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モフモフ洞窟探検隊たちは、前衛に猫と犬が2匹ずつ、中衛に猫と犬が3匹ずつ、後衛に大人猫、その後ろの待機組としてムツキという順で魔物気配のする方を向く。
「ぐるるるるる……」
魔物は大型の狼だった。負の魔力がある一定の量と濃度になった時に現れるのが魔物である。正の魔力から生まれる妖精族とは対の存在だ。
負の魔力が魔物になるのには理由がある。溜め込まれた負の魔力がそこに留まり続けることは悪影響が大きいため、ユウが魔物になるように設定しているのである。魔物の発生は、魔物に誰かが傷付けられることもあるが、気付かずに放置は世界によりひどい歪みができやすくなるため、避けなければいけなかった。
「来るぞ……」
「にゃ! にゃにゃ!?」
前衛の猫の1匹が前足に魔力を込めて、狼を殴ろうとするも、狼は難なくそれを避ける。
「があっ!」
「わん!」
攻撃をかわされた猫に狼の牙が届こうとする際に、犬がとっさに身体全体に魔力を纏って狼の攻撃を受けた。狼の牙は犬の肉にまで辿り着かず、魔力で覆われた毛に牙が通らなかった。
「攻撃の猫と防御の犬か……本当にケットとクーみたいな役割分担だな」
ムツキはケットとクー、アルのトライフォーメーションを思い出す。アルが素早さで敵をかく乱しつつ、クーが敵の攻撃を確実に受け止め、ケットが圧倒的な攻撃力で敵を仕留めるという王道の構成だった。
しかし、彼はモフモフが3匹で一緒に仲良く戦うのはとてもかわいいなと記憶していただけだった。
「にゃっふ……フシャッ!」
先ほどとは別の前衛の猫が狼の横から鋭いネコパンチを繰り出す。
「があっ……ぐるるるる……」
狼が一瞬ひるんだ瞬間に、狼の左右から同時にさらに鋭いネコパンチが連続で繰り出される。
「にゃーお、にゃ、にゃ、にゃ、にゃ、にゃ、にゃ、にゃ、にゃ、にゃ、にゃ、にゃ、にゃ、にゃ、にゃ、にゃ、にゃ、にゃ、にゃ、にゃ、にゃ、にゃ、にゃ、にゃ、にゃ、にゃ! にゃあああっ!」
2匹の猫の鳴き声は全く同じように重なる。
「……ほ……いや、ニャんと百裂拳か? 前足だから、百裂脚? あ、にく……いや、ちょっと、待て。肉球とその言葉は組合せたくないな……いろいろな意味で……」
ムツキが名称に悩んでいる間に、中衛の猫と犬の魔法が一斉に繰り出される。
「にゃあ!」
「ばうっ!」
「がああああっ!」
彼らの【マジックアロー】のようだが、不完全なのか、矢というよりも太い針に見える。しかし、威力は申し分なく、6匹分の【マジックアロー】は全て狼に突き刺さると狼は倒れる。狼の身体から負の魔力が霧散して、消えていく。
「お、倒したな! だが、まだ安心するなよ? 今の騒ぎに気付いて、まだ来るぞ!」
「ぐるるる……」
「ぐるるるる……」
次に来たのもやはり狼型の魔物で、2体が前方からやってきた。
「にゃ! にゃ、にゃ! にゃー、にゃ!」
「にゃ!」
「わん!」
大人猫が後衛から中衛になり、代わりに中衛の猫と犬が1匹ずつ後衛になって、ムツキの方を向く。
「大人猫も何を言っているかは分からないが、隊列が変わったな……。なるほど、こっちを向いているということは、バックアタックも警戒しているのかな? 俺がいるけど、俺がいなくても大丈夫なように、か。中々に頼もしいな。……少しは頼ってくれてもいいんだけどな」
ムツキは後ろを警戒してじぃーっと見ている猫と犬をじーっと見つめていた。すると、猫と犬が恥ずかしくなったのか、真剣な表情から少しだけ笑みを浮かべるようになる。まるで「ちょっと……見つめ過ぎじゃないですか」と彼に言っているような表情だった。
「……なんだこれ、かわいいな。これに満点以外を付ける奴がいたら、30分……いや、1時間は説教できるぞ、これ」
妖精たちの真剣さとムツキの真剣さでは大きな乖離があった。一方は戦闘、一方はモフモフ観賞である。
「にゃ! にゃ!」
「にゃーっ! にゃあ!」
ムツキがそのようなやり取りをしている間に、大人猫の指示の下、2体を倒し終わっていた。基本的な戦闘方法は変えてないようだったが、オーバーキルにならないように正確に2体の魔物を処理したようだ。
「お疲れさん。一応、気配は消えたと思うぞ」
「にゃ!」
「ばうっ!」
「やり切った感の出てるドヤ顔が本当にかわいいな」
猫も犬も全員がムツキに近寄って、満足げに自慢し始めている。
「それじゃ……探検……続く……一匹……魔力……見えた……言ってる……」
大人猫がそう伝えると、ムツキは驚きと感心と喜びを混ぜたような表情になる。
「ほう。じゃあ、もう後は最短ルートだな。戦闘のおかげで感覚が研ぎ澄まされたおかげかもしれないな」
その後、その魔力が見えるようになったという猫の先導でずんずんと進んでいく。ムツキが見えている魔力の道筋とまったく同じようなので、これなら心配ないなと確信した。その後は小さなネズミ型の魔物などを数匹見つけたり、遅めの昼食としてお弁当を食べたりしていたが、大きな問題もなく最下層へとたどり着いた。
「お楽しみタイムが折り返しになったか……。さて、久々の最下層だな」
ムツキが少し残念そうにぼやいている。その前を妖精たちが進んでおり、突如、天井から何かがぶら下がって落ちてくる。
「ふしゅる……ふしゅ……」
それは毒蛇だった。緑と紫のまだら模様をした蛇はいかにも毒々しく、妖精たちをジロリと見つめている。
「わん、わん!」
「あはは、落ち着け。毒蛇だが、ここの蛇は無闇に攻撃してこない」
犬の一匹が警戒して鳴き始めるも、ムツキがやんわりとなだめた。
「ふしゅ……」
「わん」
蛇が何かを確認し終えて満足したのか戻っていくので、犬は一安心とばかりに1回鳴く。
「さて、そこが泉だ」
「にゃー」
ムツキが指し示した方向に泉があった。ただし、泉と呼ぶには大きすぎる地底湖のようなものだった。彼はここが最下層だとケットに言われて信じているが、泉の奥や中がどうなっているかは分からない。
「しかし……まあ、いいか」
ムツキは自分の知る何かとこの世界の至る所が何か違うと思っているが、そもそも異世界に前の世界の知識など意味があるのか、と思い直し、何も言わないことにした。彼はその直後、大きな気配を感じる。
「おやおやおや……そういえば、今日になったとさっき連絡を受けた気もするねえ……仲間たちに伝え忘れていたよ……」
「ニドか」
「おひさしゅう……ムツキ様……」
その声の正体は、毒蛇の王、黒き蛇竜とも呼ばれるニドだった。