コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
男の子と別れたあと、特にすることもなかった私はベンチに腰掛け、満開に咲く百合の花を眺めていた。
まだこの場所が残っていたことに驚き、複雑な気持ちになった。
そういえば、あの男の子の笑い方…。誰に似ていたんだろう。大事な記憶が無くなったみたいに苦しくも悲しくもなくなった。
それからは、ぼーっと空を眺めたり百合の花を眺めたりしていた。
気がつくと辺りは暗くなっており、慌ててすぐ近くに置いたはずの自転車を見た。
なかった。自転車がなかった。
途端に恐ろしいことを考えた。私がぼーっとしている間に誰かが自転車を盗んだのだろうか。だって男の子と別れたときはまだあったのだ。そう考えるしかほかはない。それに私は自転車の鍵をかけ忘れていた。どうせ近くに置くし、すぐに帰るつもりだったから。
もしかしたらと思って公園の隅々を探したけれど、自転車が見つかることはなかった。
仕方なく歩いて家に帰り、お母さんが帰宅するまでリビングでテレビを見ることにした。
テレビをつけるとそこには太平洋戦争の、戦時中の国民の生活の様子が流れていた。
『ぜいたくは敵だ!』『欲しがりません勝つまでは』などといったスローガンの看板が街中に立てかけてある。
私はふと、これらを見たことがある、と思った。社会科見学で見たのかな…?と思ったが確かあそこは『特攻資料館』だ。そんなものはなかった気がする。
そこで一気に鳥肌が立った。
「特攻…資料館…?」
口に出して呟いてみる。別にそれ自体はどうでもいい。ただ、『特攻』という言葉に妙に聞き覚えがあった。
そのとき、キーンと頭が痛くなった。私は咄嗟に違和感を覚えた。きっと何か大事なことを忘れているのだ。絶対に忘れてはいけないことを、私は今確実に忘れてしまっているのだ。そう直感的に思った。
でもどんなに頑張っても思い出せない。悔しくなって必死に思い出そうとすると頭が痛くなる。
もうどうすればいいのか分からず、ただただ泣きじゃくるしかなかった。