゃがみこみ花を吐き出す。
地面に転がる花々は悔しくも綺麗だった。その花から目を逸らしたくて立ち上がり、その場を去ろうとするも足元がおぼつかず倒れそうになる。
倒れることを覚悟し目を瞑った瞬間、
「ワース!!」
走ってくる足音と共にランスの声が聞こえた。間一髪で支えられ、転倒は避けたもののランスの胸に倒れ込むような形になってしまった。
「大丈夫か?」
優しい声が上から降ってくる。
「あぁ、わりぃ……」
体を起こそうとするも、力が入らなく、動けない。そんなワースを抱きしめるようにランスはそっと腕を回す。
その温かさに、ランスも自分のことが好きなんじゃないか、両思いなんじゃないかと錯覚してしまう。そんなありえるはずのない甘い期待に耐えきれなくなったワースは苦しげに口を開く。
「義務感でやってるくせに、そんなに優しくするなよ。」
思わず口をついた言葉に空気が凍りつく。
しばらくの沈黙の後、ランスはゆっくりと口を開いた。
「貴様の病気が治らないのはそれが理由か。俺が義務感で貴様と付き合ってる?そんなわけないだろう。」
「じゃあなんでだよ。」
「貴様のことが好きだからに決まっている。」
きっぱりと言い切ったランスにワースは目を見開く。
「そもそも俺が、義務感で誰かと付き合う男に見えるか?」
「見えない……だけど……」
「だけどなんだ」
問い詰めるようなランスの声にワースは決まりが悪そうにつぶやく。
「……俺のことを好きになる理由なんてねぇし」
その言葉にランスは呆れたようにふぅ、と短く息を吐く。
「理由が必要か?」
「そりゃ、普通はそうだろ。」
ワースが視線を逸らながら言うと、ランスは少し考えこみ、それから静かに口を開いた。
「貴様の努力しているところ、諦めないところ、真っ直ぐなところ……」
ランスはワースを見つめながらひとつずつ、言葉を選ぶように続ける。
「……なところ、貴様の全てが好きだ。」
その言葉に恐る恐るワースはランスの方を見る。
ランスの瞳はまるで愛おしいものを見るかのように柔らかかった。
「……本当、なのか?」
「当然だ。」
その優しい声に、自然と涙がこぼれる。同時に、ワースの胸から何かが込み上げてくる感覚がした。
吐き気ではあるが、いつもとは違って苦しさはない。ワースは口元を抑えた。こぼれ落ちたのは、銀の百合。それはこの病気の終結を意味するもの。
「治ったな。」
「ようやく……。」
安堵したような声でワースはつぶやく。
「俺の気持ちはちゃんと伝わったか?」
「……ああ。伝わった。」
その言葉にランスは満足気に笑いそっとワースの額にキスを落とす。
「これからは、本当の恋人だ。」
「……そうだな。」
先程までの苦しさは消え、代わりに温かさが胸に残っている。
それは、ランスに愛されているという実感だった。
誤字脱字あったら教えてください🙏
コメント
9件
流石過ぎて逆に 怖いって、