この世界には、本来の性別とは別に【第二の性】と呼ばれる性別がある。
第二の性には、Ω・β・αの3つの性があり、多くの人が属している性はβだ。
αは生まれつき高い知能や技能を持っていることが多く、優遇されやすい。
また、Ωと〝番〟という特別な関係になることができる。
対するΩは、〝ヒート〟と呼ばれる発情期が原因で、多くの人に見下される。
βはそのどちらでもない。
俺はΩだった。
軍内でそれを知っているのはぺ神だけだ。
何度も「みんなにも言ったほうがいい」と言われたが、俺は断固拒否している。
もちろん、みんなのことは信頼しているし、第二の性で差別するようなやつらじゃないことも分かっている。
迷惑をかけたくないのだ。
この軍にはαが多い。Ωだと知られて気を使われたくないし、気を使わせたくもない。
だから俺は、自分がΩであることをみんなに黙っていた。
ut「入るで〜」
大先生の声を聞いてハッとする。
気がつけば監視カメラの見張りの交代時間だったらしい。
rbr「おつかれさん…あ、このコーラ飲んでええよ」
ut「え、まじ?ありがとう」
ぽいっとコーラを大先生に投げると、いたぁ、という情けない声が聞こえてくる。
ut「投げやんといてよぉ……」
rbr「ごめんごめんw」
ほな後よろしゅう、と言って席を立とうとすると、ぐらりと視界が歪む。
rbr「あ」
そのまま前方に倒れ込むが、大先生が咄嗟に支えてくれた。
ut「ぅわ、ロボロ?大丈夫…?体調悪かったん?」
rbr「いや…すまん、ただの立ち眩み」
ut「一応しんぺいさんのとこ行っときや?」
rbr「ん、そうするわ」
そう言って、ひらひらと手を降って管理室を後にした。
この感じはヒートだろう。大先生がβでよかった。
ペ神に抑制剤を貰いに行かなければならないが、長時間モニターを見ていたので少し疲れた。
部屋で少しだけ寝てから医務室に行けばいいだろう。
そう思って先に部屋に行くことにした…が。
rbr「ぁ、これアカンかも」
ここから医務室に行くには、遠回りしなければならない。なら部屋に着いてからインカムで呼んだ方が安全だろう。
rbr「ッはぁ…♡」
身体が火照って、息が荒くなってくる。
ほぼ転がるように部屋に入り、ポケットのインカムに手を伸ばす。
rbr「…‥…ん?あれ?」
だが、インカムが見当たらない。
管理室に置いてきてしまったらしい。
(やばい、どうしよう)
こんな状態で廊下に出るのは危険だし、ヒートは収まってくれないし。
rbr「ふぅ〜〜〜…ッ♡」
いよいよフェルモンが強くなり、びくびくと小さな刺激で快楽を感じるようになってきた。
rbr「ぁ…♡はぁ〜ッ…♡♡」
ついアソコに手が伸びるが、ぐっと我慢して解決策を探す。
どうにか周囲にバレずにペ神に連絡を…
rbr「ぁひ…♡♡」
……こんな状態で何ができる。歩くこともままならないのに。
期待できるとしたら、大先生が俺が医務室に行ったか確認を取ってくれることだろう。
心配性な大先生ならば、きっとペ神に尋ねてくれるはずだ。
だが、それまでの時間どうする?
ペ神が来た時にひとりでナカを弄っているのは…恥ずかしい。
かといってこのまま何もしないのは辛い。
rbr「ッ♡ぁッ…♡」
頼む大先生、早くしてくれ…ッ……
zm「ロボロ…?」
ふと上の方で声がする。この声はゾムだ。
……待てよ。
ゾムはαじゃなかったか?
