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🪐🕶 クリスマス
ランワスしか書いてなくてごめんなさい。ただランワス書くの楽しいんです。いつか他カプもちゃんと書きます。
クリスマスの浮かれた雰囲気の中、ワースは1人部屋で勉強をしていた。
クリスマスにいい思い出なんてひとつもなかった。
むしろクリスマスが来る度に憂鬱な気持ちになる。
キラキラしたイルミネーション、大きなクリスマスツリー、ショーウィンドウに並ぶおもちゃの数々、見る度に苦しくて仕方がなかった。
『サンタはいい子にプレゼントを持ってくる。』
そうやって父に教えられてきた。けれど、ワースは1度もプレゼントを貰ったことがなかった。
今年こそは来てくれるんじゃないか。そんな淡い期待を抱いて眠りにつき目を覚ますも、枕元には何も無い。
その代わりに浴びせられるのは父の言葉。プレゼントがないのはワースがいい子にしていなかったから、価値がないから。
その言葉に幼いワースは傷ついた。
サンタの正体を知った今でもそれは苦い思い出だ。
同室のアビスはアドラの連中とクリスマスパーティーをするといって出ていった。
一応俺も誘われたが生憎俺はクリスマスが好きじゃないから辞退させてもらった。行ったところで楽しめる気がしなかった。
所詮偉い人の誕生日。何をそんなに騒ぐ必要があるのだろうか。
そう思いながらも、心の中では少し羨ましいと思ってしまう自分がいるのも事実だ。
余計なことを考えたくなくてワースはより一層勉強に専念した。
しばらくしてコンコン、とドアを叩く音がした。アビスが帰ってきた?それにしては早いな。なんて思いながらドアを開ける。
だが、そこに居たのはアビスじゃなかった。
「お前かよ。」
「あぁ、メリークリスマス。」
居たのはランスだった。コートにマフラーに手袋と妙に厚着をしている。どこかに行った帰りだろうか。
「何の用だ。」
「どうせ貴様は勉強でもしていたんだろう?」
「あぁ……まあ、」
「それならいい、出かけるぞ。準備しろ。」
「……は?」
急な発言に驚いているワースにランスは言葉を続ける。
「外は寒い。暖かい格好にしろ。」
「いや、俺は勉強が……」
「今日くらいいいだろう。早く準備をしろ。待ってる。」
少々強引とも取られるようなランスの行動にため息をつきながらも、渋々とコートを羽織り、マフラーを巻く。準備を終えて戻ると、ランスは満足そうに頷いた。
「準備はできたが、どこに行くんだ?」
「クリスマスマーケットだ。」
ワースは初めてのクリスマスマーケットに少しワクワクしていた。並んだたくさんの屋台、楽しそうにはしゃぐ子供たち、不本意ながらも少しわくわくしてしまう自分がいる。
「……意外と人が多いんだな。」
「クリスマスだからな。」
「くだらねぇ。」
「そんなこと言うな。ほら、あれを見ろ。」
ランスが指を指したのはひとつの屋台。ホットワインの屋台だ。
「俺ら未成年だから飲めねぇけど」
「ノンアルコールもある。クリスマスマーケットでは定番のものだ。せっかくだ。買ってやろう。」
ランスはワースの返事を待たずに屋台へむかい、しばらくしてふたつのカップをもって戻ってきた。
「ほら」
「俺は別に……」
「受け取れ」
ランスにカップを押し付けられ、ワースは渋々と受け取る。
カップからたちのぼる湯気を見ながらそっと口をつける。
「あちっ……!」
「ゆっくり飲め」
ワースはふーふーと少し冷ましたあともう一度口をつける。
「……悪くない」
「だろう?」
ランスは笑いながら、自分のカップを片手に歩き出した。
「他にも面白いものは沢山あるから気になったものがあれば言え。」
「あぁ」
それからしばらくクリスマスマーケットを回った。
途中でチュロスやプレッツェルをつまみながら一周周り、クリスマスツリーのそばのベンチに2人で腰を下ろした。
「どうだ?なかなかいいだろう?」
「思ったより。」
クリスマスの雰囲気に今でも苦手意識はあるが、それを忘れるほどにこいつといる時間は楽しかった。
それだけ俺はこいつのことが好きなんだと思うとどこか悔しさも感じるが、心の内では満たされている自分がいる。
「貴様、クリスマスが好きではなかっただろう?」
いきなり核心をつくような言葉を言われ少しどきっとする。
「……なんでわかったんだよ。」
「表情を見ていればな。」
「そーかよ。……まあ、小さい頃いろいろあってな。」
ワースは冬の澄んだ青空を見ながら言う。見ているとなんだか自分の悩みがちっぽけに思えてきて、つい言葉がこぼれる。
「俺さ……一回もクリスマスプレゼント貰ったことないんだ。」
「一回も?」
「そう、サンタクロースって言う存在は知っていたけど、いい子じゃないからって貰ったことなかったな。」
乾いた笑いがこぼれる。
「それなのに兄さんは毎年貰っていたからより一層劣等感を感じた。たかがクリスマスなのにな。」
ワースの独白にしばらく黙り込んでいたランスはしばらくして口を開く。
「それがクリスマスが好きじゃない理由か?」
「まあな。」
少し寂しげな横顔にやるせなさを感じる。少しの沈黙の後ランスは口を開く。
「ワース」
「なんだ?」
「受けとってくれるか?」
そう言ってランスがカバンから取り出したのはプレゼントボックス。それをワースに手渡す。ワースは困惑したように渡されたプレゼントボックスを見る。
「開けていいぞ。」
促されるままにワースはゆっくり紐を解き、蓋を開く。そこにあったのは空色の綺麗な羽根ペンだった。どこかランスを彷彿とさせるデザインだ。
「羽根ペン……?」
「ああ、使っている羽根ペンが少しくたびれているように感じたからな。」
「……そっか、ありがとう。」
ワースのふわっとした笑みに引き込まれそうになるが慌てて現実に戻る。
「貴様はちゃんと頑張っている。貴様の父が言うようないい子になれなくても俺にとっては貴様はちゃんと『いい子』だ。」
そういうとワースはどこかくすぐったそうに笑う。
「なんだよその言い方……あ、」
空から白くてふわふわしたものがふってくる。雪だ。はらはらと儚く舞い落ちる雪に2人してしばらく見とれる。
雪が降ったことですっかり冷え込んだ空気にワースは身を縮こませる。
「……さみぃ。」
「だから暖かくしていけと言っただろう?」
寒い、と手を擦り合わせているワースを見てランスは手袋を片方渡す。
「え、これじゃお前が寒いだろ。」
「問題ない、ほら。」
そう言ってランスは片方の手をワースと繋ぐ。
「な、なにして……」
「こうしたら暖かいだろう?」
「……まぁ、」
繋いだランスの手は暖かくてワースは気づかれないようにそっと握り返す。
クリスマスはそんなに悪いものではないのかもしれない。そう思えたのはきっと、隣にいるこいつのおかげだろう。
「来年も一緒に行こうな。」
「考えとく。」
気のない返事をしながらもワースの口は少し微笑んでいる。
来年も、きっと一緒に。