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聖次
910
#大正時代
井川奎
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「あ……。」
「……。」
ドアが開いた瞬間、二人同時に目を見開いた。
同じ高校で何度も見かけたことのある人物。
学校一の人気者――神代蒼真。
まさか、父の親友の息子が神代くんだったなんて。
「……白石。」
先に口を開いたのは蒼真だった。
「神代……くん。」
「知り合いなの?」
神代さんのお母さんが不思議そうに聞く。
「同じ学校です。」
私が答えると、蒼真は小さくため息をついた。
「……そう。」
その反応は、驚いているというより、少し面倒そうだった。
「蒼真、今日から紬ちゃんが半年間うちで暮らすのよ。」
「……は?」
今度こそ、蒼真が固まる。
「聞いてない。」
「今言ったじゃない。」
「そういうことじゃなくて。」
珍しく困ったような顔をしている。
でも、私だって同じ気持ちだ。
まさか学校で有名な神代くんと同居するなんて、想像もしていなかった。
「急な話でごめんな、蒼真くん。」
父が頭を下げる。
すると蒼真は一瞬だけ黙り込み、私を見た。
「……別に。」
それだけ言うと、くるりと背を向ける。
「部屋いる。」
「ちょっと、蒼真!」
呼び止める声も聞かず、二階へ上がっていってしまった。
……やっぱり迷惑だったんだ。
少しだけ胸がチクリとした。
「ごめんね、紬ちゃん。」
神代さんのお母さんが申し訳なさそうに笑う。
「いえ……。」
「蒼真、ああ見えて人見知りなの。」
人見知り……?
学校では女子に囲まれているイメージしかないけど。
でも、これから半年も一緒に暮らすんだ。
ちゃんと仲良くなれるのかな。
そんな不安を抱えたまま、その日は終わった。
◇◇◇
夜。
荷物の整理を終え、私はベッドに寝転んでいた。
知らない部屋。
知らない天井。
今日からここが、私の家になる。
……まだ全然実感がない。
コンコン。
突然、ドアがノックされた。
「は、はい!」
「……入る。」
ドアが開き、入ってきたのは蒼真だった。
「あ……。」
「これ。」
差し出されたのは、家の鍵。
「母さんが渡しとけって。」
「ありがとう。」
鍵を受け取ると、沈黙が流れる。
なんだか気まずい。
蒼真も特に話すことがないのか、すぐにドアへ向かう。
「あの……!」
思わず声をかけた。
蒼真が振り返る。
「何。」
「これから半年、よろしくお願いします。」
ぺこりと頭を下げる。
すると、蒼真は少しだけ目を見開いた。
数秒の沈黙。
そして――。
「……こちらこそ。」
小さく返事をした。
「あ、それと。」
「?」
「学校では普通にして。」
「普通?」
「同居のこと、誰にも言わないで。」
「どうして?」
「面倒だから。」
即答だった。
たしかに、学校一の人気者と同居しているなんて知られたら、すごいことになりそう。
「……分かった。」
「助かる。」
蒼真は小さくうなずいた。
そして、ドアを開けながら言う。
「お互い、気を遣わなくていいから。」
「え?」
「ただの同居人。それで。」
その言葉を残して、蒼真は部屋を出ていった。
バタン。
静かになった部屋。
私は手の中の鍵を見つめる。
――ただの同居人。
そうだよね。
今日会ったばかりなんだから。
それなのに。
なぜか少しだけ、その言葉が寂しく感じた。
その頃――。
自分の部屋へ戻った蒼真は、ベッドに腰を下ろしていた。
「……同居、か。」
正直、面倒だと思った。
家に他人がいるなんて落ち着かない。
しかも相手は、同じ学校の女子。
……やりにくい。
でも。
『これから半年、よろしくお願いします。』
頭を下げた紬の姿が、不思議と頭から離れない。
「……変なやつ。」
そう呟いて、窓の外を見た。
まだこの時の二人は知らない。
“ただの同居人”だった距離が、少しずつ変わっていくことを――。
コメント
1件
第2話、すごく良かったです!😭💕 まさかの学校の人気者・神代くんと同居スタート…!しかも「ただの同居人」「面倒だから誰にも言わないで」ってドライな距離感から始まるの、逆にこれからどう変わっていくのか超気になる…!! 紬ちゃんの「寂しく感じた」のと、最後の蒼真sideで「変なやつ」って思いつつ頭から離れないの、確実にフラグ立ってるやつですやん…!!!次の話が待ちきれない〜!!🌸