zm「だいせんせぇ〜あしょぼ〜!!」
ダクトから飛び降りて、管理室の中へ飛び込む。
ut「……ゾムさん、ドアから、普通に、入ってきてな?そのうち俺間違えて撃つよ?」
大先生の手には、普段は内ポケットに仕舞われている銃が握られている。
観光客だと思ったのだろう。現に、心臓の鼓動を抑えるために左胸を軽く押さえている。
zm「ろくに訓練してへん大先生の弾はさすがに当たらんわw」
ut「ひどい!!」
そう言う大先生の傍らにコーラが置かれている。
きっとロボロが置いていったのだろう。
zm「ロボロは?来るとき見やへんかったけど」
ut「あ、ロボロ見てきてくれへん?体調悪そうやってん」
zm「体調悪い?ロボロが?」
スケジュールや体調管理をしっかりしているロボロに限って、体調不良だなんて珍しい。
ut「やからしんぺいさんのとこ行けって言うてんけど…」
zm「ふーん、俺が見てきてやろうじゃないの」
ut「まじ?ほな頼むわ」
ひょいっと先程出てきたダクト口を掴み、腕力を使ってするりと中に入る。
ut「またダクトから行くんね…」
zm「普通に歩くより早いんやもん」
ut「言うとくけどそれゾムだけやからな?」
そうかやろか、と思い考えてみるが、たしかに今までダクト内での鬼ごっこ(内ゲバ)では追いつかれた記憶がない。
zm「で、ロボロどこおんの?」
ut「多分部屋やわ。医務室連行したって」
zm「りょーかーい」
慣れた手つきでスルスルとダクト内を這い、ロボロの部屋に向かう。
部屋が近づくにつれ、甘ったるい…女が付ける香水に似た匂いがしてくる。
俺は元々こういう匂いは苦手なのだが、不思議とこの匂いには引き寄せられる。
__頭がくらくらする気がする。
これはだめだと思い、慌てて口元を布で覆う。
zm「なんのにおいや…ッ?」
なんとなく身体が辛い。何か抑えなければならない〝欲求〟を感じる。
やっとの思いでロボロの部屋の上に到着する。
ダクトから顔を覗いてみると、出入口付近で辛そうにうずくまっているロボロを見つける。
同時により一層甘い匂いが濃くなる。
zm「ロボロ…?」
rbr「ぁ…♡♡」
布で口元を覆っているにも関わらず、甘い匂いはぐるぐると渦巻いて、俺の頭を支配していく。
気がつけば、俺はロボロを床に押し倒していた。
rbr「ぁ…♡♡」
ヒート中、付近にαがいる場合、Ωはより強いと欲求を感じフェルモンを辺りに撒き散らす。
恐らくフェルモンに当てられているのだろう。ゾムが覚束ない足取りでこちらに向かってくる。
rbr「ぞ、む…♡」
あかん、と言いたいが言葉が出ない。
αのフェルモンが出ているのだろう。頭にぼんやりと霧がかかって、これでいいと思ってしまう。
そのまま床に押し倒され、ゾムは荒い息を吐きながら首筋をなぞる。
rbr「ひぅ…ッ♡」
ゾムの顔が首元に近づく。
彼はそこでハッとしたような表情をした後、自身の手を噛んだ。
どうやら、痛みで理性を抑え込もうとしているようだ。
rbr「ぞ「喋んな」
ふ〜ッ♡と、欲求に耐えるために息を吐く声が聞こえる。
zm「よゆう、ないねん…ッ♡」
きっと抑えるので精一杯なのだろう。
だがもうこちらも限界が近い。
意識が呑まれる前にこれだけは伝えなくては。
rbr「ぞむ」
zm「おまえ…ッ」
rbr「おれが、なにゆうても」
迷惑になりたくないから
rbr「かまんとって」
意識が途切れる。
rbr「かまんとって」
ロボロはそう言うと、一瞬身動きを止め、すぐに俺にすり寄ってくる。
zm「ッ…ろぼ、ろ……♡」
rbr「ぞ、む♡ぁ…♡たすけ…ッ♡」
Ωのヒート。
月に1度、強いフェルモンを撒き散らし、αに性行為や番になることを求める。
知識としてはもちろん知っているが、抑制剤を飲んでいない状態で遭遇したのは初めてだ。
____________________βだと言っていたのに。
そんなに、俺は頼りなかったのだろうか。
…今は、そんなことを考えている暇はない。
どうにかしてこの状況をなんとかしなければならない。
だが、Ωのフェルモンは濃くなるばかりで、俺自身も歯止めが効かない。
rbr「おねがいッ…やか、らッ……♡おく、うずいて…くるし、い♡」
zm「はぁッ…♡♡」
犯したい。噛みたい。自分のものにしたい…♡
ついに手は口から離れ、自身のベルトに手をかける。
zm「ッ…♡」
あかん、とめやな。とまれ俺。とまってくれ。
ロボロに嫌われたくないのに。
zm「ろ、ぼろ…ッごめ…♡」
意識が呑まれる。
zm「は…ろぼろ…ッ?♡」
rbr「い゛ッ♡♡♡ん゛、ひ…ッ♡」
zm「きもちええなぁ?♡」
rbr「んッ♡きもち、ええ……♡♡」
きもちええ。
ずっとこのまま
おれのΩで、
おれでしかイけやんくなって、
こどももつくって…
あれ
なんかちがう
しあわせやのに
rbr「ん…♡ぞむ……?♡♡」
とろんとした目でロボロが見つめてくる。
だいじょうぶ
これでええんや
だいすきなろぼろと、ずっといっしょ
ほかのαにはわたさない
rbr「ぞむ、」
rbr「うなじ、かんで…ッ?♡」
rbr「おれ、ずっといっしょにおりたい」
ろぼろもおんなし気持ち
zm「ええよ♡」
おれの______
〝かまんとって〟
zm「ッ…」
だめだ。
呑まれるな。
噛むな、抑えろ。
噛むのだけはだめだ。
欲求に必死に抵抗する。だが、すぐに思考は乱れていく。
(耐えてくれ、誰かに見つかるまで…!!)
ps「ゾム!!ストップ、落ち着け!!!」
薄れる意識の中で、妙に慌ただしい足音と怒声が聞こえてくる。
よかった。
ロボロ、俺、守ったで…
ut「…あ、インカム置き忘れてる」
デスクの端っこにちょこんと置かれたそれには、小さなハムスターのキーホルダーが付いている。
どうやらロボロのものらしい。
インカムは持っていないと、いざという時連絡が取れず不便だ。届けてあげるべきだろう。
だが今自分は監視カメラの見張り。さすがにこれはサボれない。
ut「ゾムに取りに来てもらおかな」
数十分前に体調の悪そうなロボロの様子見に行かせたゾムは、帰ってきていない。
ならゾムにインカムから取りに来いと伝えれば来てくれるはずだ。
そう考え、慣れた手つきでゾムのインカムに繋ぐ。
ut「ゾム……ん?」
少し聞き取りにくいが、何か喋っているようだ。
少し音量をあげ、集中して声を聞く。
zm『は…ろぼろ…ッ?♡』
rbr『い゛ッ♡♡♡ん゛、ひ…ッ♡』
zm『きもちええなぁ?♡』
rbr『んッ♡きもち、ええ……♡♡』
………え、ヤってる…?
何?こいつらそういう関係やったんか??
そんな考えが浮かぶが、そういう関係にしては何か…何かちがう。
ロボロの拙くなにか不自然な返答。
どこかから感じる、ゾムの狂気的な執着感。
まるで、Ωとαみたいな____
いや、ありえない。
ゾムはαだが、ロボロはβなはずだ。
だが、昼間っからえっちをするほど元気なら、先程の立ち眩みは何だったんだ?
そもそもロボロは本当にβだったのか?
月に一度、少しだけ食欲が減ったり、ミスが増えたりすることがなかったか。
抑制剤で抑えているだけなんじゃないのか。
もしも、もしもこれが偶然じゃないとすれば。
この推理が当たっているとしたら______________________
ut「っしんぺいさん!!」
少し焦った大先生の声が、インカムから響く。
誰か倒れたのかと思い、慌てて返事をすると『ロボロは……Ωなんか?』と尋ねられる。
予想しなかった質問に戸惑い、声をつまらせてしまう。
ロボロは隠したがっているようだったし、俺が言うべきではないだろう。
ps「いや『もし』
『ロボロが、Ωなんやったら…やばい、かも』
やばい?
ps「………どういうこと?」
ut『さっき、ゾムのインカムに繋げたら…その、なんか…おかしい、気がして』
ps「…詳しく聞かせてくれるかな」
俺は軍医だから、基本的に訓練などには参加しない。
普段は見るからにキツそうな訓練に参加しなくていいことを嬉しく思うが、今だけは訓練をしておけばよかったと思う。
ps「は、はぁッ…あ〜くるしい……歳かな」
大先生の話を聞くと、二人はかなりまずい状態にあることがわかった。
全力でロボロの部屋まで走っているが、体力のない年寄りには辛い。
そして漂ってくるΩのフェルモンの匂い。
(間に合え…!!)
がっとドアノブを掴み、勢いよく引っ張る。
中はβの俺でもくらくらするような甘ったるい匂いで満たされていた。
出入り口からそう離れていない場所で、白濁液にまみれたロボロと、手から血を流したゾムが見える。
ps「ゾム!!ストップ、落ち着け!!!」
自分から出たと思えない大声。自分の思っているよりも焦っていたのかもしれない。
滑り込むように部屋に入り、ゾムを上から押さえつける。
よかった。まだ噛んでない。
ps「ゾム、これ。もう少しだけ抑えてて」
そっと彼の口元にハンカチを差し出す。
zm「ふ〜ッ♡はぁッ…♡」
ps「上手、そのままいてね」
一度ゾムの元を離れ、ロボロの方へ向かう。
ps「ロボロ、俺のこと分かる?」
rbr「ぺ、し…?♡」
ps「抑制剤飲める?」
rbr「ぞむ…♡」
これはだめだな、と判断し液体状の抑制剤を無理矢理飲ませる。
rbr「っげほッゲホゲホ、ッ」
ps「ごめんね、すぐ効いてくるから待ってて」
zm「ぺしん」
ゾムが声を上げる。
ps「どうしたの?」
zm「おれ、ろぼろ、かんでない…よな………?」
ps「うん、噛んでないよ」
ゾムはふにゃりと微笑んで、
zm「よかった…」
と零した。
Ωのフェルモンに当てられたαが自制するのは、相当な精神力が必要だ。
抑制剤を飲んでいない状態で噛まずにいられたのは、きっとゾムが必死にαとしての本能を抑えたからだろう。
番がいるほうが、Ωは安定する。医者としては、やはり番を作ることを勧めてしまう。
だが、ロボロが納得していないのに番を作るのは、俺として許せない。その点、ゾムの行動は正しい。
ps「よく抑えたね…ありがとう」
ゾムは安心したように目を閉じた。
あれから数時間後、ようやくロボロが目覚めた。
彼は俺が隣にいることに気づくと、「さっきはすまんかった」と謝る。
慌てて「いや、その、俺の方こそ…スマン」と返すが、彼の表情は曇ったままだ。
zm「…で、なんで俺等に言ってくれやんかったん」
俺が尋ねると、ロボロは気まずそうに目をそらす。
rbr「いや…別にお前らを信じてへんかったわけじゃなくて……」
じゃあ何だというのか。
rbr「その…迷惑になると思って」
zm「……え?」
言葉の意味が分からず困惑する。
rbr「気ぃ使わせたくなかってん……」
迷惑。気を使わせる。
…そんなふうに思っていたのか………
zm「別に俺等は迷惑やって思わへんし、お前が今までどうりに接してほしいって言うならそうするで」
rbr「でも…」
zm「Ωやろうが何やろうが関係ないやろ、仲間なんやから」
布の間から見えるロボロの瞳が揺れる。
rbr「…ありがとう」
zm「じゃ、ダッツ奢りな」
rbr「は?!なんでやねん?!おい待てや!!」
思っていたより元気そうなので、そのまま逃げる。
ぎゃーぎゃー言いながら逃げていたら、ペ神から医務室に戻るようにという過去一怖いアナウンスが流れた。
スクロールお疲れ様でした!
オメガバースいつか書こうと思っていたので有り難いですね…
ご期待には答えられましたでしょうか。
バドエンにしようか悩んだんですけど、リクエストでバドエンはアカンかとと思いやめました。
インカム置き忘れの伏線回収は私的に気持ちよかったですね…!
なぜか大先生はいつでもいい感じのポジションにいるので、めちゃめちゃ書きやすいです。
ちゅうか気がつけば♡2000超えてるぅ?!
やばい踊らねば(?)
ありがとうございます😭
次回作もリクエストになります。気が向いたらまた見に来てくださいませ!
コメント
13件
だいせんせっ ガチいい立ち位置おる…
あ…ぅ…が…ぇ…っ…(最高すぎて知能無くなった
初コメ失礼します! リクエストしてもいいですか